素材提出とスライム騒動
ゼルが床に沈み、ギルド内がざわつく中――
ようやく、俺たちは本来の目的に戻った。
「その、素材の提出でいらっしゃいましたね?」
受付嬢が笑顔を貼り付けながら言った。
レナが俺を見てコクリと頷く。
俺はアイテムボックスから、ゴブリンの爪、牙、魔石、皮……そして、呪術用の首飾りらしきものを順に浮かび上がらせた。
周囲:「……え?」「あのスライム、アイテムボックス持ってんの?」「魔石、光ってねぇ?」
素材を机に並べた瞬間、ギルド内の空気がピリついた。
「ちょ、ちょっと待って……この牙、上級個体のじゃ……?」
「しかも魔石……黒い……?」
「まさか……Bランク以上の個体を、スライムが倒したってのか?」
ごくり、と誰かが唾を飲んだ音が響く。
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ギルドマスター
「騒がしいと思ったら……おや、随分と珍しいお客様がいるじゃないか」
落ち着いたバリトンの声が響いた。
現れたのは、白髪を後ろに束ねた長身の男。
深紅のコートに金のバッジ。
間違いなく、上に立つ者のオーラがあった。
「俺はギルドマスターのリュドー。このギルドの管理責任者だ」
受付嬢がぴしりと立ち上がる。
「リュドー様、こちらの方……スライムでいらっしゃいますが、上級素材を……」
「ふむ。鑑定してみようか」
リュドーは魔導眼を開き、俺と素材を順に見た。
「……ッ⁉︎」
まばたきを止めたまま、硬直するギルドマスター。
「どうしたんでござんす?」
レナが少し身を乗り出す。
「……このスライム、通常種とは完全に異なる。」
「へ?」
「それに、……この存在は……“分類不能”だ」
どよめきが走る。
「このまま放っておくわけには……いや、保護対象として――」
レナ
「おっと、余計なお世話でありんす」
レナがぴしゃりと遮る。
「スライム様は、あっしらがちゃんと守らせていただきやす。
その分類不能とやらも、お触り禁止ってことでよござんすね?」
イリシャ
「せやけどマスター、あてらのことは“ご自分で選ばはった”んどすえ。
スライムやさかいって、誰の手にも負える思わんといてな?」
「……ふむ、わかった。こちらから介入することは控えよう。だが」
リュドーは鋭く言った。
「このスライムの素材提出には、特別評価が入る。通常報酬の三倍だ。今後も素材があれば、優先的に買い取らせてもらおう」
周囲の冒険者たちが、ざわめきと羨望と……ちょっとした嫉妬に包まれた。
その中心で、俺は――ぷるぷる震えていた。
……これが、異世界の経済活動なのか。