第1歌
いざ歌わん――エリンの島に名を馳せし
アルスターの英雄クーフリン、その生涯と武勇の歌を。
今宵、星々瞬く空の下、焚き火を囲みし各々方よ。
まずは〈クランの猛き番犬〉クーフリン、
その血筋がいかなるものか、耳を傾け、聞き給え。
おお、アルスターの守り手、〈赤枝戦士団〉随一の猛者、
魔法の槍振るい、二輪の戦車駆るクーフリン!
父は常若の国に住み給う
神族〈女神ダヌの一族〉が長にして、
かつて邪眼の魔王バロール倒し、フォモール族を打ち破りたる
光り輝く太陽神、長き腕の大神ルー。
母はエリンの島を治めし諸王の一人、アルスターを統べる
コノール・マク・ネサ王が親族なり。
おお、神の子にして王族の子、高貴なるかなクーフリン!
さて、その名の由来はいかにと問われれば、
続けて語らんクーフリン、〈クランの猛き番犬〉が、己が名得たる経緯をば。
クーフリン、いまだ十歳に満たざる幼き日、セタンタと呼ばれし少年時代、
コノール王が名だたる鍛冶師 クランの宴に招かれて、一族従え出かけたり。
同い年の童らと 球技の試合に打ち興じ、一人遅れしセタンタは、
父なる太陽 西の彼方へ沈みし後に、鍛冶師クランの館に着きぬ。
されど夜の帳はすでに降り、
見よ! 門はかたく閉ざされて、猛き番犬守りたるぞ。
これぞクランの猛犬、クーフリン――その名の由来となりし犬。
この一匹がいる限り、万の軍勢押し寄せようと ものならず、
我が館の門は潜れまじ――鍛冶師クランはかく語りき。
さて、クランの猛犬牙を剥き、
唸り、吠えたて、セタンタの のど笛噛み砕かんと飛びかかる。
投石器をもて放たれし 飛ぶ鳥落とす礫のごとく。
危うしセタンタ、されど未来の英雄は、
とっさに猛犬、諸手で捕らえ、渾身の力込め 締め上げぬ。
一方、館の内にて宴の最中さなか、
犬の吠え声聞きつけた コノール王と鍛冶師クラン、
胸騒ぎ覚え席を立ち、その場の者ども引き連れて、急ぎ館の門へと向かいたり。
各々、槍と松明 手に手に取りて、門を開けば、こはいかに!
松明照らす闇の中、亡霊さながらに浮かびしは、
生ける人と死せる犬、
滝のごとく汗流し、肩で息するセタンタと、
その足元に伏せ、息絶えし クランの猛犬、両者の姿。
心落ち着きたる後、セタンタは
訥々語りぬ、かくなりし訳。
その場の一同、驚きつつも、
「あっぱれ小僧、見事なり!
髪は黒く肌白く、娘のごとく華奢なる体、
されどクランの猛犬屠るとは、大した奴よ!」とほめそやす。
やんやの喝采 絶えざる中でただ一人、
手塩にかけて育てたる 自慢の猛犬失いし
クランのみは悲嘆に沈み、肩を落として涙を流す。
力強きのみならず、心優しきセタンタは
老いたる鍛冶師の手を取りて、
申し出でたり、償いを。
「鍛冶師クランよ 願わくば、
我に与え給え、猛き犬の仔一匹を。
その仔が育ち、新たな番犬となるまでは、
我が守らん、この門を」
悲しみ和らぎ、涙ぬぐいし鍛冶屋クラン、
赤鼻すすりて、頬緩めたり。
「あな嬉しや。さても健気な申し出よ。
されど、それには及ばぬ、お若いの。
末恐ろしき戦士の卵、将来頼もしき子よ。
我が館の門守る 番犬などになるよりは、
今は鍛えよ 身と心、励め修行に より一層。
力と知恵と勇気を磨き、いつの日にか なり給え。
いかなる敵が来たるとも、アルスター守る番犬に」
ゆえにセタンタ、これ以降、
かく呼ばれることとなりにけり、
おお、クーフリンよクーフリン! 〈クランの猛き番犬〉と!




