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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

洋風ボーイズラブまとめ

醜形公爵の弟子になりました

作者: さんっち

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


見た目も性格も、時間と共に変わるモノです。それがどっちに転がるかは、その人次第ですが。

国境付近に建つ、歴史と風情ある豪邸。銀髪の少年は中性的な服を身につけて、入り口まで歩いて行く。


本当に自分に、()()()という名の監視が出来るのか?あまりの場違いさと不安に、彼はゴクンと息を飲んでいた。



少年はセレン・クロム、クロム子爵家の子息だ。しかし両親亡き後、当主となった叔母はろくに仕事せず、娘のルーティと散財してばかり。そして長いこと「家族と認めない」「口答えするな」と強く拒絶され続け・・・今や反論もせず、黙認していた。


そんな時、子爵家に命が下される。コバルト・アインスタイ公爵の元に、令嬢を婚約者として出せ、とのことだ。


コバルト・アインスタイ公爵は、魔法研究の第一人者である。この国で魔法は、限られた者しか使えない特別な力。かつて彼は王都の魔法研究機関に所属し、魔法の発見・発達に努めて、多くの富を成してきた。


しかしコバルトは魔法研究を失敗した際、全身を酷く損傷してしまう。巻かれた包帯の下は、醜い火傷か、蒼くただれた皮膚か、身の毛がよだつ痣か・・・。いつしか彼には、【醜形公爵】という呼ばれ名が出来ていた。やがて失意のまま魔法研究機関を辞め、消えるように僻地へと移り住んだという。


だが技術のある魔法研究者となると、隠れて禁術に手を出す恐れがある。同時に新たな魔法研究をするのではないかと、希望的観測も出ていた。ともかく、機関はこのまま縁を切るわけにはいかないらしい。そこで適当な貴族家から、公爵家を監視する意を込めて、彼の婚約相手を探していた。そして適当な令嬢がいる行き詰まった子爵家を見つけ、白羽の矢を立てたのだ。


膨大な金に食いついたものの、ルーティは猛反発した。「醜形公爵の嫁なんて嫌」「あんな寂れた土地に行きたくない」と泣きじゃくれば、叔母はすぐ別案を考える。そして静かに掃除をするセレンを見つければ・・・何かを思いついたように、ニタッと嗤う。


「セレン。お前が子爵令嬢として、公爵の元に行きなさい」


「え・・・!」


「ルーティ・クロムとして、適当にやり過ごしなさい。この公爵は人嫌いだからね。アンタに興味なんか無いでしょうし、夜伽なんかしないわよ」


「で・・・ですが」


「無駄口はしないで頂戴。早く準備なさいね」


もはや何を言っても無駄だ。国の意向に反することも、きっと子爵家は回らなくなることも、彼は言えなかった。



(ここが、コバルト・アインスタイ公爵のお屋敷。大きくて綺麗・・・)


しばらく屋敷に圧倒されていると、「お待ちしておりました」と女性の声。ここの侍女らしき老婦人が、優しげな笑みでセレンを出迎えてくれていた。場に出ただけで、強いオーラを感じる・・・。またもや圧倒されかけたので、慌てて我に返る。


「は、は、初めまして・・・」


「この度は王都から、ようこそお越しくださいました。私はキュリー、屋敷の侍女です。坊ちゃんに()()()()が出来て、喜ばしい限りです」


で、弟子!?思わぬ言葉に、セレンはまた目を丸くする。自分は婚約者として、ここに来たはずだが・・・。


「え、あ、あの・・・」



「お前か。国から送られた、婚約者という名の監視は」



会話の最中、かなり汚れた包帯を顔に巻き付ける、背の高い男が姿を現す。おそらく彼が、コバルト・アインスタイ公爵だろう。


包帯の隙間から見える、蒼く鋭い瞳にただれた肌。低い声と威圧感に、セレンは思わず身震いする。既に監視だと気付かれていて、強く警戒されているようだ。


「とりあえず入れ、下手に荒らすなよ」


茶の用意をしろ、仕事を終えてから合流すると言って、去って行ったコバルト。セレンは震えたままキュリーに連れて行かれ、気付けばお茶や焼き菓子やら用意されて、しっかりもてなされる。


