003 川のほとりにて(7月5日アーレス)
テレステの街とクルセタの町を結ぶ道は、主に2つある。
エルネス川沿いを行く街道は、それなりに整備されており、馬車での通行も可能である。が、東の砦を経由するので、移動距離は長くなる。こちらの街道は、川の名前をとりエルネス街道と呼ばれている。
もう一方の街道は、森の中を行く街道で、ところどころに馬車が通れない場所があるが、移動はほぼ直線であるため15キロ程である。こちらはクルセタ街道と呼ばれている。
二つの街道は、馬車などを使う場合はエルネス街道を、徒歩の場合はクルセタ街道を使うのが一般である。
クルセタ街道は、森の中を行く街道であるが、特に起伏が激しいというわけでもなかった。ただ、ところどころに小川が道を遮っていたり、小さな村に向かう道や獣道が多少あるので、慣れない人が通ると道を間違えて時間がかかってしまったりするのである。
(寝過ごした)
それが、目を覚ましたアーレスが最初に思ったことだった。
昨日、テレステの街を離れることにしたアーレスは、少女を背負ったまま、15キロ程北にあるクルセタの町を目指すことにした。敵兵が街にいるとわかった以上、あのまま留まっても危険と考えたからである。本当であれば、テレステの街を出ずに彼女の家で匿ってもらおうと思ったのだが、彼女は、相当ショックを受けており、話が聞ける状態ではなかった。どうも、彼女もテレステの住人では無いようでった。
そこで、最終的に、15キロ程離れたところにあるクルセタの町に向かうことにしたのである。そこには、自宅があるので一番安全である。
だが、テレステの街を出て、クルセタ街道を1時間くらい歩いたところで、アーレスは、頭や肩の痛みに耐えられなくなった。そこで、敵が通るかもしれない街道を外れて、少し休むことにしたのである。
そう、少し休むつもりだったのである。
が、目が覚めた時には、翌日の昼近くになってしまっていた。高い位置にある太陽の光が大樹の葉の隙間からさしこむ。
地べたで、よくこんなに長時間眠れたものだ。自分に感心しながら体を起こそうとした。
「う・・・うーん」
すぐ近くでかわいらしい声がする。アーレスの左手を枕にするようにして昨日助けた少女の頭があった。
彼女は、目をこすりながら体を起こす。
昨日、血で汚れていた顔は、川で洗ったのだろう、既にきれいになっていた。やはり、すごくかわいい子である。彼女が起き上がると、胸元にペンダントが揺れる・・・。
「!」
彼女の格好を見てアーレスは慌てて顔をそらす。彼女は下着姿であった。彼女も、慌てて胸元を手で隠し、両膝を閉じるようにして上半身を起こす。
「少し待ってください・・・。服を着るので」
彼女は、そう言うと手で大事なところを隠しながら小走りで少し離れたところに移動した。横目で見ると太陽の光があたるところに他の下着と他の服が置いてあるのが見える。どうやら、彼女は、先に起きて小川の水で服や体を洗っていたようである。
「もう見ても大丈夫です」
5分ほど彼女は服と格闘してそう言った。
アーレスは彼女の方を見た。上等な生地のシャツとスカートである。
が、シャツは、破れてしまっていてとめることができない様で左手でおさえている。
まだ完全に乾ききってはいないようで、少し着心地が悪そうにしている。
アーレスも、起き上がる。
ぐっすり眠ったおかげか頭の痛みなどはなくなっていた・・・。
「あ、治しておきました。私、これでも回復魔法を習っていますので」
肩の痛みが無いことを不思議そうに思い、肩を回すアーレスに対して、彼女は、得意げに目を輝かせて言う。
昨日、聞こえなかった耳もちゃんと聞こえるし、左肩の痛みもなくなってしっかりと動かせた。彼女は嘘を言っていないようである。
「ありがとう。それにしてもすごいな」
魔法は、資質がある者しか使えない技術である。
しかも、ここはテレステの街から数キロしか離れていない。テレステの街には、魔法を封印する魔封石が設置されている。ここは、半径15キロ程あったはずのテレステの魔封石の影響下なのである。そこで魔法を発動させられるのは相当の能力の持ち主であるということである。
「あーまだ名前名乗ってなかったな。アーレスだ。よろしく」
アーレスは、彼女の名前をまだ聞いていないことを思い出しそう言って手を差し出した。
「エレナと申します。不束者ですがよろしくおねがいします」
彼女、エレナはそう言って両手でアーレスの手を握りかえした。不束者の使い方が間違っている気がしたが、そこはあえて突っ込まなかった。
「昨日は、危ないところを助けていただいてありがとうございました」
顔を真っ赤にしてエレナは頭を下げる。
また、白い胸が見えそうになり、アーレスは慌てて目をそらす。
「気にしなくていい。たまたま、だ」
そう、たまたまである。あの場にいたことが、何かの縁でしかない。
「俺はこのままクルセタという町まで行くつもりだけど、エレナさんはどうします?」
アーレスは改めて聞く。昨日は、あんな状態であまり話せなかったため彼女の事について改めて聞くことにした。
「その・・・迷惑じゃなければ・・・ずっとアーレス様とご一緒できればと思います・・・」
エレナは、なぜか顔を赤らめながら言う。
そして、少し悩んだ様に沈黙する。が、意を決したようにアーレスの顔を見て言葉を出す。
「わ・・・私。この国の姫です」
彼女は、そう言ったのであった。




