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『錬金術師』


 錬金術師というと誰もが中世ヨーロッパのマッドサイエンティストを思い浮かべてしまうだろうが、実在した錬金術師は決してイカレタ科学者ではなかった。

 現代の科学知識からすれば無茶な理論を展開しているのだが、当時の一般常識から考えると有って当然の研究だったのが錬金術。

 魔法使いも真っ青の科学と技術の進歩によって、錬金術師の存在そのものが無意味であったかのように語られている現代、彼等は魔法使いと同じ扱いでファンタジーやSFの創作世界にかろうじて生き続けている。

 ドラえもんの時代に行って見よう、現代の科学は我々が見ている錬金術師の研究といささかも変わらないのではなかろうか。


 一般的に鉛を金に変えて銭儲けを目論む金の亡者が、手段を問わずに目的へと猛進する科研を、魔法を使えない魔法使い的な奴が行っている行為を錬金術としているようだが、本来やっていた事は何でもかんでもドロッドロに溶かして混ぜこぜする学問だった。

 今で言う所の超合金や特殊ガラスとか、強靭な繊維の開発といった科学研究の最先端技術とほぼ同じだ。

 金属を溶かしているイメージから離れられないので、どうしても金に関連しているのが錬金術師とイメージしてしまうが、物の性質を安定させている精【エリクシール】を物質から取り出して【エリクシール】の力を自由自在に操るといった目的が根底にある。

 金の持つエリクシールを使って、鉛を金に変えるのはエリクシールの抽出に成功したという証明でしかない。

 最終的には【生命のエリクシール】を使って不老不死になるのが研究の課題。

 ほー成る程と簡単に受け入れてはいけないのがこの研究で、金のエリクシールを取り出すのは金であるとするならば、生命のエリクシールを取り出すのに必要な材料というのは【生命体】となる。

 鋼の錬金術師が使った賢者の石ってのがこれ。

 錬金術師がやろうとしていたのは【他人の命の横取り】に他ならない。

 結局、現代であろうが過去であろうが錬金術師はマッドだったという結論に達してしまった。

 最初に記載した錬金術師はイカレタ科学者ではなかったというのは何だったんだ……。

 これは、私が参考文献の全文を読み切る前に、参考文献の文章をバラシてくっつけ直して、さらに参考文を読みながら、その上に自分の文章であるこの本文を平衡して書いてゆくといった、世の中を舐め切った横着な文章構成と執筆法を駆使して字数を稼いでいるからに他ならない。

 錬金術師とやっていることはたいして変わらない。

 とりあえず、この件に関して筆者は黙秘を押し通す姿勢である。

 したがって、深く考えずにこの場に置いておくべき物であると判断し話を先に進める。


 万物を融解しエリクシールを取り出す為に必要な液体を発見したと騒いだ錬金術師はいたようだが、ガラスは溶かせても蝋を溶かせない。

 つまりはフッ化水素を発見しただけだった。

 今だからこの錬金術師を馬鹿野郎と言うが、それまで知られていなかった特性を解明したというのは、現代で言う所の新薬発見に等しい程の大発見だったに違いない。

 まとめると、錬金術は狭義では化学的に卑金属を貴金属に変える研究及びその術なのだが、この場合総ての錬金術は研究段階で終っている。

 これは、金が作られていない事実が証明している。

 トッケビなら、酔った勢いで簡単に金塊をだせるのだが。

 どこかにトッケビ居ないかな?

