第96話:冬といえば……
雨あられのように降り注ぐ雪玉を、木陰に隠れてやり過ごす。
一瞬の隙を見て雪玉を投げ返すも、難なく躱されてしまった。
あっという間にシエルとクララ姫の姿が見えなくなり、森にはしんとした静けさが戻る。
動物のような素早い身のこなしに圧倒されてしまう。
「本当にあの二人は隠れるのがうまいな」
「ええ、森の地理を完全に把握しています」
傍らのマロンも硬い表情で呟く。
長い学園生活を過ごし、いよいよ冬休みが始まった。
今はディアボロ邸の森で雪合戦をしている。
チーム分けは、俺&マロン対シエル&クララ姫と決まった。
魔法はなし、というルールなので、互いに隠れては投げ合うシンプルな戦いだ。
戦いが始まってまだ三十分も経っていないはずだが、シエルもクララ姫も森での立ち回りがどんどんうまくなる。
俺とマロンには土地勘があるものの、むしろ翻弄されているくらい。
一度作戦を立て直した方が良さそうだ。
周囲に気を配りつつ、俺たちは小声で相談する。
「マロン、遠距離から雪玉を投げても、あの二人は反応が早いから木陰に隠れて防がれてしまう。だから、近距離戦を挑もうと思うんだがどうかな」
「名案でございます、ディアボロ様。ひっそりと探してみましょう。足跡をたどれば隠れ場所がわかるはずです」
俺とマロンは木陰からそっと顔を覗かせる。
しんとした森は一面の雪に覆われ、絵画のような静けさだ。
目の先20mほどの地面には、いくつもの足跡が見える。
シエルとクララ姫の足跡だ。
微妙に靴の形が違うのでよく見れば判別はできる。
入り混じってはいるが、じっくり観察して移動先の方向が検討ついた。
身を屈めながら、マロンと一緒にじりじりと奥に向かって進む。
10mほど近づいたところで異変を感じて俺たちは動きを止めた。
木からはみ出た赤い布切れが見える。
……クララ姫のマフラーだ。
隣のマロンを見ると、無言でうなずいた。
右と左から挟み撃ちすることにして、右に左に分かれる。
〈雪玉袋〉(雪玉を解かさずしまっておける魔道具の袋)から雪玉を取り出し……!
「「……あれ?」」
木陰には誰もいなかった。
クララ姫の赤いマフラーがぺたんと置かれているだけ。
ちょうど端っこが前から見えるように…………しまっ……!
「「うひゃあああっ!」」
背中に雪玉を入れられ、俺とマロンは悲鳴を上げる。
振り返る間もなく、誰がやったのかよくわかった。
シエルとクララ姫の声が聞こえる。
「見事に引っかかってくれたわね」
「シエルさんの作戦がうまくいきました」
「「ぐぎぎ……」」
どうやら、俺たちの作戦はお見通しだったようだ。
タオルを貸してもらい背中を拭く。
ということで、シエル&クララ姫チームの勝利で雪合戦は終わった。
身体を拭き終わったところで、シエルが俺の手を引いた。
「ディアボロ、ちょっとこっちに来て。あなたに見せたいものがあるの」
「見せたいもの?」
「ええ、みんなと一緒に作ったのよ」
マロンもクララ姫もなんだかニコニコしている。
なんだろうな。
楽しみだ。
三人と森を抜けると、それは姿を現した。
みんなが手を広げて紹介してくれる。
「「じゃじゃーん! 私たちの自信作でーす!」」
「こ、これは……!」
俺を模した等身大の雪だるま。
木の実でできた目に枝でできた口が、にこりと楽しそうに笑っていた。
見ているだけで胸がいっぱいになり、自然と言葉が口をついて出る。
「ありがとう……みんな。…………すごく嬉しいよ」
ゲームの世界でも冬は寒い。
だが、みんなの心の温かさを感じる一日だった。
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