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称号世界の混ざりモノ  作者: 浮谷柳太
第二章 父を救う少年期①
29/30

第29話 <冥界神の加護>

少し短めです。


 多少片付いた別室で食事をとった後、僕たちはもとの作業部屋なる場所に戻ってきた。


「さて、改めてオレが『魔の果てに至りし魔導神』ことアンドレア=エルデラートだ。オレの話を聞けるやつなんかそういねぇんだから深く感謝しろよ

 ?」


 椅子に腰かけ足を組み、改めて『魔導神』様は自己紹介をした。僕がこの方から直接名前を教えてもらうのは初めてのことだ。

 それにしてもエルデラートと言えばイリナの姓だ。『魔導神』様が親代わりと言っていたので彼女の姓はここから来たということになる。


「はい、お願いします」


 これから僕はこの方に自分の出生の秘密を教えてもらう。

 自他ともに認める研究狂いらしいのでどんな話か楽しみでもある。


「さぁて、結論から言うぞ。フィージル=バラメント、お前は今すでに死んでいてもおかしくねぇ」

「え」


 そんなある種楽観的な気持ちで臨んだこの場であったが、初手からとんでもないことを言われた。


「アンドレア!」

「関係ねぇやつは引っ込んでろよ、イリナ。耳が痛かろうと事実は事実だ」

「少しは配慮してって言ってるの!」


 珍しいことにイリナが感情的になって『魔導神』様に食い掛かっている。


 イリナもこれまでの流れでここで話を聞いていた。本人から頼まれたので許可したのだが……


「落ち着いて、イリナ。僕は大丈夫だから」

「……ふん」


 僕が間をとりなすとイリナは忌々しそうに鼻を鳴らして引き下がった。

『魔導神』様はさほど気にした様子もなく表情は変化しない。


「続けるぞ。一見極めて健康そうなお前の体だが、この世界の法則はきっちりと受けている。つまりだ、『命名神』の定めたルールに従ってその体は今もこの世界から退場するべく自壊しようとしてるってことだ」


 この世界のルールとして混血は純人種との間でしか生まれない。その混血種でも健康に人生を謳歌できた者は存在せず、ゆえに異種族間での婚姻は暗黙の了解として避けられ続けていた。


 それに則れば僕は生まれてきていないはずだし、こうして5体満足で生きているのはおかしいのかもしれない。その説は至極正しく、『魔導神』様は今も僕の体が壊れようとしていると言った。


「それを邪魔する強力な力がある。フィージル=バラメント、お前は加護持ちだな? それもオレら『六柱神』とは桁外れの、それこそ『命名神』並みの神に与えられているはずだ。そうでなきゃ、世界の頂点である『命名神』の力に真っ向から抗えるはずがねぇ」


 加護持ちだと問われ僕は頷く。さっき『魔導神』様の加護の羽根をはじいたのは僕の中の加護だった。

 この方は前から気づいていたのだろう、確定事項として話を進めている。僕はこちらから訊ねた。


「『冥界神』って神様なんですが、『魔導神』様は知っていますか?」

「いや……聞いたことがねぇな。ただ、冥界、つまりは死後の世界の神を名乗るとなれば十中八九『命名神』と同格だろうな。オレらみたいな神の端くれとは大違いだ」

「僕らからすれば神様の時点で雲の上の存在なんですが」


 それは本心からの言葉だったのだが、『魔導神』様はお世辞と受け取ったみたいだ。


「ばっきゃろ、称号に左右されてる時点でオレらなんか下級も下級、最下級なんだよ。『六柱神』はお偉い様に神という称号(なまえ)をもらっただけの人間でしかねぇ。その証拠に、オレの種族は1200年間ずっと妖精種のままだ。むしろ『六柱神』は”神という種族”になるために頂点を争ってるんだよ。何万年もな」


 長い期間第一位を死守した『六柱神』は、神界に至るという言い伝えが残されている。『魔導神』様の言葉はそのことを指していた。


『六柱神』になることでようやく神様の入り口に立ち、そこから6柱のうちの一番を守り続けることで真の神と成れる。それはなんとも気の遠い話だ。人間のスケールでは測り切れない。


「んなわけで一世界の神なんていう化け物と未だ四位止まりのオレじゃ天と地以上の差がある。オレの加護が弾かれたのはそのせいだろうな。オレごときの加護じゃあ『冥界神』様とやらの加護と同居させてくれねぇてこった」


 なるほど……あの冗談神は目の前のこの神様よりもはるかにすごいお方だったのか。そうでもなければ転生なんかできなかっただろうし、さすがの『魔導神』様でも死んだ人間を別世界に転生なんてさせられないだろうから納得の話ではあるけれど。


 でも『冥界神』様、それはないと思うんです。せっかく魔法チートができると思ったのに! そこは冗談って言ってくださいよ!


