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嗤う狐は、運命の叛逆者  作者: 黄昏の罅
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其ノ壱:魔王は魔王であるが故に魔王である。












剣と魔法の異世界。異界の勇者達がいて、敵対する魔王が存在する、地球とは全く異なる理の世界。




全ての元凶、終わらない破壊の根源。魔王のたね

それは、魔王が生まれながらにしてその身に宿す《意思》。それは魔王の人格だ。


数百年に一度、魔族の中から胤を持つ者が唐突に産まれ、覚醒するとその者が新たな魔王となる。

それの正体とは魔王の風格であり、威厳であり、その能力の根源であり、魔王が魔王たる所以である。





胤を持たざる者はどれだけその能力で高みに登ろうとも、魔王になる事は無い。魔王を超えられることは無い。

何故ならば、魔族とは遠き太古の闇の世界にて魔王により生み出された生命だからだ。


魔族を構成する血肉は魔王のその血から生み出されたものであり全てのものにおいて魔王に逆らうことは不可能。

魔王のその声一つで消失するのだから。


それ故に魔族にとって魔王とは確実なる王で、君主で、頂点である。逆らうことはおろか、意見すら許されずに目障りだから、そんな理由で殺しても魔王は許される。

何故ならば、その者が魔王だから。咎めることすら罪なのだから。





魔王は、生まれながらにして魔王であり、その在り方故に魔王なのだ。魔王がその意識を確実たるものにする、つまりは胤の開花。胤を開花させる条件は幾つかある。


その中でもメインなのが親や兄や妹などの一親等が全員死ぬこと。だからこそ、魔王は生まれたその時に自らの意思で両親兄弟を殺して、胤を開花させる。


そして今までの種族の姿から新種であり、唯一である種に進化する。胤が宿った種によって進化して辿り着くものも変化するので、それらは総じて『魔王種』と呼ばれた。





魔王種は名乗らない限り分からない。見た目だけでは特異個体なだけなのだから。街に混ざっていても誰も気が付けない。

魔王がそんな手間のかかる事をするはずがないが、可能性があればそれだけで民は恐怖に打ち震える。



そして両親兄弟を殺して開花させた後に宣言を立てることで、魔王が現れたことが魔界全土に知れ渡るのだ。


胤が開花してないうちに見つかってしまえば、奪う為に身体中を切り裂かれて内蔵を引き摺り出される。


もはや本能と言ってもいい恐怖感情で親を殺す。これが魔王が唯一恐怖を感じる時と言われている。

この他には、後にも先にも魔王が恐怖を感じることは無い。

その命散る決戦の時さえも。




魔王の胤とは何なのか。そもそも、魔王とは何故生まれるのか。幾千年繰り返してきた歴史。

表向き全ての魔王は勇者達により倒され、平穏を取り戻す。そして、また次の魔王に備える。終わりはあるのだろうか。







それを知る者は存在しない。

いや、初代魔王である『御戯津神ミケツカミ』のみの知ることだ。




何も無い空白から突如生まれ世界を呑み込んだ、最強であり、最凶であり、史上最悪であった魔王の真祖オリジン




永き時間の中で姿形に性別はおろか正しい名前さえももう知るものは多くは無くなってしまったが、長寿の者達には確実に引き継がれていく、語り継がれていく恐怖。



残念ながら、今を生きる人々が知るのは《ミケツカミ》。


御伽噺の悪役で勇者達にいともたやすく倒される不完全な魔王様。

もう本当の恐怖を、本当の意味での《御戯津神》を知る者はいないに等しいのだろう。




かの者御戯津神は、もしかしたら那由多を数える世界の何処かで代々弱体していっている魔王を嘆いているのかもしれない。

代々弱体化していっている勇者達を嘲ってあるのかもしれない。




間違いなく歴代最強の魔王、『御戯津神』。かの者には特異なる能力を持っていた。

その後の歴史でも何度か特異能力を扱う者達が確認されている。


そしてその代の魔王は、他の代と比べ物にならないほど強い。特異能力を持つ者は両手で足りるほどしかいないだろう。





どうやって能力持ちかを判断するかといえば、その者達には『なにか』が二つ名を授けるらしいのだ。


どうやって誰が決めるかなんてわからない。能力を持つ魔王には気が付けば二つ名が付いているのだから。

そうして決戦の名乗りに魔王は高々とその名前を宣言するのだ。




当然初代魔王も二つ名持ちの1人。遊戯の魔王《御戯津神》と名乗り、そう呼ばれ続ける。

悪意を知らずに、楽しさのみを追求し続けた或る意味での最悪。


彼の者にとって人が死のうと魔族が死のうと、自分が死のうと関係無いのだ。魔族を創り出した彼からしたらその命は玩具にも満たないのだ。




そんな彼が自らの四肢を代償に三百の年月をかけて作り上げ、その肉体の死滅、魂を異界へと封印されたと同時に解き放たれた、いや、遺した迷宮 《不死者の栄光》。


その超高難度に見合った金銀財宝武具剣槍とともに、それこそ不死者でもないと踏破できないであろう非道な迷宮は今も変わることなく最高難度を誇る。




そして、その最奥には神が眠っていると言われ、踏破者は世界を手に入れると言い残されていたために、長い間恐れられ続けてきた。








まぁ、500年ほど前に国に封印されてしまったそこに踏み入れることが出来るものは残念ながら、今は居ない。




かの魔王はきっとその事をつまらなそうに笑うのだろう。その身に自由があったのならば、封印を施している国を飛ばすぐらい片手間にやってのけるのだろう。




今の時代を生きる民達は知らないのだから。幾千の時の中でどれだけ魔王が弱体したのかを。

初代魔王を含めた三体の、いや、確認されていたのは二体だけだったかな。


改めて、初代魔王を含めた二体の魔王が破格に強かった事も。きっと、歴代の魔王が束になっても相手にならないほど圧倒的な者達の存在感を。


全ての魔王が勇者達によって倒された?いやいや、何て笑えない冗談だろうか。

あの者達が「勇者達ごとき」に、人の枠を超えられない弱者程度に倒せるはずがないじゃないか。




彼等は封印されているだけ。肉体を無くして居場所を無くした魂に新たな肉体を与えないように少し長めの眠りにつかされているだけ。魂だけでも彼等にとって封印なんて枕元に添える促眠薬のようなもの。


人間たちは気が付かない、気が付こうとしない。

そして、その真実を知ってしまった君は何を思う?何を望む?






いい加減飽きてしまったのだ。こんな変わり映えしない世界にも、歩みがおそすぎる人間達にも、平穏と停滞を勘違いしている馬鹿な神々にも。




さぁ、始めようじゃないか。




新たな物語を。新たな、終焉と創造の物語を!


創世神話を覆せ、二代目『追憶の魔王』饗華之御霊命ウカノミタマノミコトよ。そして、歴史にその名を刻み込め。


わたしは花開いた。


もう歯車と秒針は止まらない。つまらぬ時の終わりのために刻々と君に選択を迫ろうじゃないか。




さぁ、選べ。

此処で死ぬか、わたしを殺すか。魔王の運命を受け入れて決まった時を生き抜くのか。愚かに抗い果てるのか。



どちらもいい、いいじゃないか。


生きようと足掻く人間は何処までも甘美で、妖艶で、どうしょうもないほどに救いようの無い様が美しいじゃないか!







