名店の魔法
ここは獣人族が営む名店、「ニャンコ亭」。
美味しい料理と居心地の良さで評判を呼び、街の誰もが一度は訪れるという人気の店だ。
ニャンコ亭のテーブルには、色鮮やかなデザートが並んでいた。
まず目を引くのは、夜空の星のようにキラキラと輝く「星屑パフェ」。透き通った氷の中に散りばめられた魔法の砂糖結晶が光を反射し、見る者を幻想的な気分に誘う。
続いて、真っ白で透き通るような皮を持つ「月光饅頭」。その姿はまるで月の光を閉じ込めたかのようで、口に運べばほのかな甘さがじんわりと広がる。
最後に置かれたのは、香ばしい香りが漂う「魔法の果実タルト」。一口食べると、味覚が研ぎ澄まされ、隠れた素材の風味まで鮮明に感じられる不思議な体験が待っていた。
ユエルはその甘美な味わいに目を輝かせ、イリシャは優雅に微笑みながら、レナは少し照れたように味わいを噛みしめる。
マサキは静かに魔力糸を伸ばし、そっとデザートに触れ、淡い光を伴いながらそれらをゆっくりと体内に取り込んだ。
店主のミャオリィがニッコリ微笑みながら、待っていた漆黒の剣の三人組の元へ料理を運び始めた。
料理をテーブルに並べ終えると、身を乗り出して呪文の準備をした。
「さあ、ここで美味しくなる呪文をかけさせて頂きます!」
ミャオリィは満面の笑みで両手を広げ、元気よく声を張り上げた。
「萌え萌えニャンニャン、ゴロゴロ♪ 美味しくなぁ~れ♡」
その声に呼応するように、ゼルとダンが一斉に声を張り上げる。
「萌え萌えニャンニャン、ゴロゴロ~~~~~っ!! 美味しくなぁ~~~れっ!!」
その場にいた誰もが振り返るほどの大声と勢いに、レナは思わず目を見開いてドン引き。
「……あんたら、本当に目立ちたがりでありんすね……」
その様子を見ていたシルフィーは、軽くため息をつきながら頭を抱えた。
「またこの二人、やりやがった……ほんと、やめてほしいわね…」
呆れ顔のシルフィーの言葉に、周囲からは思わず笑い声が漏れた。
ここは冒険者たちの拠点、ギルド。
冒険者たちが日々集い、情報を交わし、命を懸けた任務に備える場所だ。
今日もまた、新たな英雄たちがその扉をくぐり、街の未来を背負って立つ。
ギルドの広間はいつになくざわついていた。
「来たぞ、来たぞ! あの噂のSランク冒険者パーティー《黒焔騎士団》だ!」
群衆の声が高まる中、重厚な鎧を纏ったヴァレリア・ルクスフォルスを先頭に、轟炎鉄槌バルグ・デュラン、魔導士ミラベル・セレスタ、ドワーフの重装盾役グラハム・ストーンハートが悠然と入ってきた。
「これが、Sランクか……」
誰かが呟くと、隅の方で顔をしかめながらも小声で言う者がいた。
「けっ、何がSランクだ。俺たちBランクパーティー《蒼天の剣舞》のほうがよっぽど強いってのによ……」
そこには、蒼天の剣舞のリーダー、冷徹な眼差しのリオ・クレインと、その仲間たちが控えていた。リオはヴァレリアを鋭く見据え、内心でライバル心を燃やしている。
ギルドマスターリュドーは二つのパーティーを見渡し、厳しい声で言った。
「両パーティーともよく来た。これからの戦いは、我々の街の命運をかけたものだ。互いに全力を尽くせ!」
ヴァレリアは冷静に頷き、リオもまた無言で拳を握りしめる。
「今回の任務はただの討伐ではない。未知のダンジョンだ。何が待ち受けているか分からん」
「皆、ダンジョン攻略のメンバーが揃うまでは無理をするな。今はゆっくり休んで体力を温存してくれ。」
リュドーの声に、ギルド内の空気がさらに引き締まった。
今はまだ、静かな嵐の前の静けさに過ぎない。
彼らの戦いは、これから始まる――。