 是非とも友達になりたい妖怪だ。

 広義には、物質や人間の肉体・魂を完全体にするというもの。

 試行過程で、硫酸・硝酸・塩酸など化学薬品の発見が多くなされている。

 人類石化現象を解くカギを握っていたのが、硝酸だったのもうなずける。

 結果として、実験道具や科学薬品等は現在の化学にも引き継がれ大きく貢献している。

 歴史学者フランシス・イェイツが、16世紀の錬金術が17世紀の自然科学を生み出したと指摘しているくらいだ。


 一般によく知られた錬金術のアイテムに、先に記した賢者の石がある。

 賢者の石は鉛を金に変え、人間を不老不死にすることができるとしている。

 ここまでくるとペテンにしか聞こえなくなってしまうのだが、生命のエリクシールで不老不死になれると信じられていた時代である。

 賢者の石の製造は、大げさな国家プロジェクトにまで発展していった。

 この賢者の石であるが、現代になってかなり近い物が作られ一般家庭で広く使われている。

 半導体という代物。

 殆どの家電製品に使われている。

 半導体は珪石などの鉱石から珪素「Si」を取り出し、純度を高めたシリコンを使っている。

 シリコンは、酸素についで地球上に存在する元素としては二番目に多い物質である。

 したがって、技術者の間では【石】と称されている。

 世紀末、半導体回路によるデジタル計算機【コンピューター】は、鉄鉱石から産まれた磁石を使っていた。

 それが僅か数十年で、飛躍的且つ危険な程の成長を遂げている。

 そんじょそこらにゴロゴロしている格安な鉱石を、魔法の石に変え、あらゆる情報を瞬時に処理して大金を稼いでいるのである。

 この石のおかげで不老不死とまではいかないにしても、人類の平均寿命は飛躍的に伸びた。

 まさに【賢者の石】であるが、現代では賢者に限らず弱者も持っている。


 人間を不老不死にする物としては、賢者の石よりかなり前に霊薬として【エリクサー】と表現された物があった。

 汗かき父ちゃんのエリが臭いと覚えておけば忘れないだろう。

 現代にあって、これと同等の効果が期待できる物に、NMNなる薬が有る。

 ビタミンB3(ナイアシン)の一種として使われているもので、2015年頃に不老不死の薬として書いた事がある。

 危なっかしい話なので、コンビニで売られるようになったら試してみるかなどと冗談に書いた。

 最近になってこれが、ネットで当たり前に買えるようになっている。

 価格はピンキリだが内容も効果も同じだ。

 無理してバカ高い物を求める必要はない。

 とりあえず試してみたら、全身に軽い痒みが出てきた。  

 代謝機能を高めて身体の若返りを促すらしいのだが、これをやると癌細胞を増やしてしまう危険性も否定できない。

 合わせて、痒くなるのは効果の結果ではなく、許容量を超えているからだと思えるので止めた。

 しばらくしたらもう一度飲んでみよう。


 話を戻すと、エリクサーは神の薬であるが、その薬と同等の効果が有る物として、賢者の石を作る研究は神の作業ともされていた。

 怪しい研究者には違いないのだが、当時の錬金術師は尊敬に値する人物であった者が多いようである。

 錬金術は中世ヨーロッパで長く続けられていた事から、ヨーロッパ独自の研究かと思われがちだ。

 しかしヨーロッパの錬金術ブームは何時に成っても成功しないまま、一度すっかり途絶え消えている。

 もっとも、いつの時代にも取り残された科学者というのはいるものだ。

 細々と研究は続いていたのかもしれないが、公式の記録には残されていない。

 その後記録されている錬金術は、イスラム圏の世界から再び流れ込んできたもので、技術もそれ以前のものとは違って来ている。

 統一して言える錬金術は、人が神に成る為の技術研究としていいだろう。


 この様に超自然的要素を多く含んだ錬金術は神秘的である。

 漫画ゃ小説においてスペキュレイティブ・フィクションというファンタジーやサイエンス・フィクションなどのジャンルに大きな影響を与えている。

 現実世界をこれでもかと言うほど無視し、どの様に考えても無理な設定でも、如何にも可能であるかのように騙さなければならないファンタジー作品においては、実在した人達で有った為に重宝される存在となっている。

 このいい加減この上無い錬金術であるが、通常の科学技術と並立し、超科学分野として確立している例もある。

 創作作品では、さも現実としてこれらの研究が現代でもなされているかのように、作品ごと詳細かつ複雑に体系化されてもいる。

 ホムンクルスのように、無生物から人間を作ろうとする錬金術の技術もその一つ。

 現実の生物発生研究として、地球の発生当初に存在した無機物を高温で融合させ、有機体を作り出す研究での成功例が報告されている。

 高等な錬金術師は、霊魂の錬金術を行い神と一体化すると考えられた。

 もはや詐欺師の域を超越し、宗教や神秘思想の趣きが強くなっている。


 伝説上の人物で最も優れた錬金術師はヘルメス・トリスメギストスとされている。

 そして【最後の錬金術師】と言われたのが、アイザック・ニュートンである。

 元々、ニュートンは錬金術師であった。

 しかし、近代物理学の考え方はニュートンから起こった為に、科学者の様に表現されている。

 小説のタイトルとしてはいいかもしれない『最後の錬金術師 アイザック・ニュートン 引力は神から彼へのメッセージだった』なんていいんでないかい。

 私は書く気ないけどね。

 めんどくさい話になりそうだもんね。

【最後の錬金術師カリオストロ伯爵】って本も出てるし。


 錬金術=失敗と思うのは当然で、多くの錬金術師が長い年月と多額の資金を使い果たしても、何等かの発見発明をした例は数える程しかない。

 それとて、本来の錬金術の目的からはかけ離れた結果であり、当時としては成功したと言えるものではなかった。

 最終目標が神の能力を超えようとしているのだから、成功する筈も無いのだが……。

 現代なら成功としていいのではなかろうかという数少ない例として、磁器製法の再発見(ヨーロッパ、18世紀)

 蒸留の技術(中東、紀元前2世紀頃)

 火薬の発明(中国、7 - 10世紀頃)

 硝酸、硫酸、塩酸、王水の発明(中東、8 - 9世紀頃)

等がある。


 近代科学技術の進歩は異常とも言える勢いである。

 ならば金くらい作れてもよさそうなものだがと思う。

 海水から金がとれるのは随分と前から知られていたが、極微量である為に精製費用と金の買い取り価格の折り合いがつかない。

 海水から金を取るプロジェクトは何処へ行っても行われていない。

 仮に海水から金を取り出せたとしても、元々金として存在していた物を固めただけで、錬金とは言えない。

 では現代科学をもってしても錬金は不可能かというと、そうでも無い。

 原子物理学の分野では、理論的に可能であるとされている。

 物理学者は現代の錬金術師である。

 何処まで信じるかは個人の責任として聞いていただきたいのだが、金よりも原子番号が一つ大きい水銀に中性子線を照射し、原子核崩壊させれば水銀は金の同位体となる。

 ただし、この方法には大きな欠点が一つある。

 儲からない。

 時間がかかる上に膨大なエネルギーと高価な設備が必要となる。

 素人投資家に御薦め出来る方法ではない。

 したがってやってみた奴もいない。

 理論上は可能であるが、実現するとは限らない。

 タイムマシーンと同じである。

 他に方法がないでもない。

 金のように質量数が大きい物質を核融合で生成するのに必要な【超高圧・超高温】を人為的に発生・制御できる技術をもってすれば金は作れる。

 これにも若干の問題点がある。

 今のところこの様な条件をクリアできる【技術が存在しない】理論上は可能なんだがなー……。

 最も簡単なのは貴金属店に押し入ってみる。

 色々と御批判と解釈の違いはありましょうが、何も無い所に金をといった意味からすれば、これもまた一種の錬金術である。

 欠点を一つ挙げるなら、必ず成功する保証はない。

 それなりの刑罰に甘んじる覚悟が必要である。

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