「んだよ、強欲だな。オレなんかの加護がなかろうとその『冥界神』ので十分じゃねぇか。どういった効果がある?」

「いや、たしかに我儘かもしれませんけど。この加護の内容は健康祈願・安産祈願・家内安全ですよ」


 ご存知、神社のお守りシリーズである。よくよく考えれば加護として正しい形をしているのはこっちの方なんじゃないかという気もしてきた。半分諦めだけど。


 内心では同情を狙って加護の内容を明かしてみたものの、しかしその期待に反して『魔導神』様は大まじめに頷いていた。


「合理的だな。混血の肉体を健康に保っているのが一番目、まず間違いなく失敗する生殖活動を二番目でカバーし、副次的に起きうる家庭内の不和や一家への外部的な悪意を三番目で防ぐ。手本みてぇな鮮やかさだ」

「え、まじですか」

「はぁ……あのな、地味な効果だから分かってねぇのかもしれねぇけどよ、お前が比較的普通に暮らせてんのは間違いなくこいつのおかげだぞ。これがなきゃお前は不幸な事故で一家悲惨な目に合うは、子供は一生つくれねぇは、つかそれ以前に生まれてくる前に死んでるわ」


 呆れを隠さずにばっさりと言い捨てられた。


 いや、だってこれが本当なら僕今まで『冥界神』様にとんでもない無礼を働いてたことになるぞ。まさかあのお守り的な加護にそんな絶大な力があったなんて。


 そりゃあ確かにこれまで病気になったことはなかったけど。本来なら死んでるところをずっと守ってくれているなんて誰が分かるだろうか。

 そしてこの世界の理を鑑みて僕は子供ができないのではと思ったこともあるにはあるので、加護にきちんと効果があると分かったのは朗報である。彼女いない歴通算30年近い僕が結婚できるかは不安だけど。


 そしてまさかとは思うけど、今回のエルフィス王国での父さんと母さんの問題が都合よく穏便に進んだのも加護のせい……?


 ……うわすみませんすみませんすみません、『冥界神』様謝りますのでどうかこれからもそのままでお願いします。なんならお供え物もしますので。


「分かったか? 加護あってのお前なんだ。お前本体はすごくもなんともねぇ。そのことをよく頭に理解させとけよ」



 ♢ ♢ ♢



「いやーいろいろと収穫だったな」


『魔導神』様との話を終えた僕はイリナと一緒にイリナの自室に移動していた。

 個室ではあるけどそれほどの広さはなく、また家具もほとんどない簡素な部屋だったので意外に感じた。


 とはいえ僕とイリナはまだ時間にして数日そこらの間柄でしかない。僕が知っているイリナのことなんてほんと一握りだろうし、逆にイリナだって僕のことを知らない。

 だけど知らないことは知ればいい。今日僕は知ることの大切さを知った。


 だからぜひともこの機会に親睦を深めたいと思っているのだけど……


「そ。よかったね」


 この塩対応である。


 イリナは『魔導神』様と話している時からずっとこの調子だった。これはいつものクールな返しではなく僕の何かに対し思うところがあるといった反応だ。


「えっと、イリナ。もしかして調子悪い?」

「別に。普通じゃない」


 普通に見えないから聞いてるんだ。


 さて、イリナが気にすることと言えば『魔導神』様のことしか思いつかない。でも二人の間には確執がありそうだったし、こっちから話題に出すのも悪いしなぁ。

 もともと話術に長けているわけでもない僕だ。相手に話す意思がない中で話し続けることなんてできず会話が途切れてしまった。


 これは一度出直すべきかな、などと思い始めた頃だった。イリナが僕に話しかけてきたのは。


「フィージルはいいよね。アンドレアにいいことを教えてもらえて」


 その声は友好的とは言えないものだった。だけど悪意が込められてるわけでもない。

 どちらかと言えば、拗ねているみたいだった。


「……イリナが『魔導神』様と仲悪いのって、もしかして昔になんか嫌なことを言われたから、とか?」


 思えばイリナはあの神様の言おうとすることをいちいち強く警戒していたように感じられる。

 単純に嫌いというのでなければ、過去にそうさせる何かがあったのではないだろうか。


「……仲悪いも何も、あの自分のこと興味以外は無関心なアンドレアと仲良くやっていけると思う?」

「うーん、どうだろう」

「そもそも生活力皆無なあの人が善意で身寄りのない私を引き取ったわけがない。そこにはちゃんとした理由がある」

「……もしかして、研究のため、とか?」


 まさかと思いながら訊ねると、イリナはこくんと頷いた。


「言ってたでしょ。アンドレアは研究対象への褒美をきちんと払う。私はそれでここの家に住む場所を提供された。それだけのことだから私たちの間に同居人以上の関係はない」


 そうはっきりと言い切るイリナの表情は諦念が浮かんでいる。すでに割り切っているとでも主張しているような顔だ。


「だからフィージルが私たちの仲の悪さを気にする必要はない。さっきのはやつ当たりだった。ごめん」

「いや、それはいいんだけどさ」


 それだけではないような気もした。まだイリナはすべてを話していない。

 これはぽっと出の僕がなんとかできるような話ではなく、もっと根の深いところにある問題だ。


「相談とかあったら遠慮なく言ってね。ほら、イリナは今回僕たちを助けてくれたし、恩に着せるとでも思ってさ」

「うん、ありがとう」


 これが今できる限界だ。またいずれイリナが助けを求めた時に手を貸すことができればいいだろう。



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