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第一話


「母さん、離婚するわ」

「え?」


 幸せの壊れた音がした。


 話をしているのは親子だった。

 母親は金糸の様な髪を腰の辺りまで伸ばしており、陶磁器の様に白い肌に整っているその顔にある黄金の瞳。

 そのできすぎた容姿の造形はまるで人外じみた人形のようだ。

 宝石のような輝きをしている二つの瞳はまっすぐ少年を息子を見ていた。


 綺麗に切り揃えられた黒髪や黒い瞳は母親とは色が違うが整った顔立ちや綺麗な肌などは成長途中でありながら母親の血が流れている証だった。



 一瞬、理解が出来なかった。いや、理解したくなかった。



「え……母さん、離婚って?」

「ごめんね……なにも…………聞かないで」

 理解したくない俺の問いに母さんの謝罪が答える。

 母さんの声は、悲しみで震えていて、閉じられていた瞳から流れた涙が肌を流れ床に落ちた。

 当時の俺は離婚の意味がよく分からなかった。

 知っていたの家族がバラバラになって、父親と母親が別に暮らすこと。そして、離婚する家族は幸せでは無いということだった。

「離婚って……どうして、あんなことがあったから? 僕があんなこと言ったから?」

 だんだんと語気が強くなっていくのが分かった。自分でも気持ちが昂っていった。


 納得できなかった、前まであんなに幸せだったのにあの幸せがもう無くなるということを理解したくなかった。

 理解したくなかった、あの幸せが壊れるということ、あの幸せを壊すということ。


「それは違うわ!」

 母さんが俺の言葉を否定した。

「たつやのせいじゃないわ…………悪いのは私……そう、私が悪いの…」

 母さんは顔を伏せ、自分に言い聞かせるように言った。

 母さんも父さんも、離婚なんかしたくないはずだ。前まで、ほんの少し前まではあんなに幸せだったんだ。


 けれど、納得してる自分がいた。あんな(・・・・)があったんだ…………あの幸せはもう壊れたのだとすぐに理解できていた。

 俺なんかが幸せになっちゃいけないんだ。だってあれの原因は――――


春姫(はるき)は!父さんはどうなるの!」

「春姫はお父さん、秋臣(あきおみ)さんと暮らすわ……」

「そう……なんだ……」


 だってあれの原因は俺なんだから。


 少年が呆然と立ち尽くしてるいると母親は優しく微笑むと、少年に顔を近づけた。

「え…なに、母さん?」

「おまじない――」

 母親は少年の前髪を撫でるようにかきあげると、おでこにキスをした。

 すると、少年は淡い黄金の光に包まれた。光はすぐに何事も無かったかのように消えた。

「たつやが…私の息子のたつやが…私達を幸せにしてくれたたつやが…幸せになれるためのおまじない」

 そう呟くと、母親はまた優しく微笑んだ。


「たつや、これからはもう……金城(かねしろ)の姓は使えないわ。名前が変わるの……新しい名前、つまり、私の元の名前は――――」



~~~~~



 陽の光が目を覚まし、小鳥のさえずりが朝の訪れを知らせてくる。

 時と場所が変わっても、朝のこの時間は変わらないと思う。


「夢……か…」


 母さんが父さんと離婚したのは、十年前のことだ。

 その時の俺は小学校一年生で、なにも出来なかった。そう、俺のせいで二人は離婚したんだ。

「今日から、高2だってのにな」

 十年前のことをでいつまでも悩んでいてもしょうがない。

 頭を振って目を覚ます、朝から嫌なことを考えていてもしょうがない。

 何事も前向きに、幸せをよびこむんだ。

 眼を閉じる、一度深く深呼吸。

「よし」

 服を着替え、荷物の確認をする。準備は昨日のうちに済ませている。

 鏡で身だしなみを確認、寝癖があったので直そうとして、ふと気になって携帯で時間を確認する。

「――!」


~~~~~


 空は晴れ渡り、太陽が優しく地面を照らす。

 街路樹の葉は青々と若葉が茂っており、街には綺麗な新緑が溢れている。

 車があまり通らないため、非常に空気が澄んでいて、暖かい風が頬をくすぐる。

 こんな天気なら、花見にはもってこいだろう。


 そんな天気の中、走っている青年がいた。そりゃもう全力でなりふり構わず走っていた。

 すれ違う人々が、変な眼で見ているが青年は気にしない。


 外見は地味。痩せ過ぎではないが細い身体に加え、親譲りの白い肌が悪く作用しどこか男らしく無いように見える。

 髪は少し長めだがぼさぼさで整えられていないが、学校指定の制服はしっかりと着ている。

 身体からはどこか暗い雰囲気を漂わせ、視界に入っても気に留めない、見てもすぐ忘れてしまう普通の一般人。


 それが十年前、金城の性を失った少年。

 成長し、今日から高校二年生になった青年たつやだった。

 

 たつやは走る、学校に遅刻しないため。

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