思いっきり泣いた王女
「セリーヌ王女!貴女との婚約は破棄したい!僕はもううんざりだし真実の愛に目覚めたのだ!」
このように貴族学校の卒業式で突然宣言したのは、私の婚約者であるロベール公爵子息。
「あ……あの真実の愛とはどういうことですか?私のことを愛して下さるのでは無かったのですか?」
ざわつく生徒たちだがおかまいなしにロベールは叫ぶ。
「僕は貴女を愛そうと努力はした!だが無理だ!君は魅力的では無い!それに僕は僕は、ナタリーを愛してしまったからだ!」
ナタリーとは侯爵家の才女と言われた少女で私達の同級生、しかし少し変わった方だと認識しています。
ナタリーに注目が集まるも、ナタリーは露骨に不機嫌な顔をしている。
「あのですね、私はロベール様?貴方のことは別に興味は無いですし、むしろ言い寄られたところで嬉しくもなんともないです。まして、こんな場で私に言うなんて、恥をかかせたいのですか!? 王女様の不興を買って困るのは私ですし、この場で宣言させてもらいます!ロベール様、二度と私に近寄らないで下さい!皆さまその証人となって頂けると助かります!」
ナタリーさんの余りにも強い発言の前に生徒達は一瞬我を忘れたがどよめいたみたい。
すげー さすがナタリー様だぜーなどとあちこちから声が聞こえる。
「何を言うか!僕は君に愛されたくて努力をしている!何故僕の愛を受け入れない!僕は公爵だし不満に思うことなど何もないだろう!」
あまりな物言いにナタリーは激怒したようだ。
「ふざけないで、公爵よりも王家のほうが身分が上でしょう!私は興味の無い貴方のために王女様の不興を買うほうが嫌に決まっていると当たり前のことを言っただけです!それが分からないものの道理を知らない頭の悪い男を好きになどなりません!どうせ今日で貴方は終わりだから言いたい放題言わせてもらいます!」
「ふざけるな!僕の愛を受け入れろ!」
あまりの浅ましく醜い姿に私の心は壊れた……
何でこんな愚かな男に愛されたいと思っていたのだろうか。
婚約者だったから?容姿は良かったから?
あまりにも自分の愚かさにそれから今まで愛されたくて努力したことの無駄さから私は自然に涙が出てきた……
「わ……わたしは愛されたくて努力をしたけどこんな馬鹿な男だと知って今自分の馬鹿さに泣けてしまいます!」
私が突然大声を出したことで、みんなのざわつきが一瞬で止まった。
あのナタリーですら茫然とした顔で私を見ている。
私はもう止まらなくなった……
「私はロベールに愛されたくてロベールの好みの服髪型など全部調査して合わせました。プレゼントだって本来殿方から送るものとされていますが、私は会うたびに用意をしました。それから……ロベールが言うことでしたらどんな話題であっても遅れないように勉強をし、正直面白くないと思っても笑うようにしました。ここまでしたのは全部愛されたかったからだし、愛しているって言う言葉を信じていたからです。でももういいです……こ……こんな……こんな男だったんて……」
私が泣きながら早口でまくし立てる様に、誰もが固まって反応できないようだ。
しかしやってしまったって意識よりも、私の悲しみが止まらなかった。
多分後から思うに、王女だからってことで誰も咎められない甘えもあったに違いない……
「もういいですロベールのことなんて愛していないし愛されなくて結構です、婚約破棄は私から宣言します!」
このように叫んだことで、みんなの雰囲気が一瞬の緊張の後、拍手喝さいとなった。
不思議なんだけどきっと私の異様な迫力に押されたのかもしれない。
「ま……待ってくれ、ナタリーの酷い態度を見ただろ?やはり婚約者はセリーヌ君しかいない いやセリーヌ様待ってくれよ」
「だまらっしゃい!汚らわしい!」
私の剣幕の前に、ロベールも黙り また偶然目があったナタリーは私に頭を下げていた。
別にナタリーが悪いとは思っていないし、何も恨んでなんてないですけどね。
むしろナタリーのしっかりした態度に感化されたからこそ、私も言うべきことが言えたのでしょうし。
こうしてロベールは謹慎処分となったが、公爵家が自主判断で追放したようだ。
卒業式婚約破棄事件と、王女様を泣かせたってことで将来が無いと見切りをつけたようだ。
その後どうなったのかは知りませんが、国外追放なので前途多難となったのでしょう。
私はと言うと、婚約者がいなくなってあんなトラブルが起きたから確かに多くの殿方はビビッて近寄らないのですが、外国の方は事情を知らないのか私に近づいてくれます。
こうなったら国外の良い方をお付き合いをするのも悪く無いですね。
卒業式大泣き王女の汚名も返上したいですからね。