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称号世界の混ざりモノ  作者: 浮谷柳太
第一章 田舎暮らしの幼少期
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第3話 ステータス・オープン!

 眼前を覆う犬面。いや、狼面か?


 とにかく眠りから覚めた直後にそんなものを見てしまえば驚くなという方が無理な話である。どっからどうみても食べられようとしているようにしか見えない。


 母親の少女に微笑みかけられるのとは別の意味で、僕は体を硬直させるのだった。





「もうあなた、フィー君がびっくりしたでしょ?」

「すまん……」


 僕を抱きかかえてあやす少女改め、母さんはぷんぷんと二足歩行の狼を叱っていた。

 相変わらず言葉は何を言っているのか分からないのだけれど、雰囲気で僕を驚かせたことを叱っているのは分かる。そして僕の表情はまだ驚きに固まっていた。


 なぜなら、狼である。狼男も真っ青なくらいのザ・狼。目はきらりと鋭く、黒い鼻は高く突き出た顔の先端についている。耳はしっかり狼のものだし立派な牙もある。

 これを見て驚くなという方が無理だ。


 そして僕の頭はここ最近恐ろしい考えに埋め尽くされていた。

 ときどき抱きかかえられていたふさふさの腕。なぜか頭の上からも聞こえる音。改めて意識して見ればちょっと鼻も高いかなーなんて思えてきたり。


 つまりこの狼男は高確率で僕の父親ということになる。さすがに予想外過ぎた。

 ていうかこの2人が夫婦っていうのが信じがたい。あまり言いたくないけど、あまり似合っているとは言えなかった。美女となんとやら、というやつだ。


「ほーらフィー君。お父さんがごめんなさいって言ってるよー」

「すまんな、フィージル。ほら、こっちを向いてくれ」


 金髪少女は僕を抱き起こして顔を狼男の方へ向けさせた。再び眼前に現れる狼の顔。

 まだ恐怖心は消えないけど、顔を精一杯に優しく緩めて語り掛けるその姿はまさしく父親のそれだ。


 ふさふさがなんだ。狼だからなんだ。この人は子供に優しくしようと努める僕の父親なのだ。

 内面を見ずに決めつける行為は僕を『真面目』と言い続けたやつらと変わらない。僕はまだ短い手を彼のもとへと伸ばした。


「あうー」

「おぉ、フィージル……お父さんのことが分かるのか!」


 恐る恐る僕の手を握る父さん。その手にも狼らしく立派な爪が伸びていたが、僕の肌を傷つけないように優しく握ってくれた。


「ふふふ、よかったわね、あなた」

「ああ……嬉しいな」


 すると家の中に一気に和やかな空気が広がった。どうやら喜んでくれたらしい。




 前世の両親にはあまりいい思い出がない。基本的に仕事で家を空けており、共に過ごした時間は一般家庭と比べると少ないだろう。

 そんな2人の気を引くために僕は勉強や諸々を頑張ったのだけど、それによって過度の期待をかけられるようになってしまった。


 クラスで一番をとったら次は学年で一番。その次は進学塾、県、全国と期待は止まることがなかった。

 僕はたしかに見た目上『真面目』だったのかもしれないが、決して『天才』ではない。数学や物理などわけのわからない理論はいくらでもあったし、僕がやって来たことと言えば必死に解法を覚えていただけだ。

 結局全国はおろか県内の模試でさえ上位は遥か先で、最後まで届くことはなかった。


 だからこそ今世のように優しい両親がいるというのはとても嬉しいことだ。この2人なら僕の思いを汲み取ってくれるだろうし、この2人のためなら期待にも応えたいと思う。


 まだ年端もいかぬ頭でそんなことを僕は考えたのだった。


「フィー君~」

「フィージル~」


 …………溺愛されすぎな気もするけど。






 ♢ ♢ ♢






 そんなわけで不安要素の一つが解消されたわけだが、まだまだ考えなくてはならないことがある。


 それはすなわち、この世界についてだ。


『冥界神』様に話を聞いた時点で転生先が地球ではないという覚悟はできていた。なにしろ、死因は召喚陣にびっくりしての転落死なのだから。

 さすがに父さんがふさふさ系だったとは予想していなかったけど、それもなんとか受け入れることができた。


 僕は何かを編む母さんを横目に見ながら木編みの籠の中で頭を働かせる。


(ここはいわゆる異世界で獣人と呼ぶべき人がいる。おそらく母さんも普通の人とは違う)


 母さんの耳は金色の髪を突きでて不自然に伸びている。背の低さも体の細さも種族的なものかもしれない。

 前世の知識だとエルフっていうのかな? 想像よりも背格好が小さいけど。


 するとまた新たな疑問が湧いて来る。


(魔法とかもあるのかな?)


