自分の居場所
続編を書きました。
よかったら読んでね(*˘︶˘*).。.:*♡
感想はこちらでも→@kesigom00997738
『君は薄情だから仕方が無いね』
誰かにそう言われたことがある。誰だかは思い出せない。そして、それを思い出さないという事はその時、確実に自分が傷ついた証拠だ。思い出せないんじゃない、思い出したくない。多分そういうことだろう。
それからだ、何故か僕は人と距離を置くようになった。どれだけ相手が温かく迎え入れてくれようと僕はそれを拒否した。どうしても、それが嘘の塊に見えて仕方がなかったのだ。でもそれは孤独を意味することになる。こんな性格だからかいつの間にか僕の周りには誰も寄り付かなくなっていた。空気が重く、会社に向かう度に体が心が会社に行くことを拒む。変だと思っていた。病院に行くと、今通っている病院を紹介された。
「君は心が今、不安定なんだよ」
その医者は言った。
「どこを治せばそれを治せるんですか?」
僕は尋ねた。どうしても、すぐに治したかった。しかし、医師は難しい顔をして答えた。
『これはね、すぐに治せる病気じゃないんだ。ちょっとずつ回復できるように一緒に頑張ろう、これは風邪の病気と一緒なんだよ。それが少し長引くだけだ』
風邪なら仕方がない。薬をもらい帰宅した。医師の言葉がやけに優しくてそれがとてつもなく気持ち悪かった。
いつの間にか自分は誰も信じられなくなっていた。
「今日は病院じゃないね」
寝起きの顔で彼女が指定した公園に足を運ぶと彼女はいつものようにベンチに座っていた。
「いつも、病院なわけないじゃない。それより、寝起きって感じね」
彼女はいつものようにくすくす笑う。
「そりゃあ、休日だからね。休む時に休んどかないと持たないよ。」
僕がそう言うと彼女は「ふぅーん」
そう言って「ここ座りなよ」そう言ってポンポンと隣の席を叩いた。
僕はため息をつく。何故、自分は彼女に呼び出されてほいほい来てしまうのか。
そういえば彼女はいつもベンチに座っているような気がした。これも病気のせいだろうか。何の病気なのかは知らないが聞く勇気はなかった。僕もベンチに座る。
夏の蒸し暑い中で僕と彼女はベンチに座って少しの間、公園ではしゃぐ子供たちを眺めていた。
「子供ってさ、なんであんなに元気なんだろうね。いいなぁ、私も小学生に戻りたい」
彼女は足をばたつかせて子供のように駄々をこねる。
「これはまだ、この世界が明るいんだって信じきってるからだ。子供を見てると自分が惨めになる」
そんな彼女に僕は俯きながらそう答えた。
「君、ほんと考えるすべてが暗いね」
仕方が無い。これは風邪の延長戦なのだから。全てが暗く、自分が歩む場所さえも暗闇で光一つ当たらない。
「しょうがないよ......」
僕が言うと彼女は寂しそうな表情で「しょうがないかぁ」そう言って空を見上げた。
この世界にはうまく生きられる人とうまく生きられない人がいる。僕は後者だ。そして、彼女は前者。僕には彼女が輝いて見えた。どうしても、直視できない。直視したとたん、僕の全てが壊れそうで。彼女はそれほど光を持っていて、苦しみも悲しみも無縁な場所で生きているような気がした。
「ねぇ」
彼女が僕を見て投げかける。
「なに?」
僕は彼女を見ずに答えた。
「君の居場所はどこにあるの?」
いきなりの問いかけに僕はバッと彼女を見る。
そして、当たり前と言ったふうに答えた。何故か自分の声は震えていた。
「居場所なんて、あるわけないじゃないか」
居場所なんて存在しない。呼吸さえも苦しくてもがきながら生きてきたこの世界は残酷で、すぐにでも飛び降りて死んでしまえたらと思う。
いつかの時、医者にこのことを言った。返ってきたのはとても無責任な返答だけだった。
『病気だから仕方が無いよ』
僕はちらっと彼女を見る。
俯きながら答えた彼女は少しの沈黙の中何かを考えているようだった。
風が彼女の髪をなびかせる。
キラキラ輝いて今僕と彼女は別々の世界で生きているような気がした。
「よし!」
彼女の声。
「じゃあ、ここを君の居場所にしよう」
彼女はうんうんと頷きながらそう答える。
僕には彼女の考えがさっぱりわからなかった。居場所なんて、そんな簡単に作れるものなのか。
「ここって。どうしてそんなに簡単に言うんですか?」
否定と言っていいほどの自分の言葉は彼女に届いたはずだった。でも、彼女は首をかしげた。
「自分で作れないなら私が作ってあげる。簡単なんかじゃない、この場所はいいところだよ」
ーーー自分では作れない。
彼女の言葉は一直線に僕の心に響いた。
僕は公園を見る。あらためて見返したこの場所はまるで違う世界のようにキラキラ輝いていた。彼女の言葉一つでここまで変わるなんて。
「あっ!こけちゃったみたい、助けなきゃ!」
彼女が指さして走り出すので僕は彼女の指した先を見た。
公園で遊ぶ子供。楽しそうに話すカップルに、餌を求めてここに降り立つ鳥達。風で揺れる木々に花に水やりをするおじいちゃん。
彼女が指差した先。この世界で楽しそうに生きる人たち。その中で一人ぼっちの女の子が仲間の輪の中に入ろうと走ってこけたみたいだった。
彼女がその子に近づいて声をかけているのが分かる。驚くことにこけた女の子は泣き出すことなく立ち上がるとニコニコと彼女に微笑んでいるのが分かった。公園の遊具で遊んでいた団体の仲間たちが女の子のそばに駆け寄る。
「大丈夫?」
その言葉に女の子は泣き出した。まるで、安心したように。隠そうとした彼女の表情は本当の表情に変わる。
僕とは大違いだった。痛かったら笑うんじゃない。相手に訴えて涙を流してちゃんと痛いと伝えれば、相手はきっと分かってくれる。
女の子は僕にその事を伝えてくれたみたいだ。
人を信じて自分の感情をぶつければいい。
ーーーそういうことに。
女の子の母親らしき人が来て女の子は公園から出るのがわかった。子供たちは「また、遊ぼ」
そう言って心配そうに手を振る。
女の子も振り返した。小さな手。こんな幼い彼女でも一生懸命生きていることを知った。
彼女が駆け寄ってくる。
ベンチに座ると「やっぱり大人だとこわがらせたゃったかな」そう言って困ったように笑った。
「あの子なりの答えだったんだよ。きっと」
僕はそう言ってもう1度公園を見返した。
「そっか」
彼女も公園を見ながらそう答える。
ここが居場所でもいいかもしれない。
子供たちが笑いあうこの場所でいつか自分の本当の気持ちを伝えられるように。
僕はそう願ってただただ公園を眺め続けていた。