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ナンバー2

「いやはや、どうもどうも」

 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。

「どこに行かれますか?」

 彼は客の女性に問いかけた。

「吉祥寺の駅前へお願いします」

 彼女はさらっと答えた。

「吉祥寺ですね。中央口のほうでよろしいですか?」

「はいそうです」

 彼女はサングラスを頭にかけていて、左足を上にして足を組んでいる。

「吉祥寺はいいですよね。学生の頃よく行ったものです。ジャズ喫茶やライブハウスがたくさんありますしね。僕こうみえてサックスを吹くんですよ」

「へぇー、そうなんですか」

 彼女は興味なさそうに、上を向いて言った。

「ははっ、どうでもいい話ですね。そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」

「…何に見えます?」

 首を少し傾げ、試すように彼女は言った。

「ん~、そうですね~。それは、何か資格が必要なお仕事ですか?」

「いい線いってますね。確かに必要です。ちゃんと専門の学校に行って資格を取りました」

「そうですか。それは男性の方もいらっしゃいますか?」

「それは…どうでしょう。だいぶ少ないと思いますけど、ほんの少しいるかもしれないです」

「なるほど。では、そのお仕事の人は職場に何人くらいいるんですか?」

「普通は1人です」

「あぁ、なるほど。だいたいわかってきましたよ」

「これでわかるんですか!?」

 話に乗ってきたようだ。

「おそらく、保健室の先生ではないかと」

「えぇ~、すごい!よくわかりましたね!ははっ」

 手を叩いて、笑っている。

「やはりそうでしたか。看護師かどうか悩みましたが、最後の質問ではっきりしました」

「なるほど~、いやほんとにすごいですね!」

 車内の空気が少し明るくなったように感じた。

「保健室の先生…。正式名称は養護教諭でしたよね」

「そうですよ。よくご存知で」

 声のトーンが少し高くなっていた。

「保健室の先生っていいですよね。担任の先生や学年の先生にも言えない様な学校生活での悩みや一部個人的な悩みも聞いてもらえて、他の勉強を教えている先生とはわけが違いますよね」

「確かにそれはよく言われることですよね。私も相談相手によくなります」

「やはりそうですか。僕もよく仮病で保健室に行ったときにはお世話になりました」

「いますねそういう人!まったく何を考えているんだか…」

 テンションも上がってきて、彼の言葉にいいリアクションをとるようになっていた。


「あなたのような綺麗な方だったら、そりゃ保健室に行きたくなりますよ」

 後ろをちらっと向いて、笑いながら彼は言った。

「口八丁ですね」

 まんざらでもないといった様子で微笑んだ。

「確かに、そういう人たちが大半なのかもしれないですね。だって、来るのはだいたい男子ばっかり」

 うんうんと彼は頷く。彼が頷き始めたら、聞き役に転換するという意思表示だ。

「私自身もちょっと期待しちゃいますよね。やっぱかっこいい男子がきてくれたほうがうれしいし、不細工な男子が来たら残念に思うし」

 ほぉ、と彼は相槌をうつ。

「今私が担当しているのは高校なんですけど、高校生にもなると男子はマセてきますからね。電話番号とかメアドとか聞いてきて、放課後連絡してきたりするんですよ」

 そんなことが、と彼は相槌をうつ。

「気分がいいときは、その誘いに乗っちゃいますね。なんか別に悪くないなって」

 そういうもんですか、と彼は相槌をうつ。

「最近は、草食系も好みだけど、がっつり来る子も好きですね。精一杯大人ぶって、低い声で迫ってくるの。まぁガキのやることなんで、かわいいもんですよね」

 ははっと笑いながら彼女は言う。

「まぁこんな感じだから、私女子受けは悪いんですよね。しょうがないっちゃしょうがないんですけど」

 少しトーンを低くして言った。

「それは仕方ないですね。女性の嫉妬は怖いものです」

「まったくその通りです」

「何はともあれ、いろいろな生徒に必要とされていいじゃないですか。羨ましいです」

「ふふっ、そういう見方もありますよね」

 舌を出して彼女は言う。

「見方よってだいぶ変わってきますからね」

 信号が青に変わった。

「まぁ私今の仕事は好きです。あ、男子といちゃつくのが好きっていうんじゃなくて。昔は小学校を担当したこともあるし。要するに子どもが好きなんですね」

「それはいいことですね。好きこそものの上手なれ、と言いますし。それなら安泰ですね。僕もいろいろな仕事をやってきましたけど、今の仕事が一番しっくりきてます」

「ですね」

 目を細めて彼女は答えた。

 話が一段落着いて、沈黙が流れた。彼女はこれ以上語ることはなかった。

「着きましたね。ここでよろしいですか?」

「はい、ここで降ろしてください」

「わかりました、お疲れ様でした」

「どうも、お話楽しかったです」

「僕も楽しめました」

「では」

 彼女は車から降りて、立ち去っていった。

「いやー、それにしてもエロい体つきの女性だったな」

 そして再び彼の車は走り出す。

 どこまでもどこまでも。

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