第2話 カルトの謎
朝起きると、アリアがデグレチャフを整備していた。
「おはよう。アリア」
「アンフィスバエナでいいよ〜」
噂通りだ。もう1つの自分。アンフィスバエナ。
「アンフィスバエナ。イリュージョン・ビギニングについてもう少し詳しく教えてほしい」
「…あれは、私が初めてここに来たときだった」
数ヶ月前、ここに派遣された私はイリュージョン・ビギニングの恐ろしさを体験した。
偶然だった。幹部達が会議を開いていた場所だったこの南極基地で会い、ツァーリの能力に襲われた。
「な、何…目眩が…」
目が回ったように感じた。今にも目を閉じたい。足も立てないほど目眩を感じ、頭痛もした。
「私の目には逆らえない。その文字、噂で聞いたニヴルヘイムか。情報通り、私達について何も知らないようだな」
デグレチャフも落とし、拾えない。
「い、痛い…痛い…」
「そうだ。我々の痛みを感じろ。過去は変えられない。過去の痛みも変えられない。貴様にも見させてやろう。過去と未来を見せてやろう。運命に善悪はない。人間が贖罪なのだ」
「このクソ野朗!」
アリアが反応しデグレチャフを拾う。無差別に乱射するが、司祭が全て弾を掴み防いだ。私は意識が飛びその場に倒れた。
「主。ここにはありません」
「探しに行くぞ。ここは見張りに任せる。少女よ。私に興味は持つな。私からの忠告だ」
目が醒めると、私は手足と口を縛られていた。
「目が覚めたか女。これからお前は儀式の生贄として主に捧げる。浄化するんだ。ほら立て」
私は立たされた瞬間、靴に仕込まれた毒が塗ってあるナイフを作動させ敵の脚に刺した。
「いってぇっ!何しやがる!」
私は吹き飛ばされたが、ナイフの毒が回り敵はその場で倒れた。起きることはもう無いだろう。
敵が持っていた短剣を使いロープを切り、手足と口を自由にした。
「はぁ…こんな時にこの靴が使えるなんて」
デグレチャフを持ち歩き出した。
「つまり、イリュージョン・ビギニングは特殊能力を持った人物が集まってるのか。あの武装的にも軍事関係者はいるだろうな」
「あいつら逃げちゃってさ。手がかり探してるんだけど、なかなか見つからなくて…」
「…グリフォン。パソコンの履歴を調べられるか?」
<やってみよう>
奴らがPCを使っていたなら、履歴が絶対に残っているはずだ。何をしたのか、何が目的なのか。
<時間がかかる。少し待ってくれ>
私達そこから1時間ほど待っていた。
なんだか視線を感じる。
「…アンフィスバエナ。俺の顔に何かついてるか?」
「い、いや。別に?」
「そうか」
なんか、見られてる気がする。
<ムスペル。奴らのPCの履歴に何か役立ちそうなものはなかった。というかPCの設定に関するものしかない。唯一PC関連じゃないのが、『南極の絶景スポット!人生に一度は行きたい場所!』。このサイトだけだな>
「わかった。ありがとう」
「何か手がかりは?」
「なかった」
「…そう…」
どうやら、完全に隠れているらしい。一体何をしたい…手がかりも0…どうすれば…?
「無駄だ」
「誰か来るよ!」
扉の奥から誰かが来る。蛍光灯の光りが十字架に反射する。イリュージョン・ビギニングの団員だ!
「…シャシュカに八端十字架のロザリオ。紫のアルバとフード。そして大柄な男。間違いないよ。巫術師だ」
「幹部が直々お尋ねか。舐められたものだ」
左手シャシュカに、右手にオブレズ。モシン・ナガンを切り取ったタイプだ。俺達と戦う気らしい。
「なぜこっちに来た?」
「主のご命令だ。私達を見つける前に必ず始末する。覚悟しろ。私には見える。貴様らが戦死に導かれると」
「気をつけろムスペル。シャーマンは不死身と言われている。かつて存在した怪僧、グリゴリー・ラスプーチンの血を繋いでいる。能力も繋げているという」
どうやら、只者ではないようだ。
「行くぞ!ニヴルヘイム!」