あぁ、君の選択は受け取った。


面白いものを魅せてくれよ。












願わくば、汝に幸あれ。













どれほどの時間、その本を眺めていただろうか。

この平原に来た時は夢かと思った。ベットの上が最後の記憶なんだから当然だと思う。


だから、白昼夢ってこんな感じなのかなーって思った。でも、感じる風も、感じる声も、その感触も暖かさも。


五感が全て本物だと訴えてきた。認めたくは、無い。いや、百歩譲って異世界転生した事は認めよう。夢があっていいじゃないか。

耳に尻尾といい狐人族というのは寧ろ大歓迎。私の大好きな獣人転生なんだから。


綺麗な金色の髪に耳。耳の先と九̀つ̀の̀尻̀尾̀。その毛先が白くなっている。黒に桜と金の星のモチーフが散りばめられた優雅でいて格好の良い着物。


年齢は死ぬ?転生する?前と同じ17くらい。まぁ、ここまではいい。割と在り来りなラノベみたいだもんね。問題はそこからなんだよ。




まず、私の武器について。

私はサバゲーを嗜んでいた。ガチ勢じゃないよ?嗜んでいたくらいだよ?多分。

そのせいか、足のガンホルダーに入ったシルバーに幾何学模様の描かれた銃は何だろうね?私の武器です。


なんでスナイパーライフルになったりショットガンになったり出来るんだろうね?私がオールラウンダーだったからです。


刃を出して接近戦にも対応してるんだろうね?接近戦良くねとか言って一時期やりまくってたからです。


杖みたいな形にも出来るんだろうね?魔法使いになりたかったからです。





ハマっていたサバゲーで私が使っていた武器たちを混ぜた感じ。いや、一つにまとめた感じかな?杖はMMOで私が使っていた武器によく似ている。


ウィザードは女少なかったなぁ。懐かしい。でも、あの杖は鎌の形に変形できたから違う気がするな。

普通よりロマン重視の装備だったせいで苦労したっけ。


そんなどこか外れた思考を無理やり戻して、いい加減に現実を見無ければならない。

そのために周りを見渡して、もう一度足元に視線を戻す。そしてはぁ、とため息を一つ。




なんで転生と同時に殺戮しなきゃいけないんだろうね?モンスターの死骸で溢れかえった平原は紅く染まり、死地と化していた。

異世界きて三分で生き物の殺害経験をした。


カップラーメンを待ってるだけで終わっちゃうよ。ちなみに苦しんだりする暇なんてなかったし、こうして終わってみても、案外何も感じない。


それは、これがきっと夢じゃないと認識した今も。

足元の唯一人型だった亡骸を見る。ここに来たと同時に持っていた謎の本。そこから生み出された人型の化物。




謎の本は読んでみると魔王がうんたらかんたら、勇者達がうんたらかんたら、選択がうんたらかんたら。


どうでもいいけど死にたくは無いので私は、その運命を受け入れ、魔王になることを決意した。

その為に、ソレを、人型の何かを殺した。


そして、本の名前は『追憶の魔導書』だったと知った。だからか私の魔王の能力は『追憶』。存在するもの全ての記録を見ることが出来る。


例えば、そこで横たえる魔物の一生とか、この星の歴史とか。更には、この世界に住む全ての人の個人情報も見れる。

さらにさらに、魔導書も使えちゃう。




『追憶の魔導書』は例外。固有名詞であって実像はあくまでも魔王の胤だからね。


この世界の魔導書というのは魔力を使う代わりに簡単な詠唱と動作だけで魔法を行使することが出来る媒介。




多種多様なものがあってそれを調伏すると使えるようになる。お金で魔導書を買っても調伏できないと使えないのでお金持ちなら強くなれるという訳じゃないのだ。


魔導書は主と定めた者が死ぬまでその人以外に使えなくなるらしい。それを「過去に存在した全ての種類の魔導書」を調伏済みで持つ私はちょっとどころかめちゃくちゃ強過ぎる、と思う。




