素材とギルドと人間の夢
スライムに転生してから、戦って、助けて、今に至る。そのぬるぬると濃密な四十八時間の果てに――俺たちはとある街の「ギルド」なる場所にたどり着いた。木造りの大きな建物。出入りする人々は皆、強そうな装備に身を包み、目つきも空気もギラギラしている。正直、入りたくない。でも……。「スライム様、そろそろ素材を売って金に換えなけりゃ、飯も宿も無くなるでありんす」腰に手を当てて言われると、反論のしようがない。「マスター、ギルドはちゃんと登録せんと取引もできへんのどす。あてに任せなはれ♡」柔らかい笑顔が追い打ちをかける。俺はぷるぷると震えながら、逃げ場を失い、ドアの方へ進むしかなかった。
「は、はい次の方……って、え?」受付嬢の視線が下へ落ち、その先で黒いスライムがぷるぷる震えている。「え……どなたが、冒険者登録を……?」間の抜けた沈黙。「スライム様に決まってるでありんす。この方は、わっちとイリシャの大恩人でありんす」「マスターは言葉は通じんけど、あてらより“ずっとお強い”どすえ」受付嬢は完全に引いた。周囲の冒険者たちがざわつき始めた、そのときだ。
「ヘイヘイ、可愛い子ちゃんたち、どうした? こんなとこでスライム連れて」革のロングコートに曲刀と大剣。顔立ちはいいが、目元だけが軽薄にニヤついている。「おれはゼル。ギルドでもちょっと名のあるAランク冒険者さ。俺のパーティーに入れば、いい思いさせてやるよ?」その瞬間、空気が一段冷えた。「……ご冗談を。あっしら、下水臭そうな方に構ってもらうほど落ちぶれちゃいませんので、あしからずでありんす」「……え?」ゼルの目が見開かれる。「え、今、俺、臭いって言われた……? え? ちょ、ちょっと待って……」「あんたのそのヘラヘラ顔と匂いで、ギルドの床が腐る前に引っ込んでくだせぇな、ゼルとかいうお方ァ?」次の瞬間、「うっ……あ……ッ!?」ゼルの頬がみるみる赤く染まった。「こんな酷いこと言われたの……初めてだ……でも……なんか、すっげぇゾクゾクするッ!!!」――俺はぷるぷる震えながら、一歩引いた。「もっと罵って! できれば軽く踏んで! ちょっと触ってもいいかなッ⁉︎」「触んなって言ってんだろォが腐れ変態ッ!!」ズドン! 鈍い音とともに、鳩尾へ一撃。ゼルはその場に崩れ落ち、沈黙。「ゼル先輩ー! だから距離感って言ってるじゃないですかァッ!」「誰かタンカ呼んでこーい!」一気に騒然とするギルド内。素材提出も登録も、完全にどこかへ吹き飛んだ。俺は……やっぱり、外に出たくなった。




