かしこい捨てられ子猫。ちょいオヤジ
ちょっと間抜けな野良猫を見ていて思いつきました。
一応ここのジャンル分けだと童話? かと思ったので童話に入れましたけど、あまり子供にお見せできないのでR15です。
夕方にはまだ遠い、良く晴れた午後。
ささやかな繁華街の、とある路地。
人目を避けて荷物を置く小さな少年がおりました。
「ごめんね……」
涙を浮かべた少年が開く段ボール箱には、小さな子猫が一匹。
白黒ぶち模様のかわいいかわいい、小さな子猫。
何もわからない子猫は少年を見上げて、ニャアと鳴きます。
「ごめんね……」
もう一度謝る少年。大粒の涙をこぼしながら、子猫を撫でました。
首を傾げた子猫は、またニャアと鳴きます。
少年は震える指先で掴んだペンで、箱に「ひろってください」と書きます。
そして見上げる子猫をもう一度撫でると、走って去っていきました。
子猫はしばらく待っていました。
誰も来ません。
ニャアと鳴いてみました。
誰も来ません。
少年の去っていった方を立って眺めました。
誰も来ません。
ずっと見ていました。
誰も来ません。
ニャア。
猫は独りぼっちでした。
よっこいしょと箱から出た子猫は少年が書いた文字を見た。
泣きながら震える手で書いた拙い文字はかろうじて「ひろってください」と読めた。
はあ、とため息をついた子猫はやれやれと首を振り、少年が落としていったペンを取る。
流ちょうな人間文字で子猫の考え付く注意書きを書き連ねていく。
「頭いいです。トイレすぐ覚えます」
「躾済み。柱で爪とぎしません」
「エサは簡単。カリカリで文句言いません」
「散歩不要。犬より手軽です」
「無駄鳴きしません。こっそりマンションで飼えます」
それから首をかしげてちょっと考えると、売り文句を書き足した。
「かわいい子猫、家に一匹いると疲れたあなたの癒しになります」
「一人暮らしがさみしいあなたに」
「かわいいしぐさにちょっとワクワク。無垢な瞳にあなたドキドキ」
一回ペンにキャップをかぶせてじっくり眺め、ウンウンとうなずく子猫。それからふと思いついて、もう一度キャップを取る。
「かわいい女の子なら一緒の布団でOKです。猫ベッドいりません」
書き終わった箱をまた眺め、もう一言書き足す。
「きれいなお姉さんも同衾可」
二ヘラと笑ってよだれを垂らした子猫は段ボール箱を表通りに引っ張り出し、どっこいせと中へ入りなおした。
これはとある街角の午後のお話。
現実には浅知恵がかわいい猫が多いですね。