終わりと始まり
二作目になります。
とはいえ、一人称の練習作として、以前から書き貯めている別の作品の続編として書きました。
まだまだ、拙いところが目立ちますがガンバっていきます。
タグどおり、不定期更新になりますがご容赦ください。
暗いな、ここは。
そういえば、俺はなんで、まだ意識があるんだ。
確か、アイツを道連れにして死んだはずなのに。
なんで、生きてるんだ。
違う、そんなことよりも。まだ、動けるなら逝かなければいけない。
まだ戦えるのなら、俺は。
「いや、君はきちんと死んだよ。
少なくとも、目と鼻の前で手榴弾を爆発させて生きている人間を、僕は見たことが無い。」
俺の目の前には紅い、紅いビジネススーツを着た30代くらいの男とその後ろに控えた、まだ10代にすら見えない、黒いドレスを着た少女がいた。
「混乱はしていないのかな。まあ、君の生き方を少しでも見せて貰えばある程度は納得も行くけどね。
とりあえず確認の為にもう一度言うけど、君は死んだ。だから、次の舞台に立つために。今、君はここに召喚さ(よば)れたんだ。」
理解は出来たかな、と微笑む男の前で俺はただ、そうか、とだけ呟いていた。
死んだのか、不幸なことばかりだったあの生活から開放されたのか。
でも、でもだ。
「なあ、頼む。生き返らせてくれとは言わない。
だから、俺の。俺たちの戦いのけ…… 」
俺は目の前にいる紅いスーツを着た男に頼んでいた。俺たちの結末を知る為に、誰かも分からない男に懇願していた。
頼むからと、お願いだからと、だが、俺の言葉は紅いスーツの男が唇の前に指を立てた瞬間に、声にならなくなった。
俺が静かになったのを確認するかのように、ただ、男はこちらをジッと見つめていた、その目は本当に俺を写しているかすらも分からぬほどに、どこまでも紅く澄んでいる。
この状態のまま、どれだけの時間がすぎたのだろうか。10分か、20分か、それとも実はまだ1分も経ってはいないのだろうか。
やがて男は俺が静かになったことに満足したのか、何かに頷きながら喋りだした。
「現状は理解できたのかな。後、僕は頭のいい子が好きなんだ。善し悪しは別にしてね。」
と、紅いスーツの男の声には感情なんてこもっていなかった。そこらに落ちている石ころと同じように俺を見ている。俺が口を閉じて頷くと男はやっと話を進めてくれた。
「君には違う世界に往って貰う事になる。だけど、その世界はこちらに比べると大分、危険な事が多くてね。ああ、ついでに魔法とか魔物とかもあるから。
そうそう、一応三つの特典を君は享ける事ができるんだけどね、どんなものでもいいよ。
ここでこちらの誰かに使うも良し、向こうの世界に往った時の為に自分の身体を強くしてもいい。」
まあ、君には必要ないかも知れないけどね。紅いスーツの男はそういい、まだ言葉を続ける。
「出来ないことは一つ、生き返ること。生き返すこと。君自身と他者への不老不死化。
つまり、直接生死に係わることは神ではない君には基本的に出来ない、望めない。ただ、君が望めば自分か君の知る誰かに異常な力を、治癒や再生の力を付加するぐらいならできるよ。
さあ、君は 」
どうする。その時に紅い男が初めて本物の感情をみせた気がした。
たぶん、いや、確実にこの男は、俺の、俺たちのことを知っているのだろう。
だから、こいつは俺を誘惑する言葉を掛ける。治癒、再生、その力をあいつらに贈れたら、今、怪我をしている仲間は、死の淵を彷徨っている仲間たちは何人も助かるのだろう。
だけど、俺はそれを選べない。いや、選ばない。
俺たちが起こした戦いだ。負け犬のようになりたくはなかったから、尻尾を巻いて臆病に逃げ出したくはなかったから。だから、戦った。
それを何も知らない男に助けられるなど、到底俺には選べなかった。それに。
「なら、見せてくれ。
俺たちの決着を、DOG‘sの結末を。」
俺の願いなんて、初めから決まっている。
俺の見た光景は酷い有り様だった。
俺の願いを聞いて、紅い男が空中に映した映像はさっきまで俺がいた場所、嵩魅財閥の所有するビルの内部の映像だった。
