戦隊ブラックの正体は本物のブラック会社員だった~ブラックの出番が少ないのは本業のせいです~
私の名前は黒田 正 34歳。
東京のとある木造のオンボロアパート(家賃3万円)に住んでいるしがない社会人だ。
朝は始発で会社へ向かい、会社へついたらまずホウキとちりとりを持ち会社前を清楚、その後会社の社員向けのサイトが更新されているので自分の社内用パソコンでチェックしながらもデスク周りを清楚する。
何が書いてあるかと言うと、どこの部署で~人新入社員が入りました!やボランティア活動報告など見る必要もないのだが、たまに社内でこの事を上司から聞かれることがあり見ていないと説教が飛んでくるため、皆必死にその情報を頭に叩き込んでいるのだ。
しばらくすると課長が到着し、皆で席を立ち「おはようございます!」と全力で挨拶する。
声が小さいとやり直しさせられるから皆全力なのだ。
それから朝の一分間スピーチ、課長がランダムで指名し当てられた人は最近あった事などを話すのだが、面白くなければ明日もその人が当番になる。
そして今日は三ヶ月前に入った"中堅社員"がスピーチをして課長からドヤされている。
この会社はすぐ人が辞めていくため、入社して三ヶ月経過していればそれはもう中堅社員と言える人材なのだ。
スピーチの後は全員で社訓読み上げ、課長からのありがたーーーいお言葉があって業務が開始される。
無論ここまで給料は発生していない、なぜなら何も生産していないからである。
業務開始してすぐスーツの内ポケットにしまってある"ストーン"が光り出した。
この赤色の光りは近くに怪人が現れたのか!
しかし……しかし今は仕事中だ、ここは皆に任せよう。
それは数ヶ月前の事だった。
この日本には【秘密結社 ダーク】と言う怪人を引き連れた悪い奴らがいて、ゆくゆくは世界征服を企んでおり手始めに日本から攻撃を開始し、怪人を使い街を破壊してはニュースに取り上げられていた。
そんな彼らに対抗するのは【ストーン戦隊 ゴシェナイト】。
彼らはゴシェレッド・ゴシェブルー・ゴシェグリーン・ゴシェイエロー・ゴジェピンクの男性三人、女性二人で、宇宙から降ってきた不思議な隕石【ストーン】の力を使用し日夜戦っていると言う。
そのストーンは選ばれた者にしか見えず誰でもなれると言うものでもないらしい。
そんな他人事のように思いながら週一の休日を目的なく外をブラブラ散歩していると道の脇に怪しく光る石を見つけた。
それを手に取ると頭の中に直接言葉が……
『我はゴシェブラックの力を秘めしストーン、そなたに力を与えよう!』
その瞬間、私の身体は全身黒のスーツに包まれ、背中には日本刀のような剣がある姿へ変身した。
慌ててスマホのカメラで自分を確認すると子供の時たまに見ていた戦隊モノのような見た目になっていてその時はテンションが上がった。
そしてストーンが赤く光ったと思えば近くに怪人が、まだ誰も気がついていないので早く倒さなければと背中に背負ってあった刀を抜いて怪人に切りかかった。
すると一刀両断、怪人はあっけなく爆発した。
強い、この力があれば世界を救える……!
それから週一の休みは"ブラック"として戦うことに。
一人孤独に戦い、たまに他のゴシェ戦士達の救援をしたりして彼らからは頼られるようになった。
彼らは秘密基地のような所でシェアハウスみたいな事をしながらバイトをしている二十歳そこそこの若者達で、皆実家が太いからかバイトなんてしなくても生活には困らず、ストーン戦隊の"業務"に集中出来ているが私は違う。
ストーンの力を使って怪人を倒しても給料は発生せず、皆からありがとうと言われるだけ。
ゴシェナイトの業務に集中しようと転職も考えたが、何のスキルもないもう少しでアラフォーのおじさんには労働条件の良い会社がなくて諦めた。
ストーン戦隊と仲良くなろうと私生活の彼らを監視した事があったが、ノリが若者っぽく、おじさんの私にはついていけないしシェアハウスなんてしようものなら浮いてしまうのは明らかだった。
だから必要以上仲良くならないよう戦闘時だけコミュニケーションを取って、終われば即帰宅。
変身していても身体は特に運動もしていないおじさんな訳で一戦したらもう息切れで、たまにある連戦では持参した酸素ボンベを吸引し戦うこともあった。
そんな事があって皆には見えないが先程まで社内の私の内ポケットで光っていたストーンの赤い光りが消えた、どうやら彼らが倒してくれたようだ。
ホッと胸を撫で下ろすと業務へ、この業務も意味があるのかわからないもので、私はこの会社に五年いるが未だによくわからない部分が多く勘でパソコンを使い自社のアプリ内に数字を入力している。
そして十二時になると一時間の休憩、自分のデスクで持参したおにぎりやパン、お茶などを食べたり飲んだりしながらパソコンとにらめっこをする。
これが昼休憩か?と思われる人もいるかもしれないが、食事を取れている、片手は休めるくらいの業務なので休憩、これは立派な"昼休憩"だ。
そんな時ストーンが黄色に光る、これは仲間からの無線だ。
トイレに行く振りをして物陰に隠れながら小声で無線に出た。
『ブラック、今皆でカラオケきてるんだ!
お前とも仲良くなりたいし来てきれよな!』
今日は火曜、平日だぞ!私の休みは日曜、しかもその日曜も油断出来ないものでたまに会社に呼び出されて仕事をさせられる事もあるのにお前たちは……!
