2話
「ん? 聖剣じゃろ」
汚い老人はさも当然のようにそう言い放った。
「は? 聖剣? どれが?」
大量の剣の方向を指さすと、老人は疑問を抱いたような目をしながら、
「だから全部」
と、答えた。
「いや、おかしいだろ。聖剣っていうのは唯一無二の存在だろ、普通。これじゃ何の有り難みもないじゃないか」
「よくわからんが……、お前さん初等学校にも通っとらんのか?」
老人の話によると今では一番有名な神話、そして歴史として語り継がれている戦争があったらしい。同じ種族だというのに何らかの諍いが原因で(それは伝えられてない)二つに分裂した挙げ句に醜い戦争をした。
しかし、その勝敗さえも、誰にも知られていない。重要なのはこの戦争が原因で人間は二つに別れて今もいがみ合っているということ。
聖剣は今よりも発達していた文明が作り上げた武器であり、その数は世界上に一億以上存在するとといわれている。だから、どこの村にでも大量の聖剣が保管してあるが、大抵の人間はそれを使用することが出来ない。
戦争の終結とともに文明は崩壊し、生き残った者達で今の世界が創り出されたといわれている。
「こんなの常識じゃ。赤ん坊でも知っとるわい」
「へ、へー。まぁ、俺よく学校サボってたしね、うん」
老人曰くこの世界の常識らしいので、とりあえず誤魔化す。醜い戦争だの神話だの普遍的で一介の高校生である俺には全く実感が湧かないのだが、とにかく老人含めこの世界の人間にとって聖剣はごく当たり前の存在らしい。
「じいさん。あんたの話だと聖剣はありふれているが、それを扱える人間はそう多くは存在しないんだろ? やっぱり俺ってばかつて人類を終焉の炎から救い出した英雄の生まれ変わりだったりするの?」
大真面目な顔でこんな質問をするのは発火するほど恥ずかしい。しかし、今までパッとしない人生を送ってきた俺にとってこの身に感じる独特な優越感はまさに初めての感覚であり、もどかしいような誇らしいような複雑な心境にさせるのである。
「いや、聖剣を抜ける人間は珍しくない。この村のワシみたいな老人含めた野郎のうち半分が聖剣抜けるんじゃしな。しかし、お前さんは握チン力を見ることができる。これは並大抵の人間にはできんことじゃ。もしかすれば……」
「もしかすれば?」
「お前さんの祖先は古代英傑NO.240〜危うくも美しき我らが女神シュワルツワイル・ラプラス・アリエス様を見守る会〜NO.10654位には入っとったのかもしれんのう……」