表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

画面の中と外と層(そう)

 ようやくレベルアップの瞬間(しゅんかん)()た。私たちの体力(たいりょく)魔力(まりょく)完全(かんぜん)回復(かいふく)する。この仕様(しよう)があるから、私たちに休養(きゅうよう)(たい)して必要(ひつよう)ないのであった。そうはいっても、それは理屈(りくつ)だけの(はなし)で、()わらない景色(けしき)(ちい)さな(しま)にいる閉塞(へいそく)(かん)筆舌(ひつぜつ)()くしがたい。


「こういうときはさ、もっと(つら)事態(じたい)(かんが)えようよ。私たちとは(べつ)の、画面(モニター)(そと)世界(せかい)を」


 (ふたた)び、(てき)(たたか)いながら、()(まぎ)らわすように私は相棒(あいぼう)()った。うん、と彼女(かのじょ)(かえ)す。この程度(ていど)雑談(ざつだん)でもしないと、魔物(まもの)血潮(ちしお)()()る、(いま)瞬間(しゅんかん)()()(つづ)けることは(むずか)しかった。狂気(きょうき)が私の(のう)支配(しはい)してくる感覚(かんかく)があるのだ。


八十年(はちじゅうねん)(まえ)()わった、世界(せかい)大戦(たいせん)があったよね。私たちとは、時間(じかん)(なが)れも(ちが)世界(せかい)(はなし)だけど。ガダルカナル(とう)だっけ。たくさんの兵士(へいし)さんが、()えと病気(びょうき)()くなったらしくて」


(てき)(ころ)されるかもしれない(なか)で、それは(くる)しかっただろうね。(やす)らぎなんか()られないんだから。私たちは、(すく)なくとも()えや病気(びょうき)とは(えん)がないわ」


 (てき)魔法(まほう)攻撃(こうげき)が、ちくちくと私たちにダメージを(あた)える。すぐに反撃(はんげき)して(ころ)すけれど、さっと()げる(てき)(おお)くてストレスが()まった。全身(ぜんしん)(ひる)が、まとわりつくような不快(ふかい)(かん)だ。致命(ちめい)(てき)なダメージこそないけど、私たちの身体(からだ)はいつも何処(どこ)かしらが出血(しゅっけつ)していた。


(つぎ)のレベルアップまで、(きず)(なお)らないけど。医者(いしゃ)()ぶほどじゃないわよね。そもそも、この世界(せかい)医術(いじゅつ)なんか発展(はってん)してないし」


 私たちの世界(せかい)では、科学(かがく)()わって魔法(まほう)発達(はったつ)していた。画面(モニター)外側(そとがわ)でいうところの、中世(ちゅうせい)()文化(ぶんか)レベルである。教会(きょうかい)僧侶(そうりょ)回復(かいふく)呪文(じゅもん)(とな)えれば、死者(ししゃ)でさえ蘇生(そせい)可能(かのう)なのだから、(たし)かに医者(いしゃ)()必要(ひつよう)なのだろう。その教会(きょうかい)も、(まず)しい人間(にんげん)(かん)(たん)見捨(みす)てたりするのだが。


「私も()にたくはないから、回復(かいふく)魔法(まほう)存在(そんざい)はありがたいけれど。でも、どうなんだろうね。戦死(せんし)しても(よみがえ)らされて、無限(むげん)戦場(せんじょう)(おく)られ(つづ)けるとしたら、それこそ本当(ほんとう)地獄(じごく)じゃないかしら」


「……それは(かんが)えたこと、なかったけど。(すく)なくとも、私たちの立場(たちば)はそうじゃないわ。魔王(まおう)(ぐん)との(たたか)いには、はっきりと()わりがある。(たたか)いは、何度(なんど)()(かえ)されてきたんだもの。()ってるでしょう?」


 相棒(あいぼう)声音(こわね)絶望感(ぜつぼうかん)(にじ)んでいて、(おも)わず私は(はげ)ましたくなる。そうね、とだけ彼女(かのじょ)(かえ)した。私は言葉(ことば)(つづ)けてみる。


「この世界(せかい)仕様(しよう)は、貴女(あなた)()ってのとおりよ。勇者(ゆうしゃ)魔王(まおう)(たお)して、世界(せかい)課題(かだい)達成(クリア)された。でも道化(どうけ)(かみ)さまが『やりこみ要素(ようそ)』を用意(ようい)していて、(あら)たな(てき)(たお)必要(ひつよう)()てきて……」


()ってるわよ。勇者(ゆうしゃ)はモチベーションを()くして、(いま)休養(きゅうよう)してる。この世界(せかい)時空(じくう)何層(なんそう)かのパラレルワールドになってて、それぞれの世界(せかい)で、勇者(ゆうしゃ)がいなくなった(あと)(たたか)いが()(ひろ)げられてる。そういうことでしょ」


