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弱さの共有

続編を書きました(*´罒`*)

良かったら読んでね♪

朝。いつも、彼女の電話で目が覚める。

ーーープルルルル

夢の中から無理やり引っ張られたようなその着信音で、今日も目が覚めた。閉ざしきったカーテンの間から微かに光が漏れて、今日は晴れなのだと知る。ぐっと伸びをして僕は携帯を取ると、受話器を耳に当てた。

「はい......」

「ほらー、また暗いよ!」

いつもの声がした。もちろん、彼女だ。こんな朝早く電話を掛けてくるのは彼女しかいない。少し面倒臭い人だ思いながらも、少し安心している自分がいた。

「なんですか?今日は仕事ですけど」

受話器相手の彼女に答える。

「もしかして、寝てた?」

「寝てましたけど...」

いつも、まるで僕のアラームのように掛けてくる彼女になんでそんな当たり前のことを聞くのかと疑問になりながら聞き返すと予想外の返答が返ってきた。

「今、君の家の前にいるんだけどね......!」

「えっ?」

ホラーかなにかだろうか。もちろん、そう思うのは彼女に自分の家を教えた記憶がないからだ。

パジャマ姿、飛び起きると急いで玄関に向かった。そーっとドアの除き穴から外を眺める。

「今、急いで玄関行ったでしよ?」

受話器越しに彼女の笑い声が聞こえる。

「なんで、家知ってるんですか!?」

確かに彼女がうちの前にいることを確認して僕は彼女に尋ねる。

「君が自殺未遂しないように家ぐらい知ってないとー」

「はぁ?」

もう、意味がわからない。というか、何故自分の家を知ってるのかの答えになってない。


ーーーピンポーン

彼女が押したインターホンと同時に僕は行き良いよくドアを開けた。

いつものようにイタズラっぽく笑う彼女を見て、僕はムッと下唇を前に出して彼女を睨む。

「もしかして、怒ってる?」

「今の僕の表情を見れるなんて、レアですよ」

僕はそう言ってため息をついた。

それを無視して「おじゃまししまーす」そういいながら彼女が家の中に入ろうとしたので「ちょっと!」僕はぐいっと彼女の腕を引っ張った。

「痛い」

「不法侵入で訴えますよ」

冷静に言う僕に彼女は「みられたくないものでもあるのかな?」そう言ってからかうように笑う。


見られたくないもの。もちろんある。沢山ある。

血のついたカッター。

それに、昨日曖昧な記憶のまま大量服用した薬の入った瓶。ゴミ箱に入った血のついたテッシュ。見て欲しくないものは、彼女であろうと誰であろうと僕を嫌うタネになる。


嫌われたくない。どうせなら、しんどくても昨日の夜片付けていたらよかった。

大量に飲んだ薬でぐるぐる回る中でも、嫌われてしまうならーーー


「ねえ」

彼女が僕の掴んだ手を疑問そうに見つめながら尋ねた。

「な......なに?」

尋ねた彼女の表情はさっきのからかうようなものでは無かった。真剣な表情だ。

僕は自分の今の感情を隠そうと口角を上げて彼女に向けて微笑んだ。

嫌われたくないーーー自分の今の心の中はただそれだけが反芻していて、彼女に嫌われることが何よりも怖かった。

彼女はシーンと静まり返った玄関の中で口を開く。僕が微笑んでも彼女は笑わない。彼女の瞳は確かに僕の姿が映っていた。


「私は君を嫌わないよ。どんな事があっても」


その後に、彼女は僕に向けて照れるように微笑んだ。

ーーーバタン

僕は、抑えていた玄関のドアを閉めた。

拳をぎゅっと握る。爪が長かったせいで肌に爪がくい込んだ。

「私は君の全てを知りたい。君が嫌われると思い込んでてもそれでもいいって、思ってくれている人もいるんだよ。君が隠しちゃうせいで、私君のこと何も見えないな......」

僕は何も言えずに唇を噛み締めた。涙が出そうだった。堪えてないと今にでもボロボロ零れそうだった。

「ねぇ、上がってい?」

彼女は僕の俯いた顔を除きながらそう尋ねた。

僕は手を離した。

それは行っていいよっていう合図だ。

「ありがと」

彼女は靴を脱いで、長い廊下を渡って部屋に入っていく。


遠くで「派手にやらかしちゃったね」そう言って笑う彼女の声が聞こえた。

彼女は嫌な顔せずに、いつものように接してくれた。

彼女の言葉が「頑張ったね」と言われたみたいで。

いつの間にか、こらえ切れず彼女の見えないところで声を殺して泣いている自分がいた。


「ねぇ、これ貼ったらもっと可愛くなると思わない?」

自分のアパート。彼女にお茶を出すと彼女は楽しそうに僕に向かって尋ねた。

お茶を入れるため台所に行くまでの間、机はさっきまでの状態とは思えないほど綺麗に片付けられ血のついたテッシュなどはすべてゴミ箱の中に片付けられていた。どうやら彼女がやったようだ。

「ちょっと!何、勝手に!?」

僕はあたりを見回して感心するも彼女の手元を見て驚いた。

ペタペタとシールでデコレーションされたカッターナイフ。いつの間にか、彼女は僕が昨日の夜。使っていたカッターナイフを勝手にデコレーションしていたようだった。

「ちょっと!怒らないでよー、可愛いでしょ?」

「君ねー」

僕はため息をつく。本日2度目のそれに「そんなにため息ばっかりついたら幸せが逃げちゃうぞー」そう言ってカッターを眺めながら彼女はからかうように笑う。

「嬉しいでしょ?可愛くなったでしょ!はい!」

カッターを差し出され僕が反射的に受け取ると「どうどう?」

ニヤニヤしながら彼女が尋ねた。

悪くない。可愛いケーキのシールが貼られたカッターはデコレーションというよりはただ単に貼り付けたに近いが......。

僕は剥がそうとした手を止める。

何故か彼女のすること全てが正しいと思ってどうしても剥がそうという気になれなかったのだ。

「気に入った?」

そう尋ねる彼女に僕は頷いた。

何故か嬉しい。

この曖昧な感情を僕は恋と同じかもしれないと思っていた。


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