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たぶんこんな感じかもな童話集  作者: 清見こうじ


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7/10

第7話 たぶんラプンツェル

 昔々、あるところに魔女がおりました。


 実は自分が魔女だということは、家族にも内緒にしていました。


 特に悪さをするわけでもなく、誰かを呪ったり私服を肥やしたりなんてするわけでもない、単純にちょっと魔術にたけているというだけの、善人とまでは言いませんが、まあ普通の人だったのですが。


 ただ世間からは『魔女』というだけで、もう『普通』じゃない、と思われがちです。

 せめて、『普通』じゃないけれど、よき隣人として扱ってくれる土地柄ならよかったのですが、この魔女のいた地方は、魔女を蔑視する風潮が大変強い土地でした。


 なので、先代である父の年の離れた長姉である伯母から魔術に関する書物やら魔法薬の材料となる生薬やら、その他諸々の『魔女のお宝』を、森の奥深くにある隠れ家と共に引き継いだ時にも、『くれぐれも正体がばれないように』と厳命されました。


 そういう伯母も、家族には『ちょっと遠い街に出稼ぎ』と言い訳して、実はこっそりこの町で暮らしていたのです。


 年末には沢山のお土産を持って帰省する伯母の仕送りのおかげでそこそこ裕福な暮らしができていたので、父はもちろん母も『出稼ぎ』を咎めだてたりしませんし、むしろ大歓迎でした。


 いつの世も、どんなに良い人でも小姑というものは敬遠されがちですからね。


 そんな伯母が、『自分の仕事を任せたい』と幾人かいた姪っ子の中から選んだのが、この魔女でした。


 見た目は地味であまりパッとしない大人しくて地道にコツコツ働く無口な姪っ子の本質が、じつは研究好き(オタク体質)陽気な交流が苦手(コミュ症気味)な少女であることを、伯母は見抜いていました……だって、同族でしたから。


 そんなわけで、伯母と共に出稼ぎに行くふりをして、目と鼻の先にある森の奥深くの隠れ家で生活すること十数年、立派な魔女となって伯母の跡を継ぎました。


 魔力の源である髪を長く伸ばしている以外は、見た目はそのままパッとしないままでしたので、家族も魔女になったことは気が付きませんでした。


 さて。


 男兄弟がいなかったので、実家は年の離れた妹が婿を迎えて跡を継いでいました。


 この妹が、たいそうわがままな娘でした。


 仕送りのおかげで、貧乏というわけではありませんでしたが、遊び暮らしていけるほどではありません。


 なのに、「汗水たらして働く人生なんて私にはふさわしくない」「いつかきっと私の隠れた才能を見出してくれる人が現れる」「本気を出したら私はスゴイんだから、今は充電期間」と言って朝から晩までだらけており、夜になればあちこちの居酒屋で若い友人達と大騒ぎして飲んだくれているのでした。


 両親が叱ってもどこを吹く風、聞く耳を持ちません。しまいには大声で怒鳴りつけたり家中の物に当たって壊したりする始末。


 結婚して少しは落ち着くかと思いましたが、頼りの婿殿も一緒に遊びまくっていて、多少の遠慮はあるのか暴力に訴えてこないだけマシというレベル。


 途方に暮れた両親は、その冬に帰省した本当は魔女である姉娘に相談しました。


 まあ、実は近くの森に住んでいる魔女は、とっくの昔に知っていたのですが。


「末っ子だからって甘やかすからよ」


「ああ、だけど、早くにお前を手放して、その寂しさもあって、ついねえ……」


「つい、なあ」


 チラッと姉娘に責任転嫁してくる母親と父親にも腹が立ちましたが、何はともあれ、自分の稼ぎをやたら食いつぶして自堕落な生活を送る妹を放っておくわけにもいきません。


 仕送りを止めて痛い目を見せる、という手もありますが、結果的に両親にしわ寄せが行くと思うと踏み切れません。


 両親もまだまだ働き盛りなのに、そう考えてしまうところが、実は両親を、ひいては妹を甘やかしていることになるのだと気付けていないことは、姉魔女の人間的な弱さなのでした。


