キミの声が聴きたくて
彼女と俺の出会いは、SNS上だった。と言っても、サイトで公開している情報はあくまでも、仮ネームのようなものであり、強制的に本名で登録するものではない。そこに書かれている情報のみと、文字だけのメッセージで人柄を判断するしかないのだ。本人の写真も果たしてそれが本当に実在するもので、その人かどうかの判断が出来ないのがサイト上の出会いの欠点と言えるだろう。
恋人いない歴生まれた時からいない俺にとっては、そこに載せられている彼女が本当かどうかを知る術はない。それに関しては、友人知人からもかなり止められた。それでも俺は、メッセージのやり取りを2年以上も続けた。それが実り、初めて彼女と声のやり取りをすることが叶った。
果たして彼女は本当の彼女なのだろうか。そう思いつつも、緊張した指タッチで電話番号を押した。
「……も、もしもし――」
「あ、はい。ほ、本当に男性だったんですね」
「いやっ、それは俺もそう思ってました。は、はは……はぁ~~良かった」
「くすっ……お互い様ですね。あの、声は初めて聞きますけどそれでも何だか、安心感があります。登録写真の通りですか? そうだとしたら想像通りです」
「そ、そうです。じゃ、じゃあ、キミも? その、透き通った高い声がすごく綺麗で、イ、イメージ通りです。その声、好きです」
「えっ? あ、ど、どうもです」
思わず好きと言ってしまったけど、声だけなのにどうしてこうも素直に気持ちを伝えてしまったんだろうか。彼女だって登録写真がそうとは限らないのに。それに、会うわけでもなければ会うことを前提としたやり取りじゃないのに。それなのに、どうして俺はここまで彼女のことが気になるんだろう。
「えと、いや、声を聞いているだけなのに、一瞬で好きになっちゃいました。それこそ今まで長いことメッセージでやり取りしてましたけど、それがあっという間に飛び越えてしまったと言いますか……その、こんなこと言いだしてすみません」
「ふふっ、いいえ。やっぱり想像していた通りの、安心感を与えてくれる声の方で嬉しいです。実際にお会いすることは難しいですけれど、良かったら月一でもいいのでまたお電話ください」
「も、もちろんです! お、俺もキミの声が聴きたいです。だから、また来月にかけます」
お互いの生活がある。それについてはお互い聞いてもいないし、話してもいない。素性なんて分からないことだ。会えない人なのに、それなのに俺は彼女の声を聞いて好きになった。彼女が出来たことのない俺が声だけ聴いた彼女に初めての恋をした。
会えない、会いたいけど会えない。それでも俺は、キミの声が聴きたい。話すたびに恋を感じて、好きになってしまう。会えないけど……俺はキミの声を聴くたびに初恋をする――。