【怒りのレナ vs 咆哮!巨躯のリザードマン】
重く響く咆哮。巨躯のリザードマンがこちらに向かって一直線に突進してくる。
その巨体は分厚い鱗で覆われ、盾と大剣を振りかざす。
レナは瞬時に標的を決めた。
太い足が踏み込んだ瞬間、Mk23 SOCOMが火を噴く。
「ここでありんすよ――膝裏!」
狙い澄ました一発は関節の柔らかい部分に深く刺さり、リザードマンは激しく膝をついた。
倒れ込むのを見逃さず、レナは素早く距離を詰める。
ガッと地を蹴り、今度はハンマーを引き抜く。
降り下ろした一撃は、リザードマンの頭上めがけて――!
だが、ガギィィンッ!!
重厚な盾が立ちはだかり、ハンマーの一撃を受け止めた。
火花が散る。空気が揺れる。だが、膝をついたままでも、奴の筋力は尋常ではなかった。
「ほほぅ……まだ踏ん張る気でありんすか?」
レナが息を呑んだ、そのとき。
マサキのスライム体から淡い魔力の糸が流れ、宙に文字が浮かび上がった。
《これを使え!》
レナの足元に、小さな金属の球体が転がってくる。
レナはすかさず拾い、次の説明を読む。
《手榴弾の使い方》
安全ピンを抜き、敵の口内へ投げ込むこと。
約4~5秒で爆発し、高速で破片を飛ばし殺傷力を発揮する。
レナはハンマーを腰に掛け、反射的に動く。
ガガガン!
遠くからイリシャの援護射撃がリザードマンの目、口、喉にヒットする!
リザードマンが苦悶の声を上げ、口を開けた瞬間を狙って――
「ほんなら、口の中へ――――」
レナは手榴弾をつかみ、直接その口の中へ突っ込んだ。
「手榴弾、いっちょ上がりでありんすっ!!」
安全ピンを抜いてからの時間がジャスト4秒!。
――ボガァン!!!
レナはその巨体の脇に走り寄り、渾身の力でハンマーを振り下ろす。
「これでもう、終いでありんす――!」
「――《封殺槌》!」
マサキ
「もう何もできない…頼む、これで終わってくれ」
マサキは祈るように目を閉じた。
鈍い音と共に、ハンマーがリザードマンの頭を叩き潰す。
重たくうめく咆哮が森にこだましたが、その声は徐々にか細くなっていく。
レナは息を切らしながらも、敵の動きを見逃さなかった。
「これで本当に終わりでありんすよ……!」
もう一度ハンマーを振り上げる瞬間、リザードマンの身体がぐらりと傾き、そのまま地面に崩れ落ちた。
粉塵が舞い、静寂が森を包む。
マサキは力尽きた身体を少し揺らしながら、かすかに息を吐いた。
「ふぅ〜終わった……か?」
イリシャが駆け寄り、倒れたリザードマンを確認する。
「……やったどすな、マスター」
レナは駆け寄り、イリシャを抱きしめながら言った。
「……生きててくれて……ほんに、ようござんした……わっち、胸がいっぱいにござんす……!」
その声は、どこか震えていた。
普段の陽気さが消え、絞り出すような吐息混じりの声。
「……あん時、胸んとこ……ズキンてなって……もう、あかんのか思うたんどす……」
イリシャがそっとレナの背を撫でた。
「……おおきに、レナはん。あて、ちゃんと生きてまっせ」
二人は数秒、何も言わず抱き合っていた。
レナの目元にほのかな潤みを浮かべている。
「スライム様、やっぱりわっちらは最強どすな!」
マサキはその様子をぼんやり見つめながら、内心で強く誓った。
(この異世界で、俺はこの二人と共に生きていくんだ、と……)
《MP残量:0%》
《細胞硬化:進行中》
《文字展開:使用不可》
《感覚処理:遅延発生》
――だめだ。ここで魔力消費すれば、構造が崩れる。
レナが、リザードマンの死骸に目を向けた。
「……口の中で爆ぜたんと、あての一撃、あとはわっちの《封殺槌》。ほぼ形、残っとりまへんなぁ」
イリシャが肩越しに一瞥し、うなずいた。
「頭部と胸郭は潰れて、盾も砕けてますな。……素材回収は無理どすえ」
「じゃあ、焼き払う?」
「それもありどすけど、目立つかもしれへん。――マスター、どう思わはります?」
マサキは、かすかにスライムの体を震わせた。
文字も出せない。魔力糸も、もう展開できない。
すべてを使い果たした。
それを察したイリシャが、優しく微笑んだ。
「……せやな。今は、あてらが無事なんが一番や。片付けは、またあとで考えまひょ」
「……マスター。よう頑張りはった」
そして、彼女はそっとマサキを抱き上げた。
スライムの体は力なく揺れ、何かを喪ったように光を失っていた。
でも、イリシャの腕の中はあたたかかった。
「帰りましょ、マスター。レナはんも」
レナは小さくうなずいた。
「はいな……よう、皆して生き延びましたなぁ」
朝の霧が晴れ、遠くで鳥の声がした。
かすかな風が草を揺らし、血のにおいを散らしていく。
三人の影が、森の奥へとゆっくりと消えていった。




