バトル・ロワイヤル
漆黒の剣の目前で、岩壁がごろごろと崩れ落ち、そこから上り階段が姿を現した。
「……どうやら、あれを登って来いって合図らしいな」
ゼルが呟くと、ダンが肩を竦める。
「しかしよ、蒼天の剣舞の奴ら……なんで魔族なんかと組んだんだ?」
ゼルは一瞬考え、口元を歪めた。
「そりゃあ――金だろ。あるいは地位や名誉か。……ん?金ならまだ分かるが、地位や名誉となりゃ、ギルマス以上の立場じゃなきゃ手に入らねぇ。何にしても……俺らが止めなきゃ街の奴らが危ねぇんだ。金より大事なのは、みんなの笑顔だろ?」
その言葉にダンはニッと笑い、親指を立てる。
「よっ!我が街の英雄!」
ゼル
「……まあ俺のイケメンっぷりで、街の女はみんなニャンニャンだろうけどなぁ〜!」
くだらない冗談に、シルフィーが小さく吹き出した。
「……何だよそれ。でも――ちょっとだけ、カッコよかったよ」
シルフィーが目を凝らし、声を上げた。
「あっ!……何か明るくなってきた!出口かな?」
「任せろ!」
ダンが勢いよく駆け出し、先頭へ。
「おい、ダン!?」
ゼルが慌てて追うと、突然洞窟内に轟く声。
「うおぉ〜!」
「……ウンコしてる獣かよっ!」
ゼルが毒づきながら追いつき、前を見た瞬間――目に飛び込んできたのは、眩い光を反射する金銀財宝の山だった。
「うおぉぉぉぉぉ!」
ゼルの喉からも絶叫が漏れる。
後方から追いついたシルフィーが、呆れ混じりにボソリ。
「……お前もな」
だが次の瞬間には彼女も絶叫していた。
「うわぁ……すごっ!財宝の山……!」
ゼルは山に飛び込み、クロールの真似をしながら叫ぶ。
「金だ!金だぁぁぁ!」
ダンは両手を広げ、宝の中に沈み込む。
「うおぉ〜!極楽ぅ〜!」
二人は完全に我を忘れ、発狂寸前の喜びを全身で表す。
シルフィーは額を押さえ、叫んだ。
「お前ら!さっきのセリフどこ行ったー!?ちょっとだけカッコいいと思った私がバカだった〜!」
その頃、イリシャは黒焔騎士団のリーダー、ヴァレリアと同じ部屋にいた。
石壁に反響する不気味な声――魔族・百夜の声が轟く。
「さぁ〜!戦いなさい!最後の一人しか先へ進めませんよォ!フハハハハ!」
イリシャは息を呑み、ヴァレリアは剣を構えながら低く呟いた。
「……つまり、魔族の思惑通りということか」
「マスターは!?マスターは無事どすか!?」
イリシャが叫ぶ。しかし百夜からの返答はない。
沈黙だけが、冷たく部屋を支配していた。
「くっ……うかつやったわ」
イリシャは唇を噛みしめ、胸に手を当てる。
「無理やりでも、あての服ん中に入れとくんやった……」
ぽつりと漏らし、思わず頬が赤く染まる。
場違いなほど乙女めいた仕草に、ヴァレリアがちらりと視線を向けるが、すぐに鋭い眼光を戻した。
ヴァレリアはゆっくりと剣を下ろし、石床に音を立てて置いた。
「……同じギルドの仲間を殺す理由にはならない。せいぜい気を失わせる程度に留めるか」
一歩ずつイリシャへと歩み寄る。
その気配は敵意ではなく、しかし明らかに“試す”気配を孕んでいた。
イリシャは背のライフルを石床に置く。
「お構いなく。武器でどうぞ、かかってきなはれ」
その声には揺るぎがなかった。
(麻痺……いや、気絶程度なら……それで次へ進めましょか?……)
脳裏にそんな考えがよぎる。
ヴァレリアは目を細め、鋭い声を返した。
「……あっさり負けを認めるわけにはいかなそうだな」
そして静かに構え直す。
「悪いが――手加減はできないぞ」
ヴァレリアは静かに手を動かし、黒鉄の鎧を外していった。
ガシャン、と床に落ちる金属音。
次の瞬間、現れたのはしなやかな肢体を備えた金髪の女性。
長い髪が肩に流れ、鎧の重苦しさを脱ぎ捨てた彼女は、まるで猛禽のような鋭い気配を漂わせていた。
イリシャはわずかに目を見開き、息を吐く。
「……やっぱり、女性どしたか」
口元に笑みを浮かべる。
「これで――戦いやすいどすな!」
緊張を裂くように、二人の間に稲妻のような空気が走る。
ヴァレリアは軽装のまま片腕を前に突き出し、拳を握り、構えを取る。
「容赦はしない。ここからは――本気だ」
イリシャ
「あてもマスターが心配なので負けられまへんどす」
――こうして、血と汗と火花の舞台に幕が上がる。
ヴァレリア vs イリシャ、ここに勃発!




