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第一話

プロローグ


 赤く燃えたぎった鉄を火炉から取り出して金床に置き、幾年にわたって使い古されたハンマーを叩き降ろす。カーンと耳慣れた音が工房の中に響き渡ると同時に、赤い火花が目の前で弾ける。この鍛冶屋で暮らすようになってから、すでに何週間と経とうとしているのだが、1000度にまで熱せられた鉄の熱気と飛び散る光の凄まじさには、今でも少々たじろいでしまう。鍛冶の作業着に身を包む少年は、少し長めの黒髪をかきあげ、幼さがまだ残る顔に落ちてくる汗を手拭いで拭き取ると、もう一度ハンマーを振り降ろした。


「おいウィル、そんなのんびりした叩き方じゃ、晩飯どころか明日の朝飯にも間に合わんぞ。このままじゃ2人とも飢え死にだ。」

 声の主は、少し離れた攻防の壁に寄り掛かって立っている男である。見た目は20代半ばほどの青年で、短く切ったぼさぼさの金髪と、長身で細身ではあるが鍛冶屋らしく筋肉がついた体躯をもっており、少年と同じ鍛冶の作業着を着ている。男は、あごに生えた無精ひげをぽりぽりと掻きながら、ぎこちない動作で鉄を打つウィルを可笑しそうに見ていた。

「なら、あんたが代わりに、叩けばいいんじゃ、ないのかっ!ガロン。」

 ウィルはハンマーを叩く手に力をこめながらそう言うと、今しがたガロンと呼んだ男の方を見やった。

「いーや、だめだ。これは『修業』だからな。代わってやることは出来んのだ。」

 ガロンはウィルににやっと笑いかけ、工房の棚に置いてある既に叩きあげられた農具や刃物などの確認作業に戻った。

 

 ウィルは返事をする代わりに目を細め、再び工程に戻った。鍛冶職人見習いとして、毎日の日課であるガロンが「修業」と称する、炉の火入れ、鉄の焼き、鉄の成形をこなすことになったはいいが、生まれてこのかた鍛冶などしたことがない若干16歳の少年には、やはりこたえるものがある。

 叩いても叩いてもがんとして塊のままである鉄を、横においてある焼き入れ用の水にどぽんと突っ込み、ウィルはガロンが居る棚のそばにある椅子にふうっと腰かけた。椅子に座って棚に所狭しと並ぶ金属製品を眺めながら、ふとウィルは以前から気になっていたことについて尋ねた。

「なぁガロン、前から思ってたんだけどなんでこの工房では剣とか斧とか、そういう武器の類を作らないんだ?こんな時代だ、需要はあるだろ。そっちのが儲かるんじゃないのか?」

 この「ガロン鍛冶工房」の棚には、金属製の農具や日用品が所狭しと並んでいるが、いわゆる武器と呼ばれうるものは何一つ置かれていないのである。

「ん?あぁ、そりゃあ作れば売れるだろうさ。でもな、俺は武器の作り方なんて師匠から教わっちゃいねぇんだ。つまり、ただ単に作りたくても作れないだけさ。」

 ガロンはこっちを見ずにクックと笑いながらそう答えると、少し哀しげな表情で、目の前の棚に立てかけてある鍬を持って眺めた。

「ただなぁ、こんな戦いにまみれた世の中だからこそ、さらに戦いを招いちまう武器よりも、生命を育むことができるこいつらの方が、俺は作りがいがあると思うがな。」

 そう言ってガロンは鍬を置き、ウィルの方を向いて手をパンと叩いた。

「ほれ、そろそろ今日の『修業』は終いだ。村へ出て注文されてた品を渡してきてくれ。あとついでに、今日の晩飯の食材を買ってこないと、やっぱり2人とも飢え死にだぞ。」

 

 ガロンはにやりとしながら最後のセリフを言うと、今日の日付と注文先が書かれたメモが上に置いてあった薪割り用の斧を、ぶんとこちらに投げてきた。ウィルはうわっと叫びつつも慌てて両手でそれを受け止めると、やれやれと首を振りながら斧を肩に担ぎ出口の方に歩いて行った。

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