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たぶんこんな感じかもな童話集  作者: 清見こうじ


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第2話 たぶん眠り姫

 昔々、とある国に美しいお妃さまがおりました。

 国は豊かで王様はイケメンで戦もなく平和で、これ以上ないくらい幸せ……なはずでした。


 ただひとつ、子供に恵まれないことを除いては。


 イケメン王様がイケオジ王様になっても子供を授かる気配がなく、お妃さまは毎日鬱々と過ごしていました。


『どんなに血筋がよくて美しくても、石女(うまずめ)じゃねぇ』『お妃サマもいいお年だし、若い娘を第二夫人にしたほうが……』なんて水面下での無責任な声も聞こえてきます。


 そもそも不妊の原因がお妃様にあるかも分からないのに、世間はすぐ女性の責任にしがちです。


 男性不妊の認識がないこの時代では仕方ないとはいえ、そんな世間の偏見の声で、お妃さまはますます憂鬱でした。


 愛するお妃さまのふさぎように、王様も思案しました。


 そこで、国中はもとより、国外にまで手を伸ばし、子宝を授かる術をもつ賢女を探し集めました。


『うちのお妃(よめさん)、子供できなくてさぁ、何とかしてくんない?』なんて世界中に喧伝されて、お妃さまは『はぁ? 何言いふらしてんの!』と、ちょっとムカッとしました。


 そんなお妃さまのストレス(もやっと)はともかく、効果は絶大でした。


 両手の指を超える数の賢女……まあ、いわゆる魔女ですが、不思議な力を持つ女性達が集まったおかげか、ついに子供を授かりました。


 生まれたのは女の子……姫君でした。


 王様は大喜びです。


 賢女達を招待して、誕生祝いの宴を催すことにしました。


 さて、お城には貴賓接待用に金の皿が12枚ありました。


 ところが今回関わった賢女は13人でした。


 ひとりだけ普通のお皿では見映えも悪いし本人も面白くないだろうと考え、王様は賢女のうちひとりだけ招待しませんでした。


「いやいや、それ騒動のもとですわよ。みなさま普通のお皿で対応しましょうよ」


「えー、だってせっかく金の皿あるから使いたいじゃん? 記念すべき姫の誕生の宴だし!」


(そういうとこだよ!)


 お妃さまの忠告にも耳を貸さず、姫君誕生に浮かれまくっている王様は、準備した招待状から適当に一通抜いて、暖炉の火にくべてしまいました。


 ところが。


 まあ、予想通りというか、常識的に考えて当たり前ですが、招待されなかった賢女は大変お怒りでした。


 招待された賢女達が姫に寿(ことほ)ぎを贈っている最中に『ざけんなよっ! なんでひとりだけ仲間外れ(ハブ)にしとんじゃ!』と殴り込んで(カチコミして)きました。


「いいかぁ? この姫が、世界一美しく育とうとも! 国がますます栄えようとも! 15歳には紡錘(つむ)に刺されて死ぬんじゃあっ!」


 そう言い残して、ハブにされた賢女……魔女は去って行きました。


「……よりによって、一番力が強いあのお方に、なんて仕打ちを……」


 あとに残された賢女の、中でも年若い賢女が言いました。


「でも、こうなってしまっては仕方ありません。強力な死の呪いに対抗するのは難しいので、眠りで対処しましょう……」


 と、何やらゴニョゴニョと呪文を唱えました。


 ……そして。


 ハブ魔女が言ったように、姫はとても美しく育ち、国はますます栄えました……皮肉にもハブ魔女の呪いの言葉通りに。


 それがなおいっそう恐ろしく、王様は国中の紡錘(つむ)を全て処分してしまいました。


 そのため糸紡ぎができなくなった住民は糸紡ぎの仕事が失くなり、機織りや縫製の材料となる糸も無くなり、結構困りましたが、基本的に裕福な国なので、転職したり、糸も輸入したり、でそこそこ立ち直りました。


 安心した王様とお妃さまに愛情をいっぱいに注がれ、姫君はすくすくと育ちました。


 けれど。


 実はハブ魔女は宴の後すぐに、お城のイバラに囲まれた古い塔に隠れていたのです。


 一応老婆に変装して、糸紡ぎをしながら塔の最上階で、姫君が来るのを待ちました。


 15年間、待ちました。


 元々引きこもり(ヒッキー)気味で不老長寿のハブ魔女にとって、15年はあっという間でしたので、苦にはなりませんでしたが、さすがに暇だったので糸紡ぎはちょうどよい暇潰しになりました。


 紡いだ糸の束で部屋が狭くなってしまい、仕方がないので塔の窓からイバラを伝って外に搬出しました。


『ご自由にお持ちください』と札をつけて。


 おかげで紡錘(つむ)がなくて糸紡ぎができなくて、高い輸入糸しか手に入らなくなり、前より生活がちょっと苦しくなった近隣住民は大変助かりました。


 裕福とはいえ、どこにでも経済格差は存在するのです。


 そんなこんなで姫君15歳の誕生日。


 予定では美しく育った姫君が好奇心のあまり塔に登り、見たこともない紡錘(つむ)に興味を示して指に刺して死ぬはずでした。


 が。


 15歳の誕生日を迎えても、姫は塔にやってきません。


 塔に引きこもっていたハブ魔女は、だから知らなかったのです。


 姫君は、ハブ魔女のおかげで美貌と富は手に入れましたが、性格がめっちゃぐうたらだったのです。


 待望の御子様ということで、王様もお妃さまも甘やかしまくりでしたから、ますますぐうたらになりました。


 まあ、強いて言うならば、ハブ魔女の死の呪いに対抗するための若い賢女の眠りのまじないが、変な風に作用してしまったのですが。


 だから、いつでも何となく眠くてダラダラしていたのです。


 なので、階段を何十段と登って塔の最上階に行くなんて気にはなりませんでした。


 出来れば部屋からも出たくないくらいダラダラを愛していました。


 一方、塔の最上階で引きこもって姫君を待っていたハブ魔女も、引きこもり過ぎて時間の感覚がバグっていました。


 暇潰しに始めた糸紡ぎが楽しくて、技術向上に勤しんでいました。


 姫君が15歳になれば自分から来てくれるだろうから、と油断して、のほほんと待ち続けていました。


 そのうち、100年の月日が経ちました。


「あれ? そういえば、私、なんでここにいたんだっけ?」


 不意に本題を思い出し、慌てて塔から降りて様子を見に行きました。


「あー、そう言えばそんな話、ありましたね」


 お城の召し使いを捕まえて訊くと、親切に教えてくれました。


 美しくてぐうたらな姫君は、いつでも眠たそうにしていて、『眠り姫』と呼ばれるようになったこと。


 どこからか運ばれる良質な糸のおかげで国はますます栄え、そこそこ有能で優しいお婿さんを迎えて、つい先日幸せに99歳の天寿を全うしたと。


 ブチキレて姫に呪いをかけたと思ったら、実は国に繁栄をもたらした『ハブ賢女様』は、それ以降一切姿を現さないけれど、めっちゃイイ人過ぎる認定をされてちょっとした信仰の対象になっていると。



 それらの話を聞いたハブ魔女は……ハブ賢女様は、もうすっかり慣れ親しんだお城の塔の最上階に戻り、また糸紡ぎを始めました。


 今でも、イバラに囲まれた古い塔の周りを巡ると、たまに上質な糸の束が『ご自由にお持ちください』というメッセージつきで置いてあるそうです。


 おしまい。















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