しかし、ずっと不安だった。思った以上に怖い人で、何より監視だと警戒されている。一体この後、どうするつもりなのだろう。もし追い出されたら・・・。喉を通るお茶やお菓子を、全く味わう余裕が無い。


「早とちりして申し訳ありません。坊ちゃんより【魔法研究機関から出された者が来る】と聞いて、お弟子様だと勘違いしていましたわ」


幸いにも、キュリーは優しく接してくれた。喉が渇いたセレンがゴクゴクお茶を飲んでいけば、「おかわりいかがですか?」と注いでくれる。


「こちらに来てから、どなたかをお屋敷に上げるのも初めてでしたので。例え監視を兼ねた婚約者様でも、坊ちゃんと仲良くなって頂ければ・・・」


その最中、キュリーの足元がふらついた。「あっ」と声を出した瞬間、キュリーはバランスを崩してしまう。


盆に乗っていた複数のティーカップが、ガタッと揺れた。このままでは茶をこぼすと同時に、ティーカップが地面に落ちて割れてしまう・・・!


「・・・っ、危ないっ!」


落ちそうになったカップは、淡い光に包まれ、フワフワと宙に浮いているではないか。ゆっくりテーブルの上まで移動すれば、安堵したセレンは「ふぅ~」と息をつく。右手から、同じように淡い光を出しながら。


・・・そう、セレンも魔法の使い手なのだ。


「まぁ!坊ちゃんと同じく、魔法が使えるのですか!?」


「そ、そう・・・ですね」


思わず人前で使ったことに、セレンは少し焦っていた。幼少期に突如として魔法に目覚めたが、両親の前以外では、決して使うことがなかった。理由は様々だが、欲深い親族に利用されないためが、1番大きいだろうか。


上手くなりたいと、子爵家では隠れながら練習はしてきた。誰も来ない自分の屋根裏部屋で、古本を読み込んだり、1人特訓したりするくらいに。


だから魔法研究をしている人の屋敷に来たのが、密かに嬉しくて・・・。



「本気で俺の弟子になるか?セレン・クロム」



その声に、またビクッと震える。丁度コバルトが、応接間にやって来たのだ。包帯の下からは、興味を持って見る瞳があった。というか、何故本名を・・・?


「女が来ると聞かされて、男が来たら調べて当然だろうが。ついでにルーティ・クロムは、現当主である母と同じ茶髪らしいが?」


ポイッと目の前に放られた書類。クロム子爵家の家族構成や事業など、大半のことが記されていた。貴族目録以上の情報が、既に彼の手元にある。もはや言い逃れは出来ないだろう。セレンは追い詰められたように顔を青ざめる中、コバルトは話を続ける。


「俺には婚約者など必要ない。ましてや監視なんぞ・・・。だが丁度、魔法を使える共同研究者を探していた。弟子としてなら、お前を受け入れる」


「え、あ、その・・・」


「逆にそれ以外なら、問答無用で追い出すが」


また冷酷な視線を浴びて、セレンはビクッと震えた。あんな子爵家に戻されたら、どんな目に遭うか分からない。せめて置いてもらわねば!


「ぜぜ、是非、コバルト様の弟子にしてくださいっ!!」


気付いた時には涙目になりながら、勢いで承諾した挙げ句、コバルトの前に跪いていた。こうしてハッキリ言葉を口にしたのは、初めてかもしれない。




「坊ちゃん、あまり怖がらせる言い方はダメですよ。これから共に暮らすお方なのですから」


「どうせ不本意な繋がりだ。上手くいかないに決まっている」


「それはどうでしょうか。時間が経つと、変わることもございますよ」



そうして始まった弟子としての日々は、思ったより快適だった。


「コ、コバルト様。先週の記録整理、終わりました」


「・・・あぁ、助かる。これが終わったら休憩するか」


コバルトが大量の書類を書き連ね、セレンはそれを整理していく。彼はガシガシ新規の研究を進めているようで、部屋は常に書類だらけだった。だから毎日、掃除が欠かせない。それが終われば補助員として、実際の実験に協力する。