 そうだ。セーブデータというらしい。魔王(まおう)がいなくなり、勇者(ゆうしゃ)(なか)引退(いんたい)していて、いま私たちがいる世界(せかい)では二人(ふたり)存在(そんざい)救世(きゅうせい)(しゅ)として期待(きたい)されている。すなわち、私と相棒(あいぼう)のことであった。(べつ)時空(じくう)だと救世(きゅうせい)(しゅ)存在(そんざい)男女(だんじょ)だったり、三人(さんにん)だったり四人(よにん)だったりするのだ。


「そうだよ。それぞれの時空(じくう)()えて、(たたか)いの知識(ちしき)共有(きょうゆう)されてるわ。いわゆる『攻略(こうりゃく)(ほう)』がね。二人(ふたり)だけでの(たたか)いは困難(こんなん)だけど、(けっ)して()可能(かのう)じゃない。世界(せかい)(すく)うのよ。私たちなら、(かなら)実現(じつげん)できるわ」


 ()せては(かえ)す、(てき)(なみ)()むことがない。私たちは画面(モニター)(なか)にいて、画面(がめん)(まえ)には現在(げんざい)(だれ)もいなかった。しかし操作機(コントローラー)連射(れんしゃ)設定(せってい)となっていて、自動(じどう)(てき)に私たちの戦闘(せんとう)延々(えんえん)継続(けいぞく)されているのだ。


 それでいい。画面(モニター)(そと)から()きられるよりはマシだ。そのときは私たちの世界(せかい)が、()えてなくなるのだから。苦痛(くつう)(かん)じるということは、まだ私たちが()きていて、希望(きぼう)(むね)(すす)むことができるということでもあった。私と相棒(あいぼう)は、ひたすらに(てき)(ころ)(つづ)ける。




 ()()ない(たたか)いの(なか)で、私は魔物(まもの)のことを(かんが)える。同情(どうじょう)はしない。(やつ)らは私たちの領土(りょうど)(おびや)かす侵略(しんりゃく)(しゃ)なのだから。(むね)に、いくらかの罪悪(ざいあく)(かん)はあっても、私と相棒(あいぼう)(てき)機械(きかい)(てき)(ころ)(つづ)ける。


 しかし、魔物(まもの)立場(たちば)から()たら、どうだろう。この(しま)(あらわ)れる魔物(まもの)は、絶対(ぜったい)に私たちには()てないのだ。レベル()がありすぎるからで、私たちはレベルアップを(ねら)うのに都合(つごう)がよいから、この(しま)(とど)まって(たたか)(つづ)けている。


 魔物(まもの)から()れば、この(しま)居座(いすわ)る私たちこそ侵略(しんりゃく)(しゃ)なのかもしれない。そして、(しま)()(もど)すために、魔王(まおう)(ぐん)次々(つぎつぎ)戦力(せんりょく)投入(とうにゅう)してくるのだ。どれほど()(ぐん)被害(ひがい)()ようが、()にも()めずに。


 すでに魔王(まおう)(たお)されているから、『魔王(まおう)(ぐん)』という()(かた)(ただ)しいかはわからない。(てき)指揮(しき)系統(けいとう)がどうなっているのかも私たちは()らなかった。わかっているのは(いのち)軽視(けいし)する姿勢(しせい)で、それは私たち人類(じんるい)だけでなく、魔物(まもの)(いのち)もおそらくは(なん)とも(おも)っていない。そういう(てき)(ぐん)姿勢(しせい)が、私は(だい)(きら)いだった。


()えて()んでいった兵士(へいし)たちを、(ぐん)上層(じょうそう)()はどの程度(ていど)気遣(きづか)っていたのかしらね」


 意識(いしき)朦朧(もうろう)としていた私は、相棒(あいぼう)言葉(ことば)覚醒(かくせい)する。地面(じめん)から足元(あしもと)(せま)(ねん)(えき)(じょう)生物(せいぶつ)()()ばして、私は戦闘(せんとう)復帰(ふっき)する。彼女(かのじょ)がモニターの(そと)世界(せかい)について(かた)っていたのは、すぐにわかった。


「さぁ、(そと)世界(せかい)()くわからないから。まあ気遣(きづか)っていたら、(じん)(てき)被害(ひがい)はもっと(すく)なく()んでいただろうね」


 モニターの(そと)から、(なか)世界(せかい)をのぞき()めるのと同様(どうよう)に、私たちもモニター内部(ないぶ)から(そと)世界(せかい)()ることはできる。と()っても(こま)かい部分(ぶぶん)についてはピンと()ないのだけど。(そと)世界(せかい)(いま)平和(へいわ)なのだろうか。そうだといいなぁと(おも)う。私たちが(たたか)って、その(ぶん)何処(どこ)かの(だれ)かが(しあわ)せでいられるのなら。私たちの行為(こうい)には、それなりの意味(いみ)があると(しん)じられるのだ。


 (ころ)して、(ころ)して、(ころ)(つづ)ける。(みと)めよう、私たちの行為(こうい)はただ、それだけだ。そして、その(さき)平和(へいわ)()ることは、(すく)なくともこの世界(せかい)ではわかっているのである。


 (あさ)()て、(よる)()る。(くも)(あつ)まって、(あめ)()って────それから(そら)()れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