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はんぐ小説まとめ

世界色

作者: はんぐ

「君。本を読まないだろう?」


歩いていると、目の前の老人が突然そんなことを言ってきた。


「仮にそうだとして、おじいさんになんの迷惑がかかるんです」

「かからない。だが、かかる。気になるだろう?わしが」


ふざけたことを言う老人である。

私は憤って老人にこう告げた。

「それは貴方の勝手でしょう。勝手に気にされた私だって被害者だ」


「まぁ、そうゆうなて。この老いぼれたジジイの話。聞いてやらな可哀想じゃ思うじゃろ?」

「次は哀れみを乞う作戦ですか?ていうか、貴方、そんないかにもな口調で語らずとも、普通にはなせるでしょう」

そういうと、老人はいきなり笑いだした。

「はっはっはっ!気になるね!やはり気になるよ、お前さん。本の世界を知らないと言うのに実に面白い」

このジジイは頭が可笑しいのではないか?ここにきてやっとそのことを思い付いた。

我ながら遅すぎる。だが、言っておきたいことを言わず立ち去るのは性に合わない。

「僕は本至上主義でもなんでもないので。と言うか、本を読む読まないが全てだなんて、おかしい」


言いたいことを言ったので僕はその場を立ち去ろうとした。


「本は物語りだ。流れだ。感覚だ。視点だ。でも、君は本を読まないらしい。それなのに君がそんなに面白いのは君が世界から読みとっているからではないかな」


私は老人の言ったことを無視し、老人に背を向けて歩いた。


だが、しかし、私が気の向くままそこらの店をまわっていくと、さっき老人と会ったところに行き着き、そして老人も待ってましたと言わんばかりの顔でこちらをみていた。


「おい、ジジイ。その顔をやめろ。俺は戻ってきたんじゃなく、たどり着いてきたんだ。と言うか、まだいたのか」

「数時間ぶりの再会じゃのにずいぶんと冷たいのぅ。わし泣いちゃう」

「気色が悪い」


私はまたジジイに背を向けてその場を去ろうとした。


「待ちなよ、わかものー」

ジジイ楽しそうな声が実に不愉快で、私は振り返った。

「まだなにか」

「君はまたここにくるよ?今日はもう無くても明日…明後日…君は必ずここにきてしまうよ」


私はその言葉を無視してその場を去ってそのことをなかったことにしてもよかったが、何故だか私はそうしなかった。

「ジジイはどうして私が本を読まないと思ったのです?」

気づけば私はそんな質問をジジイに投げつけていた。

「目がね。普通、本をみたらどんな本か確認したくて注視してしまうのが常だろう?君は本をただの物のようにみていたからね。いうなれば、一般で言うところの机やしゃーぷぺんしるのような物としてね」

「なるほど」

そう納得して私はその場を立ち去ろうとした。


「いーのかい?」

立ち去ろうとしているのが何故わからない。

「ええ。私が明日、何度かここを訪れたとしても、それでもその明日はやってきますから」

「終わらない物語りか…」

「終わらせない物語りです」

「つまらんのぅ」

なんて不愉快なジジイだろう。

「気のせいです。後、その口調どうにかしろ」

「いーじゃーないか。君だって口調を人、気分、湿度によって変えるだろう?わしはそんな君もよいと思うがね」

私は自分の口の端があがるのを自覚した。

「そうでしょう?自分でも気に入っているのです」

このジジイと話てはじめて気分が上をむいた気がする。

「なら、わしがどう話そうと君は責められまい?」

「僕の口調は貴方に好感を与えているのに対して、貴方の口調は僕に不快感を与えている。よって僕は責めますね」

「片意地じゃのぅ…」

ジジイはそう言ってこちらを恨みがましい目でみた。

「それが私と言う人間なのです」

「可能性を狭めるのはよくないよ。今からでも柔軟な思考を心掛けてみないか?」

「無理ですね、それでは私が私でなくなる」

と言うか、そもそも何故私はこんなジジイの話をきいてやっているのだろうか。

今さらな問いに答は見つからず、代わりに理由など無いという事実を見つけた。

「今度こそ私は立ち去りますよ、おじいさん」

そう言って私はその場を立ち去った。





















「もう何度目かな、君と会うのも」


「さてな。ジジイがどっかに行けばもう会わないんじゃないか」

このジジイと会ってからもう二週間は過ぎた。一日にここに来るのは一度で済まないから、私はもううんざりといったところである。


「またあ…そんなことを言う」

そう言ったジジイの声も覇気がなかった。

ジジイもいい加減この茶番劇に飽いてきたのではないだろうか。

現在、私とジジイは何処かのビルの歩道に面した階段の上に座っている。

私とジジイは会うたび下らない話をするので、もうここ座り込むのは習慣となっていた。

「ジジイ。何故あんたは毎度俺に話しかける」

「わしは終わらせなければならないからだ」

「何故。世界はいつも終わらない物語りだ」

「人は終わる。世界もいつか終わる。」

「いつか、だ。この話も俺がこの世から消えればいつか終わらざる得ない」

「君は世界である前に人だろう」

「…………人の枠で世界をみるただの人だ。人からみた世界なんて終わらないものだ。理解はしても実感はないのだから」




私は本が好きではない。終わった話も、終わる前の話も私は好きではない。

いつか終わるといい続ける世界が好きなのだ。

一人一人の人が造り上げる形が芸術なのだ。

醜くも楽しいく儚く穢らわしい世界が好きなのだ。



私は立ち上がった。

「わかものよ」

私が別れを告げる前に声をかけられてしまった。


「君の名前は…なんだったかな」



「…………加藤晃、ですよ」


そう言って私はその場を立ち去った。

















その後、私はあの場所にたどり着くことはなくなった。















おそらくあのジジイが終わらせたのだろうと思う。


私が頑なに他人のシナリオの上を歩くことを拒んだからなのか、私の頑として譲らない姿勢に心うたれたからなのか、はたまたジジイが意外にも私との会話に満足を得たからかは定かではない。

むしろ、知らなくていい。


物語りは終わったのだから…。



ここまで読んで下さった方いましたら、ありがとうございます。小説投稿は初めてでしたので、拙いところだらけだったと思います、すいません。

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