002 神殿前にて(7月4日アーレス)
どこをどう逃げたのかわからないが、アーレスは、人ごみに流され、いつの間にか貴族の邸宅や高級住宅街がある少し高台の地区に来ていた。
爆発で鼓膜が破れてしまったのか、右の耳が聞こえない。
あと、広場で吹き飛ばされた影響で、左腕も動かない。
今はまだ痛みをさほど感じなかったが、骨が折れているかもしれなかった。
ここらへんは、今のところ被害が出ていない様である。
既に周りには、人影はなく、近くの住人は皆、建物の中に隠れているのであろう。
後ろを振り返ってみると、街のあちこちで煙が上がっている。
その時、遠くで爆発音が響き建物から煙が上がった。商業地区のほうである。
とりあえず、神殿の中に入れてもらえれば、休めるはずである。
この地区には教会の神殿があり、そこには知り合いがいた。
今いるかはわからないが、いなくても、神殿なら逃げてきた者を追い返すことはしないだろう。
本当であったら、一度、宿屋に戻るべきだったのであろう。
なぜなら、今日はこの街で宿泊する予定であった為、剣や他の荷物は宿に置きっぱなしにしていた。今、荷物袋に入っているのは、明日の食事にしようかと思って広場に行く前に購入したパンと干し肉、それに水筒、小銭、ギルド証くらいである。
だが、爆発がおきている方に戻るほどの勇気はなかった。
今から戻るにしても、泊まっている宿は今爆発が起きた商業地区のほうにあり、ここからだとかなり遠い。
襲撃者の目的もわからないのであれば、やはり、いったんどこかに避難して様子を見るのが一番であろう。
襲撃者といえば、爆発はあちこちで起きているが、襲撃者の姿は今のところ見ていない。
街のどこかで、戦闘が起こっているのかもしれないが、少なくとも自分の周りでは起こっていなかった。
その時、近くの建物で爆発が起きた。
石造りの建物が崩れるのが見える。
ついてないことに、その建物は、目的地としていた教会の神殿である。
「・・・」
アーレスは、慌てて神殿から離れようと移動する。わざわざ来たのだが、武器もなく左手が動かない状態で敵と鉢合わせしたら、大変である。
「きゃ!やめなさい!」
突然、声が響いた。若い女性の声である。
何事かと、アーレスは声が聞こえた方に、移動する。
見てみると、神殿横の小道のところで3人の男が、1人の少女を襲っているところだった。
黒っぽい鎧を着た男たちは、転んでいる少女との距離を詰めていた。
少女は、尻もちをつきながら、逃げようと後ずさっている。少女の白いシャツは破れてはだけてしまっており、胸のふくらみがあらわになってしまっている。
3人の男は卑猥なことを言いながら、さらに少女を追うようにゆっくり近づいていた。
男たちは、逆側を向いているためこちらには、こちらには全く気づいていない。その男たちとアーレスの間には、むきだしの長剣が落ちている。おそらく少女の剣であろう。
その時、少女と目が合った。長いダークブロンドの髪にまだ幼さが残る顔、その顔は恐怖と涙で引きつらせていたが、かなりかわいい娘である。
明らかに少女はこちらに気づき目で助けを求めている。
次の瞬間、走っていた。落ちている剣を拾い一番近い男が振り向く前に剣を突き刺す。
その剣は予想以上にすんなり男の背中から腹を貫いていた。
剣を引き抜いた瞬間、血しぶきが飛び、かわいそうなことに少女の顔を赤く染めた。
他の男たちは、突然あらわれた男に対応しようと振り返ろうとした。
だが、既に遅い。次の瞬間他の二人も絶命した。
右手だけしか使えないから苦戦するかとも思ったが、剣が業物であったらしく、難なく倒すことができた。
「大丈夫か」
少女は顔に男の血しぶきを浴びたせいで、更に恐怖でゆがむ顔をアーレスに向けた。見てみると、恐怖のあまり失禁しまっている。
「ここは危険だ。早くうちに帰りな」
アーレスは、そう言って少女に手を差し出す。少女は、手を取って起きようとするが、体に力が入らず起きあがれないようである
「た・・・助けてください・・・」
少女は、消え入りそうな声で言う。助けてやりたいが、自分も満身創痍である。今は不意打ちだから倒せたが、次に敵が来たら勝てるかはわからない。
「一緒に連れてってください・・・」
立ち上がれない少女は、懇願するように言う。そんな顔をされると置いていくわけにもいかなくなる。
「あー、ちゃんとお礼はしてもらうからな」
アーレスは、剣を鞘に納め、体に結び付けると、少女の前に座り、少女を背負う。
少女の服が濡れていて汚いとかは考えてはいられなかった。
少女は思ったより軽かった。少女もしっかり両手で抱き着いてきたので、そのまま神殿から離れるように歩き出した。
神殿の方で再び爆発が起きたのはその時であった。




