第六章:「黎明の連盟」
【ギルド応接室】
ギルド本部の奥、堅牢な扉を抜けた先にある応接室。重厚な木の机と、壁一面の地図。そこに立っていたのは、白銀の髪を後ろに束ねた長身の男――ギルドマスター、リュドーだった。
リュドー
「よく来てくれた。で、依頼の結果を聞かせてくれ。」
マサキは淡く光る魔力糸を発して宙に文字が浮かび上がる
《依頼完了。対象は跡形も無く――処理しました》
レナが一歩前に出て、言葉を詰めるように報告する。
レナ
「跡形も無う仕留めましたわ。死骸も証拠も一つも残ってまへん。ほいで――龍橋が崩れましたんや」
イリシャが付け足すように、目を伏せてから続けた。
イリシャ
「橋の上には、誰かが並べたみたいに武器が整然と置かれとったんや。剣も槍も、刃こぼれひとつなくて……まるで供物のようやった」
その言葉が落ちると、応接室の空気が一瞬凍った。リュドーの顔色が変わる――驚きと、不吉さを読み取ったような厳しさだ。
リュドー
「龍橋が壊れたか……武器が並べられていると。――それは、ただの魔物の仕業とは思えん。何者かの意思が働いている。報告、よく聞かせてもらった」
リュドーは地図に視線を落とし、指で龍の谷をなぞるようにして言った。
「君たちの報告は重大だ。これを受理する。報酬は通常のBランクの倍、そして君たちをCランク昇格候補として審議にかけよう。」
リュドーは報告を聞き終えると、ふとマサキたちの背後に立つ銀髪の少女に目を留めた。
額から伸びる竜の角、静かな瞳――ただ者ではない気配を漂わせている。
リュドー
「……そちらのお嬢さんは?」
マサキは淡く光る魔力糸を発して宙に文字が浮かび上がる。
《新たな俺のメイド、名をユエル。冒険者登録をしたい》
リュドーの目がわずかに細まり、やがて口元に笑みが浮かぶ。
「ほう……頼んでいた依頼内容に――“地竜種の変異体”かと思ったが、まさかな。
……ドラゴニュートとは、この街じゃ珍しいぞ。エルフやドワーフはそこら中にいるが……お前ら、また目立っちまうな」
そう言って低く笑い、視線を応接室入り口に立っていたユリに向ける。
「ユリ、登録を頼む」
ユリ
「はい、マスター」
ユリはにこやかに頷き、ユエルを手招きしてカウンターへと案内した。
その背中を見送りながら、リュドーは何か言いかけて、しかし煙草をくゆらせるだけに留めた。
リュドーはマサキたちに視線を戻し、煙草をくゆらせながら言う。
「お前たちのCランク昇格は追って知らせる。それまで……ゆっくり休んで、みんなで街見物でも行ったらどうだ」
口元に笑みを浮かべたその声音には、冗談半分と労い半分が入り混じっていた。
レナの目がぱっと輝く。
レナ
「街見物! ええなぁ、屋台も見たいし、雑貨も……」
ふと何かに気づき、ちらりとマサキを見る。
「……いや、これって……スライム様とデートやない?」
そうぼやきながら、レナは口元を押さえてニヤニヤ。
イリシャが横で呆れたようにため息をつくが、その頬もわずかに緩んでいた。
リュドーはそんな様子を見て、苦笑しつつ手を振る。
「ほら、とっとと行け。依頼も戦いも、次はいつ来るかわからんからな」
レナは「デートやデート♪」と鼻歌交じりに先頭を歩き、イリシャとマサキ、そしてユエルも後に続く。
笑い声を残しながら、彼らはギルドを後にした。
応接室に静寂が訪れる。
リュドーは机越しに視線を巡らせ、誰もいなくなったことを確かめる。
その瞬間、部屋の隅の薄暗がりから、黒い外套に身を包んだ細身の影が音もなく姿を現した。
リュドー
「……聞いていたな」
影の人物は黙って頷く。
リュドー
「“地竜種の変異体”が……スライムに着いた。この事を――あの人に知らせろ。行け!」
謎の人物
「……はっ!」
次の瞬間、その影はまるで霧に溶けるように掻き消えた。
残された応接室には、リュドーの吐き出す重い息だけが響いていた。