多種多様な教科書に、珍しい道具。知らない魔法もドンドン出てきては、目を輝かせる。コバルトは一部を除いて自由に見せてくれたため、好きなときに特訓が出来た。


セレンは今や子爵家にいた頃より、充実した時間を過ごせている。


(一応、危険な魔術をしていないか確認しているけど・・・楽しいな。ここに来られて良かった)


キュリーの淹れたお茶を飲みつつ、セレンはジッとコバルトを見る。


時間が経ったからか、体の損傷は少しずつ回復しているらしい。最初こそ顔全体に分厚く巻いていた包帯も、かなり薄くなった。ただれた跡や火傷は完全に消えないらしいが、薄くなった右目側はほとんど見せている。


それにより、表情もかなり見えてきた。不機嫌そうな顔も多いが、大分話しやすくなったし、笑顔も見せてくれる。一方で、コバルトはちょっと言葉が強い。そして「監視の調子はどうだ」と、威嚇でちょくちょく尋ねられている。距離は近付いているだろうが、未だに警戒されているようだ。


(いつか監視役から外れて、本当の弟子になれたらなぁ)


休憩を終え、その後も作業を終えて、その日の夜を迎えたセレン。屋敷の巡回を終えたら、今日の仕事は終了だ。くぁあと欠伸をしながら、広い屋敷を歩く。3人以外誰もいないのか、コツコツと足音だけが響いている。


(・・・あれ、コバルト様の部屋が明るい。まだ起きていらっしゃるのかな)


もうすぐ日付が変わるというのに、魔法研究をしている音と匂い。遅くまで頑張っているのは、これで1週間連続だ。


ーーードサドサドサッ!!


ふと盛大に、何かを落とした音が響く。「コバルト様!?」と、つい部屋に飛び込んだ。


大量の書物が、足の踏み場もなく床に散乱していた。当の本人であるコバルトは、コーヒーをグビグビ飲みつつ、クマの濃い眼でフラフラと執筆し続ける。


「コ、コバルト様!今夜はもうお休みに・・・」


「馬鹿野郎、あとちょっと・・・あとちょっと、で・・・まとまる・・・」


ガタン!とインクを横倒しにして、シミが出来ていく報告書。流石にコレには、意識が飛びかけたらしい。椅子にもたれかかり、魂が抜けたように動かなくなるコバルト。セレンはその間にも、いそいそと片付けを・・・しつつ、普段見せてくれない魔法の本に目を輝かせる。


(・・・ちょっとだけなら、見ても良い・・・よね?)


コバルトが気付いていないのを確認してから、そっと適当な本を取る。開いてまず見えたのは・・・びっしりと書かれた、コバルトのメモだ。実際やってみて気付いた点、反省点に改善点。予想や要因、やり方などが事細かに記されている。ページの隅から隅まで、それでも書き切れなければ、別紙も挟むほどだ。


この人は、こんなに魔法に真剣なんだ・・・と、セレンは驚いた。それを見るのに夢中になっているがあまり、意識を戻したコバルトと、バッチリ目が合うのだが。


「あっ、お前・・・!み、見るな、勝手に!!」


「あ、も、申し訳ありませ・・・」


コバルトにとっては、黒歴史なのだろうか?本を慌てて重ねて、ゼェゼェと息を切らして片付けだした。ここまで慌てている彼を見るのも初めてだ。


このまま終わるのも気まずい。それにせっかく見たのだ、ちゃんと凄かったことを言わなければ・・・!何度か深呼吸した後、セレンは「あのっ」と切り出す。


「と、とても素晴らしかったです!コバルト様が真剣に、魔法研究に向き合っているのだと分かって・・・」


「・・・・・・」


「ぼ、僕・・・コバルト様の弟子になって、本当に良かったです!」


沈黙が、2人の間に流れる。コバルトはフイッとそっぽを向いたが・・・褒められたことが恥ずかしいのか、かあぁと赤面している。



「・・・あり、がとう」



そんな小さい声がしたと思えば、ホイッと部屋から出されたセレン。ある意味の照れ隠しなのだと、フフッと笑ってしまった。




「何でこんなに・・・ドキドキすんだよぉ。キュリーの奴が『心が回復すれば、身体も回復する』って言ってたけど・・・こういうことかぁ?いやいや、なに一回りは年下のガキに恋してんだ、俺・・・」


