008 アーレス邸にて(7月5日アーレス)
アーレスが、お風呂から上がると、リビングで3人が談笑していた。マリアが、イスに座るエレナの髪を梳かしている。エレナは、少し大きめの綿製の上着とスカートをはいている。従姉のフィーヌが昔泊りに来た時に着ていたものである。もう何年も前になるが、あの時フィーヌは18歳であったから、今のエレナにとっては大きめでも仕方がない。ただ、上着が大きめのため胸元からは、下着と首飾りが覗いている。
「てゆうと。お嬢ちゃんはお姫様なのかい」
ジェラルドが、驚いたように言う。どうやら、自分がネルフィア王国の第2王女であると名乗ったのであろう。
「その・・・まだ色々、至らないところがありますが、頑張りますのでよろしくお願いします」
エレナは、そう言って、頭を下げた。ジェラルドにそう宣言しても、仕方ないように思えたが、エレナのやる気な顔を見ると、応援したくなってしまう。
「でも、いくらお姫様って言ってもパンツもはけないんじゃねぇ」
マリアが、からかう様にそう言った。相手が姫様であろうと容赦がない。年の功というやつだろうか。
「あうー・・・ああいう結ぶタイプの下着は初めてだったんで・・・」
彼女は、恥ずかしそうに言う。
「でも、その、そこも頑張るので、色々教えてください」
彼女は、また頭を下げるのであった。
「わかったよ。ここにいる間は、色々教えてあげるよ」
マリアは、嬉しそうにそう言った。
「それでどうするんだい?」
4人でテーブルを囲んで、今日初めての温かい食事が終わりかけた時、マリアが聞いてきた。エレナは、マリアの料理に感動したらしく、美味しそうに食べている。
「とりあえず、一度、伯父上の所に行ってみるつもりだよ」
アーレスは答える。伯父は、クルセタの領主なので、ある程度情報を掴んでいるはずである。
エレナは、食べるのをやめ、自分も行きたそうに反応するが、アーレスの目に制されて言葉を飲み込んだ。
「もしエレナが狙われているのであれば、下手に連れて歩くのは危険だからな。エレナ。明日はお留守番してマリアのお手伝いをしてくれ」
そういって隣に座っているエレナの頭をなでる。エレナは、頭をなでられて頬を赤らめた。その様子を見てジェンキンス夫妻は二人そろってにやにやしている。
「て、言うわけだから、姫様をよろしく頼むよ。色々教えてやるんだろ?」
アーレスは、そんな二人にそう言った。
食事が終わった後、エレナがウトウトし始めたので、マリアが上に連れて行った。
「さっきの話からすると身内の中に敵がいるんじゃないかのう?」
エレナが上に行くのを確認して、ジェラルドが口を開いた。エレナに聞かせるには酷だと考えたのであろう。ジェラルドは、領主であった祖父のもとで衛士をやっていたので、そういった事にも鼻が利くのである。
そう、狙われているのが彼女であるなら、彼女の近くに敵がいるのは間違いない。
ただ、彼女が狙われていたにしては、作戦が杜撰な気がする。また、エレナを襲った男たちが、間抜けすぎる気がする。
もっとも、直前に、エレナがお披露目の儀に参加しない事を決めたため、敵の作戦も狂ってしまったという可能性を否定できない。
「その可能性は高いと思います」
だが、いずれにしても、お披露目の儀に合わせて爆発事件が起こっているのである、彼女の周りの人が関係していている可能性は高い。
「でも、情報が少ないので・・・」
「ああ、こういう時は、安全が確認されるまで、彼女の存在を隠すべきじゃな。で、その間に情報をまとめて敵を探し出すのが基本じゃな」
ジェラルドは、アーレスにとって父親代わりであり剣の師匠でもある。二人の時は、普段とは違う厳しい顔を見せる。
「だがお前は、彼女の敵を探せる立場にはいないからな。無難なのは、信頼できる人に彼女を引き渡す事だろう・・・」
アーレスは、頷く。自分の考えていた事とほぼ同じである。場合によっては、王都リストンまで行くつもりである。
「まあ、このまま、一生、ここで彼女の面倒をお前が見てやるという選択肢もあるがな」
ジェラルドは、にやりと笑った。どうやら、ジェラルドも彼女の事を気に入ったようである。
「面倒を見るといっても、相手は、お姫様だし、あの通り見た目より子供だからな」
と、アーレスは苦笑する。
「でも、姫様はまんざらでもないように見えるがな」
ジェラルドは、なんとかそっちの方の話にしたいようである。考えてみたら、アーレスがこの家に女性を連れてきたのは、従姉のフィーヌを除いては初めてである。だから色々気を遣わせてしまっているのかもしれない。
「それは、彼女が、物語の勇者様とか白馬の王子様だとかに憧れているだけで、そういうのとは違うと思うぞ」
そう、彼女の場合は、たまたま助けてくれたアーレスに、物語の勇者様とかを重ねているだけの感じがする。
「相手の気持ちは関係ないと思うがな・・・欲しいものは、得ようとしなければ、何も得られないんじゃぞ」
「欲しいもの」って、確かに彼女はかわいい。だが、世間知らずで危なっかしいので、一緒にいる間だけでも守ってやりたい、と思っているだけである。そして、一緒にいる間だけでも、色々教えてやって、今後、彼女が自分で身を守れるようにしてあげたい。言わば、親心みたいな感じである。
「そもそもお前は、せっかく高等士官学校まで行ったのに王国士官の試験に落ちたくらいで、仕事もせずに・・・ブラブラしおって」
黙っているアーレスを見て、ジェラルドはいつもの小言を言ってくる。帰ってくるたびに言われるのである。「学校を出たんだから、中央はだめでも地方でなら仕官できるはずだ。そして、ちゃんと仕事をすれば結婚相手も見つかるはずだ」と。ジェラルドにとっては、冒険者というのはブラブラしている人という認識である。
この話になると、ジェラルドの話は長くなる。覚悟を決めなくてはいけない。
「また、言ってるのかい」
と、助け舟が入る。マリアが、上から下りてきたのである。
「今日は、お客様が来ているんだからやめときなさいな」
そうマリアに言われて、ジェラルドは話をやめる。マリアには頭が上がらないのである。
「それにしても、エレナさんは良い娘だねぇ。素直でかわいくて、うちの娘にしたいぐらいだよ」
マリアは、そう話を始めると、ジェラルドと似たようなことを再びアーレスに話すのであった。
アーレスは、明日のために早く寝ようと思ったが、そうさせてもらえないのだった。




