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プロローグ

新作はじめました。

「お帰りなさいませ! ご主人様!」


 ここまでは、いい。


「おいしくなる魔法をかけますよ~♪」


 なんでやねん。と思いつつここは全力でやる。


 ――勤めていたメイドカフェが改装後、急に経営方針を変えた。それまでは割と地味というか、メイド服の女の子がただお給仕をするだけの喫茶店に毛の生えた程度のだったのが……一気にアイドル路線に変更したのだ。制服もセミロングのものからミニ丈になり、おまじないやライブなんてのもやりはじめた。開店当初から働いている身とすると戸惑いを隠せない。


「杏奈、君だけだよ。オプションの成績悪いの」


 そんな風にオーナーから言われて、怒るより脱力してしまった。それまで大好きなメイド服を着て仕事が出来ることに喜びを感じていたのだけれど……。

 私の考えてるおもてなしはもっとご主人様・お嬢様方にくつろいで貰うべく奉仕する事なのだ。おかげで新しく入った若いメイドちゃん達ともどうもそりが合わない。


「もう潮時なのかな……年齢も年齢だし……」


 私、重森杏奈は今年27歳。20歳からずっと県内唯一のメイド喫茶「アフタヌーンジェリー」でメイドとして勤務してきた。


「こんな地方じゃ、他にメイド喫茶もないし……」


 そんな私に降りかかる現実。27歳、フリーター。ふんわりとしたメイド服を脱いだら私に残る肩書きはそれだけだ。実家暮らしで、彼氏もいない。地味~な地味~な独身女。


「つ、詰んでる……」


 私は職場を出ると、とぼとぼと帰宅の途につく。足取りは今日も重たい。この県で一番の繁華街を出て、バス停に向かう。


「上京……したらなんとかなるかしら。でもなー」


 以前、観光がてら訪れた秋葉原にはメイドカフェは山ほどあった。私の理想の職場もあの中にはあるのかもしれない。けれど、27歳。されど27歳。冒険するには躊躇する。地元への愛着もある。


「ありゃ、なんだ!?」


 考え事にふけっていた私は、その声にハッと顔を上げた。駅前のロータリーに入ってきたバスの動きがおかしい。蛇行して猛スピードで走っている。なに? なに? 故障!?


「おい! 逃げろ!」


 まずい。目の前の女の子はバスが迫ってきているというのに硬直している。私は思わずその手を引っ張った。


「ふんっ、ぐうっ!」

「きゃあっ」


 女としてはどうかと思う声がでたけど、間一髪! 暴走バスは私達の横をすり抜けて行き、茂みに突っ込んでようやく止まった。


「危なかったわね! 怪我は無い?」


 そう言って、力の限りに引っ張って地面に転がしてしまった女の子の元に駆け寄ろう、とした時。


 ――ズルッ。


「へっ!?」


 足下に何か柔らかいモノが触れた。私の体重でそれは潰れると、前に進もうとしていた私との推進力だか摩擦力だか……とにかく見事に、私はそれでスッ転んだ。倒れ行く私の視界の端に移ったのは大量のキウイだった。


 えええっ、なんでキウイ!? こういうのはバナナじゃないの!? そう思った直後、私の頭に衝撃が走り……――意識を失った。




――アンナ……


 誰かに呼ばれている。大きいとも小さいとも形容できないいくつかの声に私は意識を目覚めさせた。しかし体は全く動かない。


――この世の理に触れた代償が、こんなに大きいとは


 やっぱりこれ、死ぬの? ええ……


――これでは我々の計画が……これでは全てが無駄に


 計画? 計画ってなあに? 無駄って? 私、無駄死になの?


――そればかりは私にもどうにもなりません。


 ええ? とりあえず頭が痛いからこれをなんとかして欲しい……。


――私が痛みを取ることは出来ませんが、貴女が痛みを取ることが出来るようにはなります


 うん、何でもいいわ。とにかく酷い痛みだもの。うーん、それにしてももうちょっとメイドをやりたかったなぁ、こんな事なら思い切って上京して、理想のお店に勤めればよかった!


――メイド? なぜ……


 ええ……そんな引くところかなぁ。ところであなた達は誰?


――私は……


 聞こえない……ああ……なんだか眠たくなってきた……。


続きます

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