radio noise
マシンは垂直飛行をしている。
やはりGを感じる。
今の科学力では、Gを無力化する事はできない。
数十分間白いもやを見ていたら、体の負荷がなくなった。
ここは宇宙だ。
「さて、通信機の電源でも入れようかな」
スライダーを動かす。
今の時代はタッチパネル式の物とか音声認識とかいろいろな種類の物が溢れているが、僕はあえてレトロな物を使う。
昔の物は今と比べると簡単な構造で、大した機能はない。幼稚なおもちゃにしか見えない。
あえて使う理由は、誤作動の防止のためだ。
宇宙では何が起きるか予想する事ができない。
複雑なものはたった一つのパーツが使えないだけで動かすことすらできない。
大昔に打ち上げられた人工衛星も、地上にはもっと優れたものがあったけど、あえてしょぼい物を使用した。
幼稚でしょぼい機械は、誤作動が少ない。
だから愛用している人は少なからずいる。
僕が使う理由はそれ以外に、ロマンがあるからだ。
スライダーを動かして周波数を変化させる。
僕は通信機といっているものは、実のところただのトランジスタラジオだ。
{ザーーー}
ラジオ放送はもうやっていない。
どの周波数にしてもノイズしか聞こえない。
このノイズは宇宙誕生の時に発生したものらしい。
宇宙の神秘を感じることができる。
本来の通信機は太陽フレアによる磁気嵐のせいでここでは使えない。
例の星が見えてきた。
殲滅対象はまだ見えない。
僕は簡易建造物の横にマシンを止まらせた。
建物の中には人はいなかった。
例の生命体を生み出した研究所のようだが、随分前に廃棄されたようだ。
自分たちで生み出したものを他人に頼んで殲滅させるのは、あまり心地よいとは言えない。
例えるならば、どこかの神が人類を生み出して成長を見守っていたが、人類が神に牙を向けた。それに神は恐怖して天変地異を起こした。
どこの国にもあるような例え話だ。
しばらく残骸を見ていたらラジオのノイズの音が変わった。
「奴らのお出ましだ」
俺はマシンに乗り込んだ。