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称号世界の混ざりモノ  作者: 浮谷柳太
第一章 田舎暮らしの幼少期
14/30

第14話 少年へと

 さて、僕ことフィージルは父さんから本格的に戦闘を学ぶことと相成ったわけであるが、その前に父さんのステータスをおさらいしておこう。




 ==================



『白き旋風の姫攫い』

 個体名:ディエンテ=バラメント

 種族 :獣人種(白狼)

 スキル:一般

     <狩猟術><体術><棍術>

     <見切り><剛力><剛脚>

     <尖爪><鋭牙><鋼靭><気配察知>

     称号

     <柔体化><鋼体化><刹那>

     <背水><白破(びゃくは)

     特殊

     <鳴神の加護><獣化>



 ==================



 相変わらず惚れ惚れするまでの肉体派である。

 一般スキルの攻勢を見る限り、どちらかと言えば武器を用いて云々というよりも、いかに自分の体を武器にできるか、それに重きを置いているのがわかる。


<剛力>や<剛脚>は言うに及ばず。<尖爪>や<鋭牙>は種族特性からすればオードソックスともいえるスキルだ。

 余談だが、僕と同年代のウォンは殴打技を好んで磨いているらしい。仮にあの打突がすべて刺突だったならば、ヒットした時点で僕との勝負など決していただろうに。こちらとしてはそのこだわりに救われた形であるけれども。


 とにかく、武器よりも肉体攻撃を良しとするのは種族的な常識だと言い換えてもいい。<棍術>までならともかく、<剣術>を学べる可能性は低いだろう。

 まあ、こちらとしてはその方が意識的なハードルが低くて大助かりである。


 そして力が強くなるだとか、爪が鋭くなるだとか、そんな部分的なものではなく、根本的に体をつくり変えてしまうのが称号スキル<柔体化>、<鋼体化>だ。

 前者は関節すらも柔らかくして人体構造的に無理な動きも可能とするスキルであり、後者は攻・防共に有用性の高い名前通りのスキルである。


 ここまでが鍛錬で至った父さんの境地であり、僕が目指す目標ともなる。果たして混血種である自分が同じようになれるかは不明だが、やってみる価値は十分にあるだろう。


「よし、覚悟はいいな、フィージル」

「はい!」


 日が出る直後、特訓は始まった。

 まず父さんの目が違うことに気づく。これまでは強面ながらも笑みのあったその表情はきつく引き締められ、目つきや声の張りにも厳しさが感じ取れる。

 こちらもそれに応えるべく、今は肉親であることを忘れて一人の師として接するよう心掛けた。


「まず、お前は戦い方以前に体ができていない。今までのような運動ではなく、鍛錬が必要だ」


 そうして始まったのはマラソンだった。

 足腰にスタミナを鍛える重要性は理解しているが、なんとも普通である。やる前はそう思っていたのだが……


「き、きつい!」


 これが思った以上にハードである。これでも前世では陸上部。多少の自信と意気込みを持って挑んだものの、想像していたものとはまったく別だった。

 まず当然ながら、走る場所がグラウンドのトラックではなく森の中である。木が立ち塞がるし、地面は凸凹だしで、慎重にならざるを得ない。前を行く父さんに遅れないために、頭をフルで働かせなければならなかったのだ。


 さらに苦難は終わらない。崖を越え、川を越えてようやく家に戻ってきたころにはすでに疲労困憊だった。

 途中からは父さんの手を借りまくったので、完走とはなっていない。


「次だ。立て、フィージル」


 そして思った以上の鬼教官ぶりである。やると決めれば徹底して情を押し殺している。


「お前は人を傷つけることに躊躇があるようだ。それは悪いことではないが、いざという時にためらえば逆に己の身に危険が及ぶ」


 ウォンとの決闘で見抜かれていたらしい。まあ、がら空きの胴を殴るではなく、引きずり倒して決着をつけたのを見れば嫌でも分かるか。


「手加減を覚える意味でも、人を攻撃する感覚はきちんと身につけなければならない。そこで、だ。フィージル、俺を殴れ」

「ええ!?」

「お前の拳など痛くもかゆくもないから遠慮はいらない。思いっきりかかってこい」


 予想の上を行く内容に驚きを隠せない。言わんとすることは分かるけれども。

 父さんは腕を背中で組んで、ムキムキの腹を軽く突き出す。ここを殴れということか。

 ……進んでやりたいとは思わない。でも避けて通れることでもないし、何より僕ごときの拳が通用するとは思っていない。


「……んっ!」


 ぼすっ。

 明らかに弱々しい当たりだった。


「それで殴ったつもりか!」

「ひっ!?」

「腰を入れろ、力を込めろ! それともお前は俺をその程度で倒せるとでも思っているのか!?」


 まさしく頭上から雷が落ちた。

 こうして本気で怒鳴られるのは初めてのことだった。そうされるほど、先の一発は不甲斐ないものだったのだ。


 どうしても頭をかすめる躊躇。大丈夫だと思っていてもこびりついた前世の常識が、暴力を忌むべきことだと訴えていた。


 まず打ち勝つべきなのは自分の心。

 学んだはずだ。この世界には時にして理不尽な暴力に見舞われることがあると。他者の悪意で自分の一生が檻に封じ込まれてしまうということを。

 守る力が必要なのだ。自分を、大切なものを。


「……うりゃあ!」






 ♢ ♢ ♢






「……お前、やる気あるのかよ」

「いや、正直、今日、無理」


 律儀にも昨日とまったく同じ時間に我が家へと訪れ、昨日と同じように僕に戦いを挑んできたウォンだったが、今は闘争心よりも呆れや戸惑いの色を露わにしていた。


 いやだって、本気で無理だから。午前中のわずかな時間で体中がきしみ、今も悲鳴をあげ続けている。心身ともに疲れ切っているのだ。思わず片言で話してしまうほどに。


 たぶん明日は筋肉痛がひどいことになるんだろうなぁ……すでに絶望だ。


「だから、今日は、休みにしない? ていうか、毎日しなくても、良いと思うんだけど?」

「おまえ、勝ち逃げするつもりか」

「いや、違くて……」


 相も変わらず戦うことで頭のいっぱいな人である。自制していなければ今にも襲い掛かって来そうなくらい目がぎらついている。こういったところも『猛き者』ということなのか。