セレンが来てから、毎日が楽しい。研究もスムーズになったし、屋敷も綺麗に保たれるようになったし、自身の不調も改善した。


好きなモノを極めて孤立して、それを無視したら孤高の天才になって、自身の失敗で閉じこもった。結果、愛の与え方や受け取り方を知らない、寂しい人間になってしまったようだ。


なのでこの感情を、どう処理すれば良いのか分からない。書き損じた報告書に突っ伏し、うなだれるコバルトだった。



婚約者という名目は、遙か彼方へと飛んだらしい。それでもセレンはコバルトの弟子として、忙しくも充実した毎日を過ごしていた。


ところが数ヶ月近く経ったある日、乱入者が現れる。


「セレン、アンタは今すぐ子爵家に戻りなさい!」


花嫁姿のルーティが、荷物を持って、コバルトの屋敷に押しかけてきたのだ。外で1人作業していたセレンは、ギョッとした目になってしまう。


セレンがいなくなってからというもの、子爵家は思うように回らなくなっていた。さらに国からは近々、現状確認のため使者を送るとの通達も届く。唯一の子爵令嬢ルーティ・クロムが公爵家に行っていないと気付かれれば、母娘揃って処罰されてしまう。そこで今の内に、つじつま合わせに来た・・・とのことだ。


「私も仕方なく、汚名付き公爵様の婚約者になるから。アンタも急いで子爵家に戻って、建て直して頂戴!元通りになるから、問題ないでしょ!」


元通り・・・問題ない!?流石のセレンも、許せなかった。ここに来たのもそちらの命令だというのに、都合が悪くなればまた良いように扱われる。


それに・・・大切な人を()()()()として、()()()()婚約するという言葉に、納得できなかった。これ以上、自分の生活を崩されるものか!


今まで、口答えする勇気など無かった。でも、ここで丸め込まれるものか。セレンはすぅと息を吸う。



「ルーティ、僕は戻らない!コバルト様の弟子として、ここで生きてくんだ」



久々の反抗に、ルーティはギョッとした。こんなにハキハキ喋り反論するセレン、見たこと無い。しかしすぐにギロリと睨み、口論を始める。


「はぁ、弟子ぃ!?なに馬鹿なこと言ってんのよ!」


「馬鹿なことじゃ無い、コバルト様がそうして僕を認めてくれたんだ。セレン・クロムとして!!」


「ふざけないで!アンタは私たちのために動けって言ってるでしょう!?」


ガシッと頭を掴まれて、銀髪を引き抜かれるのではないかと思うほど、強く引っ張られる。それでも決して負けじと、軽い魔法でルーティを追い払う。


「ぎゃっ!アンタ、魔法使えたの!?」


「ここに来てから、使いこなせるようになったんだ。僕の大切な師であり、婚約者でもある公爵様を、これ以上侮辱するな!」


「・・・は、はん!どうせそんな弱い魔法、ここじゃ何の役にも立たないわ。それに男で、子供も産めないじゃないの!アンタがこれ以上いたところで、価値なんて無いのよ。さっさと子爵家に戻りな・・・」



「俺の大切な弟子に、何をしている?酷い侮辱が聞こえたが」



完全に怒りが込もった声が聞こえる。ルーティがバッと見れば、綺麗な包帯を顔に巻く、背の高い男の姿を捉えた。グイッとセレンを自身へと引き寄せ、ギロリと鋭い視線でルーティを睨む。