 さて。


 仕方がないので、自分探し(モラトリアム)謳歌中の妹に姉魔女はお説教しました。


「お父さんもお母さんも、いつまでも元気で丈夫ではないのよ? そうなったらあなたはどうやって生活するつもりなの?」


「えー、そうしたら、お姉ちゃんに頼るから大丈夫! 何なら帰るのに一緒について行くしぃ~ここより都会なんでしょ?」


 今でも経済的には頼り過ぎなのに、さらに生活全般頼る気満々な妹に、姉魔女は溜息をつきました。


 さすがに危機感を覚えた姉魔女は、気合を入れてさらにお説教を続けましたが、言いたいことの半分も終わらないうちに、妹が部屋を飛び出していきました。


 逃げ出したのではなく、口元を押さえて「うっ」と(うめ)きながら洗面所に飛びこんだのです。


 後を追っていくと、洗面台に顔をうずめるようにして嘔吐(えず)き続ける妹の背中がありました。


「……もしかして?」


 姉魔女は産科の知識も持っていますし、そうでなくてもお約束なこの展開です。


 まあ、結婚もしていますし、子供が出来れば少しは落ち着くかと思いました(既視感(デジャヴ)!)が、素行は変わりません。


 さすがにつわりが重いうちは、夜遊びも控えていましたが、それが治まると居酒屋に出かけたり、体が重くなって億劫になってくると家中に酒瓶を転がして飲んだくれる始末。


 様子を見に来た姉魔女は「(アルコール)は控えないと」「無理がない程度に少しは動いた方がいいのよ」「少しは野菜も食べないと」「お腹の子供を守れるのはあなただけなのよ」とついお説教してしまいます。

 

 気が付けばずっと実家に居座る羽目になりました。


 妹のために妊婦の身体によい食事を作ったり、規則正しい生活を促したりしました、が。


「やだぁ、ストレスためるのが一番胎教によくないのよ!」


 と聞く耳を持たない妹に、姉魔女は一計を講じました。


「美味しそうなラプンツェルを見つけちゃった」


 ある日、姉魔女は妹に《《隠れるように》》ラプンツェルのサラダを作って食べました。


 どこか甘い香りのラプンツェルの、そのみずみずしい葉を口には運び、姉魔女は満足げに微笑みました。


「こんな美味しいラプンツェル、誰にもあげないわ」


 と言ってコッソリ、とても美味しそうに食べていると、妹に見つかってしまいました(予定調和)。


「ズルい! 私にもちょうだい!」


「ダメよ、これは特別なラプンツェルなんだから!」


「らぷん……それ何?」


「森で採れる、《《特別》》で《《高級》》な食材よ。あ、出かけなきゃ……絶対食べちゃダメだからね」


 ラプンツェルのサラダを《《厳重に》》棚にしまって、姉魔女は外出しました。


 もちろん妹は、一切の躊躇なく棚からラプンツェルのサラダを取り出し、むしゃむしゃと食べ始めました。


 柑橘系の酸味のきいたドレッシングは、身重の妹の口に合っていたらしく、姉魔女の煽りの効果もあってこの上なく美味に感じられました。


 きれいに食べ尽くして、空のお皿を棚に戻しました。


「あら? ここにあったはずなのに……ねえ、あなた知らない?」


 帰宅した姉魔女が不思議そうに棚のお皿を取り出し妹に尋ねても、「さあ、ネズミでも忍び込んだんじゃない?」と知らんぷりを決め込みました。


 味をしめた妹は、それからも姉が「《《隠しておいた》》」秘密のごちそうを、堂々と《《こっそり》》いただく日々を送りました。


 トマトや豆や温野菜を混ぜたサラダや、時にはサンドイッチなど目先を変えた料理の日もありました。


 途中からは豆や穀物や芋を煮込んだシチューやフルーツヨーグルトなども一緒にしまわれていましたのでそれらもちゃっかりいただきました。


 姉魔女がもの言いたげに空っぽのお皿や鍋を手に何も言えずに溜息をついているのを見て、何だか口うるさい姉を従えた気分になって、妹は得も言われぬ満足感に浸っていました。


 姉魔女が出かけるのは、不定期でしたが、たいてい午前午後の2回で、朝早くから時もあれば、短時間の時もありました。そこで妹は姉の動向に常にアンテナを張り、スキをみてごちそうをいただいていました。


 酔っぱらって寝てしまうとチャンスを逃すかもしれないと、昼間はお酒を控えました。


 気が付けば昼間しっかり起きていて、その分夜は眠くなるという健康的な生活リズムとなっていきました。


 夜は眠ってしまうので、次第に飲酒もしなくなりました。


 そして、とうとう産み月を迎え、妹は玉のような可愛らしい女の子を産み落としました。


 さて。


 姉魔女の計略にかかり、健康的な食生活を送るようになっていた妹でしたが、性根が変わったわけではありません。


 乳飲(ちの)み子の世話を両親や姉魔女に押し付けて、再び夜遊びに出かけるようになりました。


 飲み屋の二階を定宿にして家に帰ってこない婿と合流して、毎晩べろんべろんに酔って朝まで大騒ぎしています。


 帰ってきてもそのまま昼間は寝ていて、泣いている赤子にお乳をあげることもしません。


 妹にしてみれば、すやすや寝ている姿はかわいいと思わないでもないですが、自分が抱いてもむずがるばかりで、だから抱いても無駄だと思うし、第一疲れてしまうのです。


 だったら、上手に世話できる姉に任せていたほうが、きっと効率がいい、粉ミルクもあるし大丈夫、そう思っていました。


「もう! あなたは母親なのよ?! いつまでこんな生活を続ける気なの?」


 家にいても我が子を抱こうともしない妹に、ある日とうとう、姉魔女はきつく叱りつけました。


「別に、お姉ちゃんがいるからいいじゃない? パパもママも、可愛い孫を産んであげたんだから感謝してるでしょ? 私はちゃんと跡継ぎを産んだんだから、もう十分に役目は果たしているじゃない。それとも女の子じゃ不服なの? なら……」