「もっと他にやることとかないの? ほら、この前連れてた子たちと遊ぶとか」

「レンレンとクルリか。今の俺には合わせる顔もない」

「え、なんで?」

「さんざんでかい顔をしておいて俺は二度も負けた。弱いやつが群れを率いる資格はない」


 群れってあんた……

 白狼とはそんなシビアな一族なのか。たしかにライオンのオスはほかのオスに敗れると群れから追い出されるとかって聞いたことがあるけど。

 まあ、察するにただウォンの意識が高いだけだろうが。本人も大きな顔をしていたと言っているし、こちらからは会いに行きにくいのかもしれない。


「僕もいつか謝りに行かないとなぁ。その様子だと誤解は解いてくれてないんでしょ?」

「誤解? 何のことだ」

「…………」


 おう……さっぱり忘れていらっしゃる。

 うん、難しい話だったしね? ある意味仕方のないこと、なのかな。


 とはいえ、ここで改めて説明しても頭の上に疑問符を浮かべられそうだ。


「そもそも、僕らってまだ自己紹介もしてなかったよね」

「殴り合えばだいたいわかる」

「……拳言語って便利だね。残念ながら僕は習得してないよ」


 習得したいとも思わないけど。


「僕の名前はフィージル。これはちゃんと覚えてよ」

「びっくりなよパンチ野郎のフィージルだな」

「どんな覚え方!?」

「殴り合いは弱いくせに、こっちを驚かせて不意を突いてくるフィージルってことだ」

「……否定できない」


 こいつは人を戦い方でしか覚えていないのか。戦い大好きのウォンにとっては合理的な覚え方だろうけども。


「『猛き者』のウォンだ。前に呼んでたから知ってるか」

「父さんに聞いてただけだから。改めてよろしく、ウォン」


 差し出された手を、ウォンは一瞬だけそっけなくつかんでくれた。


 何とも言えぬ達成感。称号の邪魔がありながら、こうして地道に人間関係を築いていけていることに嬉しさがこみ上げてくる。


「よし、じゃあ戦うぞ」

「え、この流れで?」

「当たり前だ。なんのためにこんなところまで来たと思ってる」


 自己紹介はしたけど、全然わかり合えていなかった。


 この後、僕は早々に足をつらせてダウン。ほぼウォンの不戦勝ということになった。








 そんな生活が続くうちに『花開きの季節』がやってきて、あっという間に『実りの季節』となり、いつの間にか『木枯らしの季節』も過ぎて季節が一周回っていた。


 その頃には朝のマラソンもなんとか一人で完走できるようになり、また人を攻撃するという行為にも戸惑いはなくなっていった。

 さらにあれからウォンは頻繁にやってきて互いに研鑽し合った。といっても、やはり鍛え始めた時期が違うので大半はウォンに軍配があがり、僕は奇策を用い手でしか勝利をつかみ取ることはできなかったのだけれども。



 そしてさらにもう1年。

 その頃には父さんとも実戦を想定した組手を行うようになった。もちろん転がされてばかりだけど、じゃれていた昔に比べればはるかに戦闘の体を為してきたように思える。


 そしてウォンは僕のところへ来なくなった。

 あちらもあちらの交友というものがあるのだろう。次第に拳を交える回数は減っていき、僕の方から会いに行くこともできない以上、一度途切れると目っきり会うことはなくなってしまった。

 原因があったわけではない。ただ、やはり僕では相手が務まり切らなかったのではないかと思っている。



 特訓を始めてから3年目、11歳ともなると、すでに日課の鍛錬を行ってから午後に自主練や家事の手伝いなど、再び変わり映えのしない日々へと舞い戻っていた。

 繰り返されるルーチンワーク。学んだ戦闘技術を発揮する場もなくなり、なんとも空しい日々が過ぎ去っていく。


 家族仲は相変わらず良好で、生活に困ることもないけれど、肉体的に若いせいか、退屈はひどく僕を苛んでいた。


 問題の称号にも変化は見られない。

 一般スキルは増えたけど、称号スキルすら増えることはなかった。この頃になると、もう期待して毎日ステータスを確認するということもなくなっていた。



 ――そしてさらに1年が過ぎ、僕は12歳となった。

 ――同時に、父さんが突然家を出て行った。






 ==================



(いびつ)な混ざりモノ』

 個体名:フィージル=バラメント

 種族 :混血種

 スキル:一般

     <演技><高速思考><家事><見切り>

     <強脚><体術>

     称号

     <種族選択>

     特殊

     <冥界神の加護>



 ==================



これにて第一章 幼少期編は終了となります。

読んでいただきありがとうございました。


次回からは少年期編①へと続いていきますが、ここで少しお休みをいただきます。

できるだけ早くお見せできるよう心がけますので、しばしお待ちいただければ。


それでは良いお年をお迎えください。

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