第88話:当日
「では、皆の者。お待ちかねの時間じゃ。今ここに……"文化体術総合競技会”の開催を宣言する!」
広い校庭にクルーガー先生の声が響くと、生徒たちの歓声が沸いた。
今日から"文化体術総合競技会”が始まる。
準備をしていると、あっという間に当日を迎えてしまった。
空は晴れ渡り雲一つない。
なんだか天気も祝してくれているようだ。
出し物……というかシンボルは、学年ごとクラスごとに分けられ、校庭や校舎の前に並ぶ。 ざっと見たところ、俺たちのように何かの像を作ったグループはいなかった。
美しい風景画や、魔力を込めると動くからくり動物……どれも独自性があって楽しい。
中でも多いのはご飯関係の出店だ。
分厚いステーキや高級フルーツの盛り合わせ、香り高いハーブティーなどなど……。
一般的な高校だと、焼きそばやたこ焼きなどがメインだろうが、いわゆる庶民的な料理は一つもなかった。
さすがは貴族学園といったところか。
楽しそうだな~と眺めていたら、シエルにぐいっと手を引かれた。
「ぼんやりしている暇はないわよ。彫像の前でアピールしてもらわないと」
とは、シエル。
「皆さんにディアボロ様の再現性を確かめていただきましょう」
とは、マロン。
「この彫像を見れば、よりディアボロさんの良さが伝わるはずですわ」
とは、クララ姫。
三人の女性たちは、達成感のある大変に爽やかな表情であらせられる。
結局、俺の彫像は剣を構えた凜々しいポージングで決まった。
辛い日々を過ごしてきたものの、せめてまとも格好となったは不幸中の幸いか。
すっかり常備するようになったハンカチで汗を拭う。
アプリカード先生曰く点数が入るらしい。
自信満々の三人には悪いが、あまり高得点は期待できなさそうだ。
先ほど見渡した限りでは、彫像を作ったグループは見えなかったが、一つだけあった。
俺たちのすぐ隣に。
しかも、その像は……。
「俺のグループのシンボルは…………俺だぁぁぁあ!」
バッドが台に乗り、一人で諸々のポーズを決める。
あろうことか、己自身がシンボルのようだった。
大声で叫んではポージングをかますバッドに対し、彼のグループメンバーとおぼしき生徒たちは半ば諦めた様子で佇んでいた。
四人で苦笑いしていると、後ろからガシッと肩を掴まれた。
「おい、ディアボロ。"文化体術総合競技会”の間は私の隣にいろ。いいか? "文化体術総合競技会”の間は私の隣にいるんだ。大事なことだから二回言った」
「ソ、ソフィーッ!」
ゲーナ山岳での登山演習以来、久しぶりの再会だ。
”オートイコール校”も参加することは知っていたので驚きは少ないが、普段合わない仲間と会うのは気分が上がる。
シエルたちも同様のようで、ソフィーとの再会を喜んでいた。
ソフィーはひとしきり話すと、キリッとした険しい顔つきに戻り、俺の方を向いた。
「お前もそのつもりだろうが、文化祭は余興に過ぎん。本番は体育祭の日だからな。私はたかが祭りでも決して手を抜かない。お前も全力で戦え」
「わ、わかってるよ。もちろん、全力で戦うさ」
体育祭と聞いたときから、ソフィーにはこんなことを言われるだろうなと、なんとなく想像していた。
だが、思ったよりガチな雰囲気で言われちょっと怖じ気づいてしまった。
マロンがウキウキと嬉しそうに言う。
「私たちも色々と見て回りましょう」
「そうだな。せっかくのお祭りだし」
何はともあれ、俺たちもイベントを楽しむことにする。
他生徒や先輩たちのシンボルを眺めて回る。
近くで見ると、遠目で見えなかった物がたくさんあった。
学園で印象深かった出来事を記した魔法の絵本や、学園全体の詳細な立体地図、学食の人気メニューの変遷など……本当に多種多様なシンボルがある。
眺めるだけでも楽しいな。
しばらく歩くとモニカ先輩に出会った。
相変わらずのゴーグル姿だ。
「「モニカ先輩、こんにちは」」
「うむ、よく来たな、ディアボロ氏一同。楽しんでいるか? 当方は二回目だが、今年は昨年以上に素晴らしいシンボルが完成した。当方のシンボルは……これだ!」
四人一組なのにモニカ先輩は一人でシンボルを作っており、しかも内容は先生たちの日々のミス(授業の時のちょっとした忘れ物とか)をまとめた一覧表で、通りがかったアプリカード先生にものすごく怒られていた。
飛び火する前に退散すると、デイジーを見つけた。
俺たちに気づくと、笑顔で手を振ってくれる。
「ディアボロ君っ! みんなも!」
デイジーのグループはアイスの屋台だ。
生徒の行列ができるほどの大人気でなんだか嬉しくなる。
アルコル師匠ことコルアルは屋台のすぐ横に陣取り、数分いただけで三回ほど横入りしておかわりを買っていた。
俺たちもアイスを買いベンチに座って食べる。
「「じゃあ、いただきま~す……おいし~い!」」
ペロリと舐めると、爽やかなオレンジの味が口いっぱいに広がった。
やっぱり、デイジーはアイス作りの才能があるらしい。
隣でアイスを食べるみんなを見る。
シエルはブルーベリーとイチゴの鮮やかなミックス、マロンは真っ赤なサクランボ、クララ姫はシンプルなバニラだった。
思い思いの好みが垣間見えるな。
俺もまた、アイスを舐めながら毎日を思う。
ディアボロに転生してから、俺は本当に幸せな日々を送っている。
――これからもずっと続いてほしいな……。
たぶん、断罪フラグに伴う命の危機は完全に消えることはないと思う。
それでも、俺はシエルやマロン、クララ姫……このゲームのみんなと一緒にいたいのだ。
そこまで考えたところで、ふとシエルが空を見ながら呟いた。
「ねえ、なんだか空が暗くない?」
「「空が……?」」
俺たちもまた空を見る。
突き抜けるような晴天が少しずつくすみ、灰色、そして夜のような黒色へと変わりつつある。
他の生徒たちも異変に気づいたらしく、みな固唾をのんで空を見守る。
こ、これは何が起きているんだ……。
さらに異変はそれだけでなかった。
上空から何体もの人型のモンスターが舞い降りる。
……いや、モンスターじゃないかもしれない。
背中からは羽が、頭から角を生やした歪な人間だ……。
どこからか、生徒の叫び声が轟いた。
「「あ、あれは……魔族じゃないか!?」」
その言葉を待っていたかのように、人型は学園に激しい攻撃を仕掛けてきた。
そこかしこが爆発し、生徒の悲鳴が上がる。
楽しい雰囲気は瞬く間に消え失せ、代わりに混乱状態のパニックが訪れた。
誰に言われなくても、どんな状況なのかはわかる。
……"魔族教会”が攻めてきたのだ。
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