アレス軍事国家
鉄と煙に覆われたその国は、表向きには「人類を守る盾」を名乗っている。
だが、その実態は――
人類を“次の段階”へ押し上げるための実験国家だった。
国王の名は、
アレス=ヴァルガルド三世。
即位以来、彼が掲げ続けてきた思想は一貫している。
神が存在するなら、
いつか人類の前に立ちはだかる。
ならば――先に、そこへ届け。
百年前、アレス軍事国家と魔王軍の間で締結された
《百年不可侵条約》。
それは平和のための協定ではない。
戦争を百年先送りにする代わりに、その間に人類を進化させるための猶予だった。
魔王軍もまた、その真意を理解していた。
人類がどこまで“堕ち”、あるいは“到達”するのか――
それを見極めるための時間。
そして、その条約の裏で、
国王アレス=ヴァルガルド三世が選んだ男がいる。
リュドー・ヴァイスヘルム。
かつては自由都市ノクティアのギルドマスター。
秩序と信頼を司る立場にあった男。
だが今、彼は――
アレス軍事国家が誇る融合兵計画の主任研究者。
人と魔を融合させ、
人間を“兵器”へと作り替える狂気の中枢だ。
国王は、リュドーの研究内容をすべて知っている。
冒険者を誘い込み、
行方不明として処理し、
実験素材へと変えていることも。
それでも止めない。
理由は単純だった。
成果を出すなら、方法は問わぬ。
成功すれば、
神に届く力を持つ兵器が生まれる。
失敗すれば、
危険な研究者と実験体をまとめて処分すればいい。
リュドーは英雄候補であり、
同時にいつでも切り捨てられる駒だった。
そして、リュドー自身もそれを理解している。
だからこそ彼は焦っている。
時間がない。
結果を出さねば、追放か処刑。
そんな中で現れたのが――
ブラックフォージ。
スライムでありながら創造錬金術を操り、
人と魔の境界を“破壊ではなく、調和で越える存在”。
リュドーにとっては、
自らの研究を完成させるための「鍵」。
国王にとっては、
想定外の変数。
だが同時に、最も価値ある観測対象。
百年不可侵条約の下、
アレス軍事国家と魔王軍は、表向きには刃を交えない。
だがその裏で――
リュドー率いる融合兵部隊、
生体戦闘装甲、
そして魔王軍の技術と思想が、静かに噛み合い始めている。
この戦いは、
国家と国家の争いではない。
人類が“どこまで進んでいい存在なのか”を決める戦争だ。
そしてその中心に、
望まぬまま立たされることになるのが――
ブラックフォージだった。




