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あいつ

 コンビニで、なけなしのお金で買ったスミノフを飲みながら江古田を徘徊する。二月の明け方だから、超寒い。酒がすすむ。体を暖めるために、さっきと同じコンビニで同じ酒を買う。こういうときに限って全く酔わないってどうなってるんだろう。いつもなら一本空けたら気分がよくなるのに、今日に限っては嗚咽が出るほど泣けてきている。店員もジロジロ見てくるけど、止まらない。これ、泣き上戸ってやつ?ていうかこんな状態でも平気で外歩けるんだからむしろベロベロに酔っているのか?わかんないけど、死にたいから一気飲みした。死ぬどころか酔いも回らなくて、呪われたんだと思った。今まで嫌な思いをさせてきた人々からしっぺ返しくらってる気がした。この日の江古田駅発池袋行きの電車の始発は四時四四分だったし、何だかそういう、感じ。早く帰りたいから早く江古田駅に行ったけどシャッターが閉まってた。駅前で煙草をぱかぱか吸った。吸い殻は酒瓶の中に捨てて、きちんと瓶もゴミ箱に捨てた。ういーん、と、シャッターがゆっくり開き始めて、周りにちょろちょろいたおじさん(本当におじさんしかいなくて驚いた)が吸い込まれるようにして駅に入っていく。わたしも、ついていく。猛烈におしっこがしたくなってトイレに入った。おしっこがまっ黄色で愉快だった。けど、すぐに、あいつはこのおしっこみたいな色のカーディガンをよく着ていたな、って考えてしまって泣けてきた。時計を見たら四時三十分で始発電車が来るまでにまだ時間があったから少し泣いてからトイレを出た。鏡を見たら、わたしの顔は、元々の丸い顔が酒のせいでむくんでいることと泣きすぎて目が腫れてしまっていることによってかなり醜くなっていた。マスクを装着して、ホームに向かった。四時四四分、このまま電車に飛び込んでしまおうかと思った。けど、怖いし、痛そうだし普通に乗車した。窓にうつったわたしの半分隠れた顔はやっぱりひどかった。窓の外が朝になっていく。朝日がきらきらしている。それに比例して心が死んでいく。

 

 不良さながら、朝帰り。自室に入って、手首を切った。何年ぶりだろう。バイオリン弾きみたいに剃刀を手首に添えて、弾く。なるべくリズミカルに!楽しくなってきて、予定していたよりも切りすぎた。推測だけど、お酒飲んでるからあまり痛くなかったんだと思う。気づいたら血が滴り始めた。血をいやらしく舐めてみた。何も考えずに。もうあまり悲しくなかった。リストカットにハマる人って、こうやってハマっていくんだろうなぁと思ったら怖くなって、ティッシュで唾液を拭いてからベッドに潜った。ジンジンと、鈍いのか鋭いのかわからないような痛みがしてきて、寝れなさそうだったけど結局すぐ寝て、起きたらすごく痛くて、蚯蚓腫れになっていて気味が悪かった。


 「わたしさ、今までも手首切ったことあったけど、それってさ、自分を責めるって言うかなんて言うか自戒の念をこめて切ってたってとこあって。でも今回はさ、あいつのことを考えて切っちゃってさ、なんだろう、あいつを刻みたいなんて思っちゃって。名前彫ったわけでもないんだけど。それと、もう人のことを好きになるな、信用するな、っていう自戒の念もこめた。あはは、結局自戒なんだよね。あ、でもさ、十二歳のときに切った傷今でも残ってるんだけど、何の自戒で切ったのか忘れちゃったの。そのときの血で遺書書いたのは憶えてるんだけどね。あ、今回は書かなかった。全部舐めとった。うけるよね。わしゃ吸血鬼か、つって。セルフ式吸血鬼かっつって。」


 二週間後くらいにあいつに会った。あいつの手をとって、醜く腫れあがったわたしの手首を無理やり触らせた。あいつがどんな顔をしていたかはわからない。けど、初めて、あいつが小刻みに震えたのを感じ取った。可笑しかった。


 一年後。傷はもう跡形もない。あいつにも会っていない。自戒の念は消滅して、ついでに呪いも解けたから酒を飲めば酔っ払う。

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