 異世界の定番と言えば魔法だ。知識の上では一応知っている。

 しかしいまだにそれらしき現象は目にしていない。完全にこの部屋は居住スペースのようで、火を起こしたり水が溜めてあるのは別のところらしい。

 下手に挑戦して火事にでもなったら大変なので考えるだけにとどめる。子供のやったことで済まされるならいいが、両親の悲しむ顔はできるなら見たくない。


 魔法のことは置いておいて、次の疑問に移る。


(ステータスなんかはあるのかな?)


 こちらも異世界の定番の一つだろう。何気にこの手の話はよく頭に残っている。

 どうせ元の世界の人たちは僕が小難しい小説や文芸書しか読まないと思っているのだろうが、そんなことはまったくない。隠れてラノベを読んだこともある。


 こっちは特に危険はないはず。見れなくても別に構わないし、あったらそれはそれで儲けものだ。どうせ食べて寝るしかやることがないのだから試してみよう。

 情報は早めに集めておくに限る。


(ということで……ステータス・オープン!)


 イメージするのは、薄い透明な板。そこに僕についての情報が浮かび上がっている。タブレットのようなものだ。

 ちなみにチートを期待する心もないことはない。密かにラノベを読んでいたということは、そういう妄想も抱いたこともあった。

それに真面目で地道なレベルアップには少し抵抗もある。


 すると僕の脳裏になにかが浮かび上がった。






==================



(いびつ)な混ざりモノ』

 個体名:フィージル=バラメント

 種族 :混血種

 スキル:一般


     称号


     特殊

     <冥界神の加護>


==================






 おお……なんか出た! ステータスはあったのか!

 概念的なものだからか僕にも読める。思ったよりすっきりしてるけど確認してみよう。


 まず一番上にある『歪な混ざりモノ』。初っ端から不吉な予感を感じさせる。

 これは僕を示す言葉でいいのだろうか。せめて「モノ」は「者」にしてほしい。ご丁寧に日本語でそんな工夫を凝らされると余計に目が行く。


 次に名前。僕はフィージル=バラメントというらしい。

 母さんとか父さんがよく言ってた気がするけど僕の名前だったからなのか。納得がいった。


 そして種族。やっぱり混血らしい。

 あれほど見た目の差があるのに両親が同じな種族ということはないだろう。これは予想の範疇だ。


 最後に3種類のスキル。一般、称号、特殊に分かれている。

 一般は……まあ一般なのだろう。普通のスキルということだと思う。

 称号スキルは何だろう? 一番上に称号っぽいのがあるけど、できれば無関係であってほしい。

 最後に特殊スキル。上2つは空っぽだけど、こっちにはちゃんとある! 僕は心の中で深く『冥界神』様に感謝をささげた。


 僕は逸る気持ちを抑えてより詳細な情報を得ようと念じた。できればチートであることを願って。


 するとステータスと同じように頭に説明が浮かぶ。



==================


<冥界神の加護>

 冥界を統べる神の加護。その御霊(みたま)が早期に舞い戻って来ぬよう祈りが込められている。

 健康祈願、安産祈願、家内安全


==================



 ………………神社のお守りか!

 あの冗談神様、よりにもよってこんなメジャーな内容にしちゃったの!? もっと他になかったの!? ほら、成長促進とか、そんな感じの!

 3つの効果があるからお得って? 嬉しいと言えば嬉しいけどがっかり感が強いわ!


 ……ふぅ、まあこれはこれで良しとしよう。あのお方には転生させてくれたという恩があるから。でももし会うことがあれば盛大に突っ込んでやりたい。

 今思えば僕の中に吸い込まれた黒い羽根はこれだったのだろうか。


 とりあえず<冥界神の加護>については放置ということにする。『冥界神』様には遠くから見守ってもらっているということで。


 さて、残る問題はあと1つ。名前の上にある『歪な混ざりモノ』だ。

 あまり見たくはないけど自分のことである以上知っておかないといけない。僕は意を決して念じてみた。



==================


(いびつ)な混ざりモノ』

 この世に存在するはずのない歪な存在。世の(ことわり)から外れたモノ。

 純なる存在を遠ざける。


==================



 これはまた……がっつり僕のことを否定する言葉だ。


 存在するはずのない、世の理から外れた存在。残念ながら僕には思い当たる節がある。

 つまりは転生者である僕の魂を指しているということなのではないだろうか? 常識的に考えて普通の存在ではない。


 そして「純なる存在を遠ざける」という文言。何を指して「純なる存在」と言っているのかは分からないが、いい効果でないのは明らかだ。

 もっと詳しく知りたいけどこれ以上は詳細にできない。もっとズバッと言ってほしかった。


「フィー君、どうしたの?」


 僕が難しい顔をしていると母さんがのぞき込んできた。僕は心配をかけまいと笑って手を伸ばす。


「あらあら、フィー君ったら甘えん坊なのね。おいで」


 不安は尽きないけど、この家族とならなんとかなりそうだ。そんな楽観的で、しかしある種確信めいた考えに不安は拭い去られるのだった。



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