突如現れた醜い男に「ひぃぃ、気持ち悪い!」と悲鳴を上げるルーティ。しかし公爵本人だと気付き、ハッと我に返ったようだ。「ももも、申し訳ありません!」と跪きつつ、弁明を始めた。


「わ、私はとある事情で、しばらくこちらに伺えなくて。その者は代理で出させていました。ですが準備が整いましたので、こうして婚約者として・・・」


「悪いがこれ以上、貴様の声を聞きたくない。去れ」


「で、ですが国からの伝達で、公爵様の婚約者は私です!」


「その話は、先日をもって白紙になった」


え?と戸惑った2人に、コツコツとキュリーが近付いていく。そっと渡した、国の紋章付きの封筒。スッと取り出した手紙を、ルーティは見てギョッとした。


「なっ・・・ルーティ・クロムとの婚約を白紙に戻して、【セレン・クロムとの婚約を認める】ですって!?」


最初だけならまだしも、最後の文にセレンも目を見開いた。・・・そういえば主たる婚姻とは別になるが、性別関係なく婚姻を結べる制度が、この国にはある。本当に少数しか施行されておらず、無いモノのようになっていたが・・・。


「俺が完全に、国との繋がりを絶ったと思っていたのか?」


セレンが来る前から、コバルトは組織にいる恩師と、ずっと手紙による情報共有を続けていた。クロム子爵家から違う婚約者が来たこと。しかしセレンは優秀な弟子なので、しばらく様子を見させてほしいこと。このまま彼といられれば研究が捗るので、彼との婚約を認めてほしいこと。全てを報告した。


恩師を通じて手続きは進み・・・遂に先日、ようやく上記の手紙が届いたのだ。


「だから今更来ようが、お前と婚約する気は無い。そして先程のことを見て、家同士の繋がりを持つつもりは完全に無くなった。洗いざらいに報告させて貰うぞ。まぁお前らは、多少の処罰を受けることは覚悟しろよ」


「ま、待って・・・!お待ちを!」


「申し訳ありませんが、お帰りください。丁度私も用があるので、王都までお送りいたします。坊ちゃん、少しお留守番をお願いしますね」


キュリーが古びた木の棒を振れば、一瞬にして大きな魔方陣が出来た。その中にいたキュリーも、マーキュリも、さらには彼女の乗ってきた馬車も、跡形も無く消えてしまったのだ。


「瞬間移動魔法か。かなり大規模だな」


「キュ、キュリーさんも、魔法の使い手だったんですか・・・」


「というか、恩師の元上司だったからな。おそらく王都に行ったら、そのまま組織に報告するのだろう。今日中にも、何かしら動くだろうな」


えっ、と思わず声が出た。1番強い人は、実は密かに隣にいたようだ・・・。




その後、国の命令に背いたクロム子爵家は、親戚の伯爵家に吸収されることになった。叔母やルーティは、今後は平民として伯爵領で生きていくだろう。「ろくでなしの母娘」として、後ろ指を指されながら。


「ま、コレは反面教師で留めておきますよ。これ以上深く考えちゃ、僕の気持ちが持ちません。それに1度転んでも、起き上がれば頑張れますし」


「そうだな。まぁ向こうは向こうで、上手くやることを祈るだけだ」


そう言ってフフッと笑い合い、そっと茶を飲んで一息つく。相変わらず散らかった部屋だが、本当に居心地が良い。


あれからあっさり婚姻を結んでも、2人の関係は大きく変わらない。共に研究する仲として、師匠と弟子として、それなりに上手くやっている。何度か王都に来ないかと持ちかけられたらしいが、コバルトはここでの暮らしが合っていると、もう少し僻地の屋敷で暮らすことを決めた。いつか周辺の自然を利用した魔法研究もしようと、2人で計画している。


「あの時の口論、聞いてた。俺のことを、大切な師って思ってくれて・・・ありがとな」


真っ直ぐな言葉に、セレンもフフッと微笑む。



「僕も・・・大切な弟子と思われてて、嬉しいです」



醜形公爵と呼ばれた魔法使いの隣には、最愛の弟子がいたという。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

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