前哨戦の戦い
陽光がまだ低く、朝露が葉先を濡らす頃。リザードマンの集落近くの林縁に三人は潜んでいた。
マサキは跳ねるように淡く光る魔力糸を発して宙に文字が浮かび上がる。
――「偵察班、二手に分かれ。指揮個体を優先排除。」
レナ
「わっち、心得ておりんす」と静かに頷く。肩までの髪が揺れ、背中の巨大ハンマーに自然と手が伸びた。
一方イリシャは腰のナックル付きカランビットを確認し、背中のBarrett M82を調整する。優雅に微笑みつつも、眼差しは鋭く冷たい。
「あてはマスターの命じたまま、最適な位置から敵を狙うどす。」
リザードマンの警戒の目が森の奥から光る。獣の咆哮が遠くで響いた。
レナ
「槌の重みがわっちの腕を通り抜けていく。相手の骨を砕く音が鮮烈に響き、冷静さが研ぎ澄まされていく」
一匹のリザードマンが槍を構えて跳びかかってきた瞬間、レナは素早く左脚を踏み込みながら巨大なハンマーを横に振り回す。
槍を構えた隙を逃さず、胸板を鋭く横薙ぎに叩き潰す。
「――《封殺槌》、発動!」
強烈な一撃がリザードマンの動きを完全に封じる。敵の武器も魔力も、その瞬間から機能停止だ。
イリシャ
葉擦れの音ひとつ立てず、イリシャは獣道に身を潜めていた。
ぬらり――二体のリザードマンが草をかき分けて現れる。
前の個体が槍を構え、背後の一体が弧を描くように警戒しながら進む。戦闘に慣れている動きだった。
だが、迷いがないことと、油断がないことは違う。
イリシャは風のように間合いへ滑り込んだ。
「――っ!」
鋭く突き出された槍を、両腕を交差させて下方向にクロス受け。
槍の軌道を右へと流す――弾くのではない、巻き取るような柔らかさと鋭さ。
崩れた。
リザードマンの上半身が大きく傾く。
そこに、右手のナックル付きカランビットが閃く。
弧を描く逆刃が、喉元を切り裂いた。
咽喉から噴き出した血が、イリシャの黒い衣に斑点を作る。
しかし彼女は表情一つ変えず、倒れる相手の背後に向き直った。
「次――おまはんや」
二体目が槍を振るう。今度は上段からの縦斬り。
イリシャは身を反らし、槍を紙一重でかわす。
その反動を使って――
右足の踵をリザードマンに向けて、後ろを向くように体を回転させながら、足裏全体を使って左足で相手を蹴り飛ばす!(後ろ回し蹴り)
相手が仰け反る。
「ほな、失礼――」
イリシャの身体が宙を舞った。
相手の右腕を抱え込みながら、全体重をかけて地に転がる。
飛び付き腕ひしぎ十字固め。
関節がきしむ。
異様な音と共に、リザードマンの腕が逆方向に折れた。
イリシャはそのまま、ナックル付きカランビットで2体目のリザードマンを仕留めた。
静寂が、森を包む。
「――両方、排除完了。次の連中は、どこから来はりますやろな」
薄暗い葉陰で、カランビットの刃が月光を反射していた。
マサキは後方から二人の動きを観察しつつ、魔力の糸で細かな指示を送り続けた。
「慎重に。指揮個体は必ず狙え。無駄撃ち厳禁。」
森の奥深く、獣の叫びがさらに高まっていく。
戦いはこれからが本番だった。




