表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

貯めたポイント、どう使う?

「ポイントカード、お作りしますか?」

 スーパーに買い物に行ったら、若い女性の店員にそう聞かれた。

「いや、いいです」

 もともと勤めていた会社をクビになって、田舎の会社に就職した。田舎だから、本当に店が少ない。おまけに、もとの会社をクビになって再就職したけど給料が安いから車も買ってない。わざわざ1時間歩いてスーパーに来た。

「今、ポイントカードを作って頂くと、ポイント2倍になりますが、いかがですか?」

「いや、大丈夫です」

「本当に大丈夫ですか?無料ですぐにお作りできますよ?」

「・・・作ります」

「かしこまりました」そう言って、店員は新しいポイントカードを取り出して、手渡した。

 前の会社をクビになって、付き合っていた彼女にも呆れられて振られた。結婚指輪も準備しようとしていた。会社の経営が悪くなって、リストラが始まって、オレはクビを切られた。彼女には振られ、田舎に住むことになって、車も買えなくなった。

 パラパラと雨が降ってきた。傘はもちろん持っていない。鳥が鳴いている。大通りを歩く。車が往来する。雨足は強くなる。目を上げる。灰色の雲が頭上を覆っている。シャワーのように雨が降り始める。頭は濡れる。服は濡れる。買い物袋も濡れる。顔も濡れる。目も濡れる。

 家に戻ったときには、まるで川遊びでもしてきたかのように、全身ずぶ濡れだった。服を脱いで洗濯機に放り込む。

1人、ベッドの上に突っ伏していた。


 ピロンと、スマホが音を鳴らした。何だろう、と思ってスマホを手にとると、当選おめでとうございます、とメッセージが入っていた。また詐欺メッセージか。どこかから情報が漏れているんだろう。しょっちゅう、何かに当選したとか、成人向け動画の支払い要求とか、連絡が来る。

 

 外を見ると、もう雨は止んでいた。外に出た。歩いて行って、店に入った。写真の中から、前回と同じ女を選んだ。


 風俗店を出たときには、もう外は暗かった。財布の中身を見ると、お札がもう無くなっていた。


 また翌週、スーパーに寄って牛乳を買った。ポイントカードを出した。いつもご利用有難うございます、と言われた。

 店の壁に、チラシが貼ってあった。ポイント貯めると、交換できる景品だ。

 チラシに、猫のキャラクターの電気ケトルがのっていた。1000ポイント貯めれば、交換できる。1000ポイントか・・・。頑張って貯めてみようか、と、目標を立てた。


 それから、何度となくスーパーに通い、ポイントを貯めていった。10ポイント、20ポイント、50ポイント、100ポイント。

 でもなかなか貯まらない。

 そうやって、月日は経っていった。ようやく、みかんを買ってポイントカードを出してレシートをもらったとき、1000ポイントが貯まっていることに気がついた。レシートを持つ手が震えていた。

「これ、これ、・・・、1000ポイント・・・」

「そうですね」

 若い女性の店員は答えた。

「1000ポイント貯まったら、あれ、もらえるんですよね」

 オレは店の壁に貼られているポスターを指さした。ポスターにはポイントを貯めると貰える景品がのってある。

「貰えますよ。そちらのサービスカウンターへお持ちください」

「・・・はい」


「すみません、これ・・・」

 オレは、サービスカウンターの人にポイントカードを渡した。

「景品の交換ですね」

「はい」

 オレは言った。

「何と交換しますか?」

「そちらの電気ケトルでお願いします」

「こちらですね。かしこまりました」

 店員はそう言って、カウンターの下から、箱を出してきた。

「こちらでお間違いないですか?」

 店員は箱を見せて、言った。猫の絵が描かれた電気ケトルだ。

「はい。間違いありません」

「どうぞ」

「有難うございます」

 オレはそれを受け取ろうとした。

「可愛いケトルですよね」店員はオレに箱を渡すとき、そう付け加えた。


 店員が差し出した箱に手を伸ばさず、店員を見た。

「お客様?何か・・・?」

 店員が言った。ポニーテールの若い店員だった。オレより、少し年上。30歳前半、といったところか。

「これ、可愛いですか?」オレは言った。

 店員は、「ええ、この猫ちゃん、いいですよね。お湯を沸かすのが楽しくなりそうです」、と言った。

「そうですよね。自分もそう思って、ずっとこれと交換したかったんです」オレは言った。


 その日の夜から、オレはそのポットを使って湯を沸かすようになった。白い電気ケトルには、猫の絵柄が黒い線で描かれている。目が2つあり、三角の耳がついて、長い髭が伸びて、歩きながらこちらを振り向いている絵だ。


 毎朝、その電気ケトルでお湯を沸かし、会社に行くようになった。ある日、会社の同僚の女性から、一緒にお茶をしないかと声をかけられ、休日、喫茶店へ行って話をした。偶然、彼女が猫好きだという話を聞いて、オレも猫が好きだという話をした。

 何度か2人で会った後、彼女の方から告白を受け、付き合ってから、3年が経った。結婚指輪も用意した。


 朝、猫ちゃんの電気ケトルで湯を沸かし、自分と彼女にお茶を入れた。ありがとう、と言って、彼女はそれを受け取った。

 朝食を食べ終え、支度をして、じゃ、行ってきます、と言って、彼女に見送られながら、オレは玄関を出た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