霧深き龍橋――運命の一撃
険しい渓谷を抜けた先。
山間に架かる巨大な石橋――《龍橋》。その全長は百メートル、幅はわずかに三メートル強。両端には護岸も柵もなく、落ちればそのまま奈落。
霧が立ち込める中、マサキたちは橋のたもとに立っていた。
谷にかかる《古の龍橋》。
濃霧がうごめく中、マサキたちの足がふと止まる。
「この先が……交戦エリアでありんす」
レナがハンマーを肩から下ろし、いつでも振り抜けるよう両手に構える。
「スナイパーポイントは……あそこ、柱の影どすな。遮蔽物、風、視界……全部最悪どす」
イリシャが指差す。
古びた石柱が等間隔で並ぶ橋の中腹、その影にわずかな狙撃の余地がある。
マサキがぷるるん、と小さく震え、淡く光る魔力糸を発して宙に文字が浮かび上がる
《……来る。構えろ》
道中に新たな弾を創造錬金術で作って貯めてある。
どうやらその経験値のおかげで俺は新たなスキル!【形状変化】を手に入れていた。
今回は俺も戦力になれる!
――“爪が、石を擦る音”。
その橋の中央に、ひとりの“影”が立っていた。
長い髪に、竜の角。
しなやかな四肢は鎧に包まれ、背には巨大な武具――それは薙刀と魔導珠。
少女とも、戦士ともつかぬ雰囲気を纏い、
そのドラゴニュートの娘は、霧の中で静かにこちらを見据えていた。
「止まれ。これより先は……女神の霊域」
声は澄んでいる。だが、その芯には鋼があった。
「通る者は、力を示せ。汝らが“百番目”の供物となるか否か……この“ユエル”が、見定める」
レナ
「……あれ、女の子でありんすか? けど、あの眼……ただの子じゃありんせんね」
イリシャ
「構えなはれ。時間を与えれば、こっちが詰むどす」
イリシャは静かにBarrett M82を抱え直し、橋の欄干に身を伏せた。
「風速、四メートル。霧の密度、計測中。偏差角──二秒後に確定どす」
彼女の瞳が、照準器の奥で光る。
レナもまた、ハンマーを地面にトンと立て、目を閉じて呼吸を整える。
レナ
「わっちが突っ込んで引きつけるでありんす。弾が通るよう、橋の中央でぶちかます」
そう言い終えるより早く、レナはハンマーを担いで霧の中へと飛び出した。
石橋に響く足音が、まっすぐユエルへと向かう。
イリシャが息を呑み、照準器を構え直す。
イリシャ
「……動き、引きつけるんは任せたどす。あてが、狙うさかい」
ユエルは橋の中央で一歩も動かない。
ただ静かに、薙刀を手に取り、その背の魔導珠に手をかけた。
霧が、風を孕んでうねる。
レナが叫んだ。
レナ
「さあ来な! わっちがここにおるでありんすよ!」
霧が渦を巻き、風が龍橋をなぞる。
交錯する気配――。
次の瞬間、静寂を破る一撃が、戦端を切り裂いた。




