009 クルセタの町(7月6日アーレス)
クルセタの町は、ネルフィア王国を横に貫く主要街道から少し離れたクルセタ森林にある人口3千人ほどの町である。
1キロ四方を古い城壁に囲まれた町は、昔からセリュー子爵家が治めている。
この町はもともと教会の福祉施設であったが、少しずつ人が増えていきこの町を形成していったそうである。セリュー子爵の先祖はもともとその教会の施設を管理する司祭だという。
また、この町の北には死者の森という広大な森が広がっており、この町の魔封石の範囲である5キロメートルを超えると、魔物が多い危険地帯である。
「伯父上、戻りました」
アーレスは、自宅を出て10時頃にセリュー子爵邸についた。
クルセタの町は、となり街が襲撃せれた事により、警戒が高まっていた。また、宿泊施設が少ない町なので、避難している人が城壁の外にまであふれていた。
「無事だったか、アーレス」
伯父であるセリュー子爵は、執務室で守備隊長のレアドと打合せをしていたが、アーレスの顔を見てそう答えた。
「はい。昨日の夜に戻ってきました。それにしても結構避難してきていますね」
「ああ。昨日の夕方頃から増えてきたよ。爆発が収まったから、避難をしてきたそうだ。ところで、テレステの様子はどうだった?」
セリュー子爵はそう尋ねる。伯父は、アーレスが、一昨日のエレナ姫のお披露目の儀を見に行っていた事を知っている。
「伯父上、申し訳ございません。最初の爆発で怪我してしまってそのまま逃げてきたので・・・」
「・・・そうか」
伯父は、新たな情報が聞けるのではないかと期待していたのだろう。あからさまに落胆する。いや、どちらかと言うと、救助活動などをせず、テレステの街から逃げてきたアーレスに対して落胆しているのだろう。
エレナが魔法で治してしまったので、現在のアーレスは、いたって健康体である。「怪我して逃げました」は、言い訳にしか聞こえなかったのであろう。
「その、何か情報はありませんか?荷物をテレステに置いてきてしまったので・・・」
だが、情報を得るために、ここで引き下がるわけにもいかず、アーレスは、申し訳なさそうに聞いた。
「今は爆発も収まって落ち着いているらしい。だが、街の被害は甚大で、テレジオ伯爵が亡くなったという噂もある。今シリウスに様子を見に行かせているので、早ければ昼頃には戻ってくるだろうから、話を聞いてから、荷物を取りに行くか決めるといい」
シリウスというのは、セリュー子爵の三男でアーレスの従兄である。今は、この町の守備隊員をやっている。
「ありがとうございます・・・伯父上、何か手伝えることはありませんか?」
何か情報だけ聞くのは悪く思いアーレスはそう聞いた。
「手伝えることならいっぱいあるぞ」
待っていたとばかり、伯父上は、髭をさすりながら言ったのであった。
結局、その後、夕方までアーレスは解放されることはなかった。
避難してきた人の身元確認をはじめ、毛布などの物資の配給、テントの設置などであっという間に時間が過ぎた。
だが、そのおかげで色々と情報も聞けたし、不審人物がいないかどうかも自然な形で調査することが出来た。
まず、テレステの街の爆発は一昨日のみで終わったそうである。だが、爆発による怪我人や死者がかなり出たらしく、東の砦から王国兵が来て、治安活動を行っているそうである。避難してきた人の多くは、また爆発が起きるかもしれないという不安から避難を決めたらしい。
次に、テレジオ伯爵が亡くなったのではないかという話だが、確実な話ではなく、テレステの街の警備兵がそう話しているのを聞いたそうである。
後は、エレナ姫に関してだが、東の砦に移ったという事である。馬車で移動する姫を見たという人が何人かいた。おそらく、エレナの従姉だというレティスの事であろう。かなりショックを受けた様子だったらしいが、特に怪我をした様子ではなかったという事なのでエレナには良い報告が出来そうである。
ちなみに、結局、従兄のシリウスは、今日は帰ってこなかった。帰ってくれば、もう少し詳しい情報が聞けたのであろうが仕方がない。おそらく、テレステの街で色々、手伝わされているのであろう。
「また、明日も頼むぞ」
アーレスと同じように避難者の対応をしていたレアド隊長に言われて、アーレスは、苦笑を浮かべて「わかりました」と、答えた。
さすがにこの状況で「明日は家でゆっくりします」とも言えない。
アーレスは、暗くなる前に、町の北西にある自宅へ続く山道へと向かうのであった。




