プロローグ
16歳の少年、紫藤海人は童貞である。紫藤海人には彼女がいない。
笑顔が眩しい幼なじみも、知的でクールな巨乳の先輩もいない。
言わば、少年は空虚だった。
誰に問いかけても、ほぼ全員が少年のことを陰気臭いと罵るだろう。しかし、少年には誇りがあった。
他の追随を許さない、決して譲れないものがあった。そう、それこそが握チン力である。
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俺は、そのときひたすらに困惑していた。いや、困惑などという生易しいものではない。
それはひたすらな驚愕だった。きっと、どれほど俗世と乖離したと自負した聖人であっても、同じ感情を胸中に抱くだろう。
ここ、今俺が他人の邪魔になりながら立ち止まっている歩道に、普通ではあり得ないものが異色の存在感を放っていた。何ということのない、ありふれた歩道に、煌めく剣がぶっ刺さっていたのである。これだけなら、まだ有り得ないということはない、想像できる範疇かもしれない。
しかし、誰一人それに興味を示さないのである。まばらではあるものの決して少なくはない人通りの中で、この剣に注目しているのは俺一人だけだった。それでも、いや、まだ想像の範疇かもしれない。
しかし、決して無視できない事実がそこにあった。そう、思いっきりすり抜けているのである。
ぶっさ刺さっている剣が。人々はなんということもないようにその剣をすり抜けながら歩いていく。
なんだこれは。そのとき、俺の脳裏にはまだ幼い頃に夢見た芳しい妄想が映っていた。その夢では、幼い俺が煌めく聖剣を豪快に振るっていた。……引き抜こう。俺は、静かにそう決意した。
しかし、敵は透過能力を持っている。一体どうすればいいのかとしばらく硬化して考えていたが、ついにその剣に手をかざしてみた。
(……あれ、普通に触られる……?)
その剣を引き抜いた瞬間、俺の足下には確かに突然大穴が開き、そのまま暗闇に落っこちていってしまった。