「そういう問題じゃないでしょ? この子にとって、母親はあなただけなのよ? もちろん私達も一緒にお世話するけど、この子にはあなたの愛情が……」


「別に私が世話しなくてもいいじゃない? 貴族やお金持ちは他人を乳母として雇って世話させてるんだし? それに比べたら血のつながった家族が面倒見てる分、ずっとアットホームじゃん?」


「それとこれとは話が……」


「もう! いいじゃん! 世の中には向き不向きがあるの! 私は家庭的とか、母親とか、そういう平凡な生き方は向いてないの! いいじゃん、お姉ちゃんがやれば! ね? お姉ちゃんの方が向いてるよね?」


 そう言い切って妹は、そばでハラハラして娘たちを眺めていた両親に同意を求めました。


「え、ま、まあ……確かに、そうだな」


「そ、そうね。お姉ちゃんは、何でもできるし……ね」


 簡単に言いくるめられて、おもねるように自分にすがる両親を見て、姉魔女は大きくため息をつきました。


 それから、ゆりかごで眠る可愛い姪っ子を、そっと抱き上げました。


 家族の諍いなど知らぬようにすやすやと眠っている、まだ首も座らないやわやわとした体を、しっかり守るように抱きしめました。


「……分かったわ。この子は、私が《《育てる》》。それでいいのね?」


「うん、お願い~。あ、金銭的な手助けもよろしくね」


「もちろん。必要なものは、ちゃんと与えるわ。一人前になれるように。私が責任をもって。……それで、いいのよね?」


「はーい! お任せしますぅ~! 助かるぅ!」


 ニコニコご満悦の妹と、ホッとしたような両親の笑顔も見ずに、赤子を抱いたまま姉魔女は皆に背を向けました。


「それじゃあ、……永遠にさようなら」


「へ?」「え?」「な?」


 突然の、きっぱりとした別れの言葉にあっけにとられる妹と両親の目の前から、姉魔女は一瞬で姿を消しました。


 その(かいな)に、(いと)けき赤子を抱いたまま。





 誰も知らない森の奥、『魔女の隠れ家』で、赤子を抱いて立ち尽くす女がおりました。


 思い返すのは、いつも妹を優先し家族のために尽くすことを求められてきた自分の幼少期。


 それを当たり前に思っていた、そうすることが自分の存在価値だとさえ思ってきた、自分の半生。


 跡取りとして優遇されるのを当然としていた父に、その姉……魔女の師匠も、もしかしたら同じように育てられ生きてきたのかもしれません。


 それは、客観的には、不遇だとか、おかしいとか、そんな風に見えるのかもしれません。


 それでも、姉魔女は、よかったのです。


 家族が自分を頼ってくれる、必要としてくれることが、嬉しかったから。


 でも。


 この子には、これから育っていくこの小さな命には、そんな生き方をさせたくない、選ばせたくない。


 何不自由なく、とは言えなくとも、自分自身で、自分を大切にして生きていく、そんな未来を選べるような環境を与えたい。


 そう思った瞬間、姉魔女は迷うことなく家族との別離を選ぶことができました。


 顔も覚えられないほど幼い子供を実の父母から引き離してしまったことは、申し訳なく思います。


 その償いに、奪った両親の分の、それ以上の愛情を注ぐことを誓うから……そう思いを込めて見つめた腕の中に、まだよく焦点の定まらぬはずの瞳で、やさしく魔女を見つめる赤子がおりました。


 せつなさと(いとお)しさがないまぜになって、魔女の瞳を濡らしました。




*********************


 昔々、あるところに魔女がおりました。


 どこか遠い土地から流れてきたらしいのですが、魔女の御業が尊ばれる土地柄でしたので歓迎されました。


 魔女には娘がおりました。


 美しい長い髪をもつ女の子で、ラプンツェルのサラダが大好きで、いつしか「ラプンツェルちゃん」と呼ばれるようになりました。


 その親子が今どんな風に暮らしているかって? それは、ご自分で見に行ってごらんなさい。


 きっと、温かい気持ちになりますよ。



 おしまい。



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