第85話:久しぶりの実家と家系図
「お帰りなさいませ、ディアボロ様、シエル様。このラウーム、お会いできるのを楽しみに待っておりました」
「ありがとう、俺も会いたかったよ」
「私もよ」
ラウームは、俺とシエルの荷物を回収してくれる。
目の前に広がるのは広大な庭と、重厚で大きな建物。
久しぶりのキングストン家だ。
家系図の確認について話すと、シエルもぜひ見たいということで一緒に来た。
マロンも荷物を持とうとしていたが、ラウームに断られていた。
「マロンはディアボロ様と一緒にいなさい。この荷物は私が運んでおくから」
「で、でも……」
「いいから。今日は休みだろう?」
親子の微笑ましいやりとりに、心がほんわかとする。
シエルもまた温かい目で二人を見るので、俺と同じような心境なのだろう。
結局、荷物はラウームが運んでくれることになった。
さて、いつまでものほほんとしているわけにはいかない。
五大聖騎士の末裔について、家系図を調べなければ……。
この時間なら、父上は執務室にいるはず。
本邸へと足を運び、父――グランデの執務室へ進む。
シエルとマロンを見ると、真剣な顔でこくりとうなずいた。
なるべく余計な刺激にならないよう、控えめにノックする。
「ディアボロでございますが……」
「……入れ」
相変わらず重厚な声音が聞こえ、俺は扉をゆっくりと開ける。
一番奥の大きな机で、父上は書き物をしていた。
「父上、お仕事中失礼いたします。お願いがあってまいりました」
「……そうか。頼みとはなんだ?」
ドキドキと話しかけると、父上は俺を見た。
猛禽類のような鋭い目に、さらに一段と心臓が強く鼓動する。
父上との関係はだいぶ改善されたはずだが、まだ緊張するんだよな。
威厳がありすぎるのだ。
目つき自体は厳しいものの、憎しみなどの悪の感情は見えない。
この世界でディアボロとして過ごすうち、父上の感情みたいなものもわかるようになった。
「キングストン家の家系図を見せていただけませんか?」
「家系図を? なぜだ」
父上は手を止めて俺を見る。
どう説明しようかな、とちょっと迷った。
五大聖騎士の末裔と噂されている……って、話してもいいのかな。
あまり余計なことは話さない方がいいのでは……。
学園の課題とか言って誤魔化そうか。
俺は内心悩んでいたが、シエルとマロンは誇らしげに父上へ話した。
「ディアボロは五大聖騎士の末裔なんじゃないか、という噂が流れているのです」
「学園中、ディアボロ様の噂で持ちきりでございます」
「……どういうことだ?」
父上は疑問の表情を浮かべる。
下手に隠すより正直に話した方がよさそうなので、グリンピアや石版の件を話す。
喋っているうちに話は広がり、ドーイラルの襲撃事件など、ここ最近の学園生活も一緒に話した。
忙しいだろうに耳を傾けてくれた父上に嬉しくなる。
「……という次第でございまして、念のため俺……私たちキングストン家の家系図を確認させていただきたいのです」
「ふむ、キングストン家に五大聖騎士の血が流れているとは我輩も聞いたことがないが、確かめてみる価値はあるな。地下倉庫の東の隅に置かれた棚。そこに家系図はある」
「ありがとうございます、父上。それでは、失礼いたします」
これ以上仕事を邪魔しては悪い。
シエルたちと一緒に部屋を出ようとしたら、父上に呼び止められた。
「待ちなさい、ディアボロ」
「何でしょうか、父上」
足を止めて振り返る。
父上はしばし黙っていたかと思うと、厳かに告げた。
短くも喜ばしい言葉を。
「変わらず頑張っているようだな。……これからも頑張りなさい」
「はい!」
力いっぱい返事する俺を、シエルとマロンは嬉しそうに見ていた。
執務室を出て地下倉庫に向かう。
父上に褒められたからか、足取りは軽く気持ちも明るかった。
家系図はすぐに見つかった。
ご先祖様の繋がりが縦に描かれた、一般的な家系図だ。
中央に置かれたテーブルに広げると、シエルとマロンも覗き込んだ。
俺の名前、父上の名前……と家系図をたどる。
一番上まで注意深く確認したが、五大聖騎士の名前は一人もなかった。
なんだか安心してホッとひと息つく。
「やっぱり、俺は五大聖騎士の末裔じゃなかったな。石版の文言は間違いだったんだよ」
「そんなはずはないんだけど……」
「腑に落ちない感じがします……」
シエルとマロンは納得できない様子で呟く。
原作ゲームより状況はかなり変わってきたものの、さすがに出自までは変わっていないようだ。
まぁ、当たり前だよな……と思ったとき、ふと脳裏に感じる想いがあった。
――お前がこの世界を守れ……。
高尚な存在の何者か……例えば神様なんかにそう言われている気がする。
あの石版に記された文言の主は、きっと誰でもいいんだ。
この世界が守れれば……。
――何があっても、俺が絶対に大事なみんなを……平和な世界を守る。
そう決心するとともに、俺は自然と気が引き締まった。