何十人では足りないほどの人が死んでいた。その中には俺が殺した奴らも、俺たちの仲間も、尊敬していた人もいた。そして、両親を事故で亡くした俺たち兄妹にとって家族同然に育った人たちも死んでいた。
俺は映像を見ている途中で、特典をもう一つ使ってしまった。
俺の戦う理由であり、俺が裏の世界に入った原因。
だけど、俺はそいつが殺されそうになった時には迷わずに横にいた男に頼んでいた。紅いスーツの男はどこかキョトンとしていたようにも思える。
俺はただ、
妹の、結花の身体を借りることは出来るか、と確認を取っただけなんだが。
紅いスーツの男は時間制限は有るけどといいの、と聞いてきた。俺は必要以上に結花に負担が掛からないようにと、結花の負担も含めて10分なら大丈夫かと確認を取り、結花の身体を借りた。
結花の身体を借りた時、最後に少しだけ時間があったらしい。だから俺は、俺たちのリーダーに、
裕香を、妹を頼むと伝えた。その声がアイツに届いたかは分からない。
だけど、いつも冷静で。誰よりも冷酷で。頭が切れて。でも、俺の知るなかで、誰よりも優しいアイツに高見悠里になら、きっと、届いたと思うんだ。
だから俺は。
「ねえ、本当にそれでいいんですか。今までも転生者やトリッパーは沢山いましたけど。最後の特典をそんなことに使おうとしてるの、多分、君だけですよ。」
紅いスーツの男は何度も、何度も俺に問いかけてくる。たぶん、こいつは自分が理解できないことを願う俺を、本気で不思議がっているのかもしれない。
だから俺は、もう一度その言葉を発する。
「ああ、最後の特典はこれにしたいんだ。」
俺にとって、絶対に譲れないことを。
「俺の心に、魂に。今まで生きてきた俺の名を。
織坂・T(高見ヶ原)・祐樹の名を刻み付けてくれ。」
たとえ、全てを忘れても。この名前だけは、今の俺が生きた証になるのだから。
「往っちゃいましたね~。彼。」
不思議な子でしたね、と私はゴスロリでしたか? を着る少女に声を掛けました。しかし、この場所にあんなに長くいて自分というモノをあそこまで維持する事ができるなんて。
「しかし、本当に不思議な子でした。態々、自分で往かなくても、ここで妹さんやあの男の子に力を与えればそれだけで済んだのに。」
ただでさえ、この場所に、神の住む地にあれだけ長い時間いたのに、二つ目の特典も自分の魂基情報を更に傷つけるもの。その危険性を教えても揺るがずに即決するとは。本当に珍しい子だ。
しかし、この子もなかなか返事を返してはくれませんね。よほど、以前のリピーターが嫌だったんですかね。あれ以来、まともに喋ってはくれないし、今回も、彼が自身にもつイメージが黒いゴスロリの少女だったことで、彼がくるまで膝を着いてましたしね。
とはいえ、
「本当に面白かった。2000人以上の人間をその手で殺した殺人鬼と聞いていたのに、それほど狂っていないとは。いや、別の方向に狂っているんですかね、あの子は。」
だからこそか、退屈なことばかりのこの場所で、様々な感情を魅せる人間たちだけが私の唯一の楽しみなのだから。
ン、どうかしましたか。えっ、笑ってる私が。そうですか、私は今、笑っていましたか。
と、まだなにか。
「ねえ、えんまさま。なんで、なんでふたりもつづけて。わたしに、しにがみにもついめーじが、ようじょなの。」
ねえ、ねえと。
知りませんよ、そんなこと。そんなことをいえば、なぜ、閻魔大王に持つイメージがあざとい喋りの赤スーツなのかも、私には分かりません。
とりあえず、次の人を呼んでください。
それから、少しして私たちの装いが変わりました。
「ふむ、次はこの姿という訳か。」
今の我の姿は、我が一番気に入っていると言える姿だ。一面の鏡のようにも見えるゲートには今の我の姿が映っている。その姿は荘厳な衣装をまとい、顔には胸まで届く立派な髭もある。我は今生えたばかりの髭を擦りながら、部屋の内装を変更する為に振り返ると、そこには。
白いゴスロリを身に纏い、両手と両膝を床に着く死神がそこにいた。
「クックックッ、やはり、人とは面白い。」
我は、そろそろ泣きそうな死神を慰めると、次の仕事のために部屋の内装を変えていくのだった。
この作品を読んでくださった読者さんたちの
ちょっとした暇つぶしになってくれればと思います。