第91話:スタンピード
モンスターはまだ遠方にいるが、数え切れないほどの数だ。
しかも、目に映るだけでアイアンゴーレムや雷鳴バード、病毒ウルフ……などなど、どれもAランクの強敵ばかりだった。
これは単なるスタンピードではないというわけか。
シエルが厳しい声で言う。
「ディアボロ、どうする!? あんな数のモンスターが攻め込んできたら学園は大変よ! かといって、魔族もまだいるし……」
スタンピードも問題だが、今は”魔族教会”の襲撃も受けている。
両方とも無視できない脅威だ。
「ここは二手に分かれよう。俺とシエルはスタンピードの対処、マロンとクララ姫は学内に侵入した魔族の討伐を頼む」
「「了解!」」
俺が指示すると、マロンとクララ姫は校舎に向かって走っていった。
シエルに重力魔法を使ってもらい宙に浮かぶ。
南側の丘へと急ぐと、一人の先生がいた。
あれは……。
「お主らはここに来ると思っておったぞ」
「「クルーガー先生!」」
学園長のクルーガー先生だった。
俺たちが降り立つと、手を取って迎えてくれた。
「怪我はないかの」
「俺たちは大丈夫です。でも、学校が……!」
「なに、学校は大丈夫じゃ。みな優秀な先生、そして生徒じゃからな」
クルーガー先生は落ち着いた様子で話す。
その顔には、学園の生徒や先生たちに対する全幅の信頼が垣間見えた。
学園長としての威厳を感じるようだった。
「さて、他の先生たちはみんな学園で戦っておる。魔族、そして”魔族教会”の教会員どもは彼らに任せておけばいいじゃろう。じゃが、問題はこのスタンピードじゃ。これほどのAランクモンスターの群れは、ワシも見たことがない」
「「クルーガー先生でもそうなんですね……」」
やはり、相当なスタンピードということか。
クルーガー先生は硬い表情で語る。
「このスタンピードは人為的なものじゃな。学園の周囲にダンジョンやモンスターの巣はないし、Aランクのみというのも不自然じゃ。おそらく、群れの一番奥に召喚用の魔導具があるはずじゃろう。それを壊せば、大量のモンスターは塵となって消える」
「なるほど、魔導具が……」
「ディアボロ、シエル。お主らが魔導具を見つけ出し破壊するんじゃ。モンスターどもの相手は……このワシがする!」
そう言うと、クルーガー先生の全身から大量の魔力が迸った。
手には杖が転送され、何発もの強力な魔法がモンスターの群れに放たれる。
魔導具を探すなら今だ!
「シエル、重力魔法を頼む! 空から探すぞ!」
「わかったわ! 任せて!」
俺とシエルは空に浮かび、スタンピードの最後方へと急ぐ。
すぐに空を飛ぶモンスターが迎撃に来る。
落雷のごとく強力な雷をまとった雷鳴バード、物理攻撃では一度に10しかダメージが与えられない岩石ガーゴイル、幻を見せて不意打ちを仕掛けてくる幻影グリフォン……。
どいつもこいつも難敵だ。
「シエル、ここは俺が倒す! 重力魔法に集中してくれ!」
「了解! でも、危ないと思ったらすぐ教えて! 援護するから!」
たしかに敵は強力で多い。
だが、俺も……俺たちも、ずいぶんと強くなったんだ。
魔力を練り上げ、モンスターに向かって放つ。
「《闇の翼竜》!」
闇属性の魔力で生み出された全長8mほどの巨大なワイバーンが、飛行型モンスターに向かった。
ブレスを吐き、鋭い爪で切り裂き、込めた魔力が消えるまで敵を倒し続ける。
空中戦はこいつに任せて、俺は召喚の魔道具を探す。
魔導具なら大量の魔力がこもっているはずだ。
「《闇の瞳》!」
魔力を可視化する魔法を発動するが、モンスターたちの表面は魔族と同じように魔力の層で覆われており、重なり合って視野が悪すぎる。
まるで、俺の魔法対策のようだ。
必死に地上を探っていたら、シエルが俺の腕を掴んだ。
「ディアボロ、私に考えがあるわ。この辺り一帯のモンスターだけ浮上させるの。重力魔法の効果範囲を指定すればできるはずよ。でも、私だけじゃ魔力が足りない。手伝ってくれる?」
「ああ、もちろんだ!」
彼女の手を握り、俺の魔力を分け与える。
シエルは目を閉じて意識を集中したかと思うと、地上に向かって手をかざした。
「《一帯浮遊》!」
眼下300m四方にいるモンスターたちが、一斉に浮き上がった。
宙に浮いたモンスターは身動きが取れず、ジタバタと動くのみだ。
シエルの額には汗が滲み、俺もまた今までよりずっと魔力が減少するのを感じる。
見た目通りのかなり高度な魔法なのだ。
急いで地上を探すと、赤色に光る大きな筒形の魔道具が見えた。
「シエル、あれが魔道具だ!」
「で、でも……このモンスターたちが……!」
「俺に任せろ。……《闇の大嵐》!」
『『グギャアアアッ!』』
台風のような魔力の大嵐を引き起こす。
モンスターは超高速で回転し身体が引きちぎられ、無数に降り注ぐ魔力の針で全身を刺され、次々と倒された。
俺とシエルは地面に降り立ち、魔道具の近くに駆け寄る。
5mくらいはある細長い筒状の形で、上半分は半透明の赤いガラスでできている。
その表面には魔法陣が刻まれており、授業で習った召喚術と同じ類だった。
座学もしっかり勉強しておいてよかったな。
「後はこれを壊しておしまいね」
「ああ、結界が張られているようだが、俺とシエルならすぐ壊せるだろう」
「一緒に魔法を使って壊しましょう」
二人で同時に攻撃しようと魔力を練り上げたとき、突然地面から刀が現れ、切っ先がシエルの首筋目掛けて飛んでくる。
急いで彼女を抱え、横に飛んで躱した。
「シエル、大丈夫か!?」
「え、ええ、いったい何があったの……」
「どうやら、魔道具の守護兵がいたようだな」
地面から硬そうな手甲と籠手に覆われた手が這い出て、刀の持ち主が姿を現す。
鬼の面を被った赤い鎧武者。
Sランクモンスター、鬼武人が現れた。
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