004 伯爵邸別邸にて(7月4日エレナ)
エレナは、窓から外を眺めた。オラルの山々が近くに見える事に感動を覚える。
晴れた日に王城からはるか遠くに見えるだけだった山々がこんなに近くに見えるのである。それだけで幸せを覚え自然と笑顔がこぼれてしまう。
「明後日には、また、移動しなきゃいけないんだから、大人しく寝てなさい」
エレナは、レティスに言われた言葉を思いだす。一昨日、テレステの街についたのはいいのだが、初めての旅の疲労のためか熱を出して、昨日は一日中、寝込んでいたのである。
一日休んで熱は引いたのだが、護衛騎士であり従姉妹のレティスにそう言われて、お披露目の儀の参加を取りやめたのである。
そのエレナより3歳年上の従姉妹は、今頃、エレナの代わりにお披露目の儀にでる準備をしているはずである。自分と同じようにあまり人前に出ることが得意でないレティスには悪いことをしたと思う。
お披露目の儀自体、エレナには面倒なことであった。
ただ、長年の夢であった城の外に出ることができるということで、父王の申し出を受けたのである。
主目的が、城の外に出ること。その為の手段が、お披露目の儀を行うことである。
その代償として、各地でお披露目の儀を行った後、結婚相手を選ぶと父王に約束している。
つまり、エレナにとって、お披露目の儀は、最初で最後になるかもしれない城の外で冒険を楽しむ機会なのである。
小さいころから体が弱かったエレナは、今まで城の外に出たことがなかった。先生によると魔力が高い者は、その魔力に心技体が追いつくまでは病気にかかり易くなることがあるとの事である。
小さい頃は部屋にいる時間が多く、かわいそうに思った周りの人は、旅先での話をしてくれたり、勇者の冒険譚を読み聞かせたりしてくれたものである。
そのせいもあってか、エレナはずっと旅にあこがれていたのである。
そーっと、部屋のドアを開ける。
エレナは、せっかくなので少し外を歩きたいと思った。
部屋の外には、守護騎士の誰かが見張っているはずであった。そう人数は多くないはずである。なぜなら、侍女を含め守護騎士は、お披露目の儀のために別の場所に行っているからである。
新人守護騎士のベニートなら、外に出て散歩することを許してくれるかもしれない。エレナは、一番言いくるめやすい守護騎士の事を思い浮かべる。
だが、予想に反して、廊下には人がいなかった。それどころか、下の階に降りても人はいなかったのである。
全部の部屋を見て回ったわけでないので、建物内には誰かいるのであろうが、チャンスである。
(少しくらい庭に出ても大丈夫よね)
エレナは、念のため、エントランスに置いてあった自分の剣を持って、扉を開けた。
外にも誰もいなかった。この世から人が消えてしまったのではないかと思える。
エレナが滞在している伯爵邸別邸は、テレステの街の北東の少し高台にある。この地区には、教会や貴族の邸宅などがあり、どの屋敷も庭園がきれいに整備されている。
エレナは、悪いことをしているという後ろめたさを感じながら、自分の足で庭へと一歩、歩き始めたのである。




