第二章:素材とギルドと人間の夢
マサキ
スライムに転生してから、戦って、助けて、今に至る。
そのぬるぬると濃密な48時間の果てに――俺たちは「ギルド」なる場所にたどり着いた。
木造りの大きな建物。出入りする人々は、みんな強そうな装備に身を包み、ギラギラしてる。
正直、入りたくない。
でも……。
「スライム様、そろそろ素材を売って金に換えなけりゃ、飯も宿も無くなるでありんす」
レナが腰に手を当てて言う。
「マスター、ギルドはちゃんと登録せんと取引もできへんのどす。あてに任せなはれ♡」
イリシャが微笑む。
俺はぷるぷる震えながら、ドアの方へ向かうしかなかった。
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ギルド受付:ユリ
「は、はい次の方……って、え?」
受付嬢が見下ろす先には、ぷるぷる震える黒いスライム。
「え……どなたが、冒険者登録を……?」
レナ
「スライム様に決まってるでありんす、この方はわっちとイリシャの大恩人でありんす」
イリシャ
「マスターは言葉は通じんけど、あてらより“ずっとお強い”どすえ」
受付嬢、ドン引き。
周囲の冒険者たちがざわつく中、一人の男が現れた。
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ゼル
「ヘイヘイ、可愛い子ちゃんたち、どうした? こんなとこでスライム連れて」
現れたのは、革のロングコートに身を包んだイケメン風の男。
腰には曲刀、背には大剣。目元だけは軽く、ニヤニヤしていた。
「おれはゼル。ギルドでもちょっと名のあるAランク冒険者さ。俺のパーティーに入れば、いい思いさせてやるよ?」
レナ
「……ご冗談を。あっしら、下水臭そうな方に構ってもらうほど落ちぶれちゃいませんので、あしからずでありんす。」
「……え?」
ゼルの目が一瞬見開かれた。
「え、今、俺、臭いって言われた……? え? ちょ、ちょっと待って……」
レナ
「あんたのそのヘラヘラ顔と匂いで、ギルドの床が腐る前に引っ込んでくだせぇな、ゼルとかいうお方ァ?」
「うっ……あ……ッ!?」
ゼル、頬を赤らめる。
「こんな酷いこと言われたの……初めてだ……でも……なんか、すっげぇゾクゾクするッ!!!」
スライムの俺:ぷるぷる(引いてる)
「もっと罵って! できれば軽く踏んで! ちょっと触ってもいいかなッ⁉︎」
レナ
「触んなって言ってんだろォが腐れ変態ッ!!」
ズドン!
ハンマーの柄で鳩尾に一撃。ゼル、沈黙。
「ゼル先輩ー! だから距離感って言ってるじゃないですかァッ!」
「誰かタンカ呼んでこーい!」
騒然とするギルド内。素材提出の話はどこへやら。
俺は……やっぱり外に出たくなった。