まぁ、魔王だからそんなもんなのかな?ちなみに魔導書を創るには専用の古代魔法が必要らしい。

古代魔法を使える人なんて今はいないとされているから、実際に存在する魔導書は過去に作られたものだけらしい。


そもそも新しい魔法なんて生まれていないんだけどね。魔導書は創世と同時に全ての種類が造られた。

今無いのは見付かっていないとか調伏したのを教えていない人がいるというだけ。


まぁ、作戦ではなく自分のステータスなんて明かすのは馬鹿くらいだろう。魔導書は看破系のスキルにも映らないので必殺になる可能性を秘めている。


そんなものをいちいち国に申告する方が馬鹿げていると感じるものだ。魔導書についての記述を読みながら、『追憶の魔導書』の私についての表示を思い返す。


二代目ってどういう事だろ?今代の魔王はもう二百代を超えてるはずなんだけどな。

そもそも、時系列が合わなくなっちゃうしね。うーん、まぁ分からないから、取り敢えず放置で。



次に名前。饗華之御霊命ウカノミタマノミコトが私の名前らしい。

ミケツカミといい、日本の昔の狐の神様と同じだ。漢字が違うんだけどね。


私もそんなに詳しくはないんだけどたしか、御食津神ミケツカミ宇迦之御魂大神ウカノミタマノカミだったはずだ。

もう一人いて三大だったと記憶してるけどもう一人の名前は思い出せない。


元々そこまで興味があったわけじゃないんだから、二人の漢字まで覚えていたことを褒めて欲しいくらいだ。

これは偶然……では無いよね。流石に無理があるし。もしかしたら、何か関係があるのだろうか。




ま、いっか。分からないことは後回し。分かる時に知ればいい。きっとそういう運命だから。

今の私にとって必要なのは睡眠と食事だろう。


ファンタジーな異世界に来て三分で殺戮を経験。

多分自分が思っているよりも精神的にも肉体的にも疲れはあるはず。そもそもこれだけ肉体が変わっているのにつかいこなせるほうがおかしいんだから。




まずは街を探さないとな。この追憶の凄いところは、0.1秒前だって、『過去』になること。

要するに最新の情報が分かる。どこに魔物がいるとか、今敵が使った技とか。それが初披露の新技でも分かっちゃうのだ。



他には情勢とか相場とかも。欠点と言えばほぼずっと何かしらの本を出しておくことになることくらいだろう。

手が筋肉痛になりそう。それさえなければ、完璧と言ってもいい。


読みたいページが勝手に開いてくれるんだから、楽なもんだ。脳内で読む事も出来るけど、慣れないからか疲れる。ものすごく疲れる。


だから、鼻歌交じりに更新され続ける魔物の出現場所付き地図 (分厚い本の見た目)を片手に歩いていた私は気が付かなかった。





『唯一の種である魔王種に進化する』。





なんで読み飛ばしていたんだろう。

物凄く重要な表記じゃないか。


美しい白銀の毛並みに淡青い細いメッシュが何本も入っている。銀の九つの尻尾の先は青に変化していて。瞳は美しい金色だなんて、知るわけがなかった。



































そうして世界は動き出す。足りない1ピースをようやく見つけたかのように。




世界は激動する。










そんなこと、彼女は知る由もないのだ。














そして、彼女「も」また、笑うのだろう。













「自業自得ね」、と。楽しげに笑いながら殺戮を繰り返しその名を轟かせるのだろう。




























だって彼女は魔王なのだから。

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