内心そう思ったが私も大人なので怒りを沈め返答する。
『レッドすまない、今は修行中で山の中なんだ』
『そうか……ブラックは真面目だな!また機会があったら遊ぼうぜ!お、俺の番が来たから切るな、またな!』
ストーンの光りが消え無線が切れた。
平日の昼間に楽しそうだ……貧富の差を感じデスクへ戻った。
時刻は十七時、始業時間は八時から……会社に到着したのは六時だが定時の時間だ。
しかし終わろうとすると課長から意味があるのか無いのかわからない仕事を振られ、今日中に処理して欲しいと山のように重なった紙を目の前に置かれた。
今日も残業かと思っていたが、そもそもこの残業にお金は発生しない。
ここにいる人達全員役職があり私は課長補佐代理、つまり役職がある者は残業代があらかじめ見込みでつけられた分しかもらえない、いわば"定額働かせ放題"となっている。
終電まで終わればいいやと思いため息をついた時、ストーンが黒く光る、これは幹部クラスの強敵!
しかし私も会社内で言えばもう"幹部クラス"の男、簡単には抜け出せない!
仕事をほっぽり出していけば休日は潰れ給料も適当な理由をつけて減らされるであろう……
強敵だが皆だけで何とか……
そう思っていた時だった、課長が立ち上がりミーティングを始めるから会議室へ来いと皆に伝えた。
私も黒く光るストーンに時折目を向けながら会議室へ。
課長がスクリーン前に立って何か言っているがこれは過去耳にタコができるほど聞いている話、緊急でやる事ではなく、皆を残らせるためだけの時間稼ぎが目的だ。
寝落ちしそうになりながら耐えているとストーンが黄色へ、聞くだけなら周りの皆に聞こえないので出ることにした。
『ブラック大変だ、敵の怪人がつよい!』
『流石幹部クラス……俺達皆束になっても勝てない!』
『へっ、面白くなってきた……ブラック、お前も早くこい!』
『ブラックさん、早く私達を助けにきて!』
『答えてよブラック!アタシ達がどうなってもいいのかよ!なんとか言え!』
(すまん皆、今緊急ミーティング中なんだ!)
心の中で詫び無線を切る。
これはまずい、彼らを助けなければ……しかし仕事もある……どうする……
使いたくないがもうこれしか手がない!
ストーンを取り出しギュッと握ると七色に光り私の身体は別れ二人になった。
一方はストーンの力で自動で動かせて、もう片方はストーンを持っている者にしか見えず行動出来るようになるのだ。
こんな便利な技があるなら最初から使えと思うだろうがこの技は解除後に分身した分の体力を消耗し、下手すれば気絶する事もある危険な技なのだ。
皆待っていてくれ!
日も落ち始めた街中を黒いスーツ姿の私が駆け抜けていた。
「とどめだレッド!」
敵幹部の攻撃がレッドに振り下ろされた瞬間、私は剣で敵の攻撃を受止めた。
間に合った、意外に近くて助かった。
「ブラック!」
彼らが私を見て安堵しているのがわかった。
幹部に蹴りを入れると砂煙をあげ吹っ飛んでいったので倒れているレッドに手を差し伸べた。
「遅ぇぞブラック!強いのはわかってるが修行しすぎだぞ!」
「すまないレッド……さあ反撃だ!」
まあ大体は今持ってる剣で切れば勝てるし、この戦いも早く終わらせて早く仕事へ戻ろう……
そう思っていた時だった。
「おのれゴシェナイト!こうなれば奥の手だ!」
敵幹部が巨大化して、最終的に東京タワーくらい大きくなり高笑いしている。
こうなると皆の力も私の剣も効かない。
「くそっ、こうなったらマシンを呼ぶぞ!行くぞみんな準備はいいか!?」
「レッツマシンゴー!」
彼らの掛け声と共に宇宙から戦車や飛行機などの乗り物型可変ロボか来た。
こうなると倒すまで時間がかかってしまう……私も仕方なくバイク型のロボットを呼び皆のロボットと合体した。
ロボットの中は六人席になっているが操縦するのはレッドだけで他の皆はモニタリングして何かそれっぽい事言えばいいだけなので、無口キャラで通してきた私は相手が爆発したら一言「終わったな……」と言えば良いだけなので少しだけ仮眠していた。
目が覚めると敵幹部が爆発し合体ロボが決めポーズをとっていた。
「終わったな……」
そう呟き変形を解除しバイクを宇宙へ帰すと皆に声をかけられる前に急いで会社へと向かう。
時刻は二十時、もう一人の私はデータ入力をひたすら行っており、戻った後の疲労は半端なものではないと覚悟を決め技を解除した。
一人に戻った私の疲労感は半端なものではなかったが手を止めれば終電に間に合わなくなる。
眠い目を擦り仕事に集中した……
時刻は二十三時、やっと仕事が終わりデスクトップのパソコンの電源を落として駅へ向かう。
終電まではあと一時間ある、コンビニに寄って何か買っていくか……
そう思っていた時ストーンが赤く光り目の前に怪人が複数体現れた。
残業と先程まで戦っていた疲労感を誤魔化そうと通勤用バッグの酸素ボンベを用意し吸引、変身した。
敵は強くはないが、私の武器が強いのを知っているようで当たらないよう逃げ回って倒すまで時間がかかってしまい倒し終わった時には終電五分前だった。
急げば間に合うと思った刹那、彼らは応援を呼び同じような外見の雑魚怪人がわらわらと出てきた。
「終わったな……」
自然と言葉が出てしまっていた。
勝てないのではない、家に帰れなくなったのだ。
敵を斬り伏せながら今日はどこに泊まろう、贅沢してホテルか……いや、いつものネットカフェか、晩飯は駅前の牛丼だなとプランを練りながら戦っていた。
【ストーン戦隊 ゴシェナイト】
彼らは日夜私達の平和を守るためたたかっているのだ!
頑張れゴシェナイト!負けるなゴシェナイト!
この星の明日のために……