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第80話:潜入、闇オークション

 "エイレーネ聖騎士学園”から馬車に乗り三日、俺、シエル、マロンは南の大都市ドーイラルに到着した。

 天候に恵まれたこともあり、予定より早く着けたのだ。

 事前に学園からもらった地図を頼りに街の一角へ歩を進めると、巨大なギルドを思わせる建物の前に出た。


「ここが闇オークションの会場か。結構人がいるなぁ」

「意外にも、みんなきちんとした格好の人が多いわね」

「もっと粗雑な雰囲気かと思っていました」


 重厚な木造で、地上三階建て。

 クルーガー先生たちに教えてもらった情報では、この建物が会場とのことだ。

 黒いジャケットやカチッとしたドレスを着た男女が次々と馬車から降りる。

 やはり、ここで間違いないようだ。

 ちょうど日が暮れ始めた時間帯で、辺りは魔灯が煌々と輝く。

 歩きながら街の様子もざっと確認したが、この周囲だけやけに物々しい。

 剣や斧で武装した男どもや、怪しげな女たち……。

 戦闘が始まる前に似た緊迫感が周りを包む。

 "深淵の聖水”とは別に、貴重なアイテムがたくさん集まるからだろう。


「フォルトがいないか、探しながら会場を進もう」

「了解。見つけたらすぐ知らせるわ」

「承知しました。私も目を皿のようにして周りを注意深く見ます」


 俺たちは気持ちを整え、建物の扉へ向かう。

 脇には筋骨隆々の男が二人構える。

 おそらく、用心棒だろうな。

 扉も分厚そうな鉄でできており、部外者は拒絶するという意志が痛いほど伝わった。

 闇オークションなんて前世でも今世でも初めてなので、緊張しつつも楽しみだ。

 そっと扉を押そうとしたら、男たちが行く手を阻んだ。


「おい、待て。ガキが何の用だ」

「冷やかしならお断りだぜ。さっさと帰れや」

「入場証ならある」


 懐から一枚の紙を出すと、男たちの表情が変わった。

 ドーイラルの闇オークションに参加するには、裏ルートでしか入手できない入場証が必要だ。

 これも学園側が用意しておいてくれたので、問題なく提示できる。

 たしか、担当はサチリー先生と聞いたが、いったいどうやって入手したんだろうな……。

 いや、考えるのはよそう。

 サチリー先生のマッドサイエンティストな笑みが脳裏に浮かぶから。

 入場証を見ると、男たちは丸いナンバープレートを一枚ずつくれた。

 俺が49で、シエルが50、マロンが51。

 これを見て、オークショニアは入札者を判別するのだ。


「まったく、ガキに闇オークション見せるなんてどんな教育だ。親の顔が見てえわ」

「あまり長居すんじゃねえぞ。夜更かしは成長に良くないからな」


 小言を言いながら扉を開けてくれる。

 なんか良い人たちだった。

 何はともあれ、建物の中に足を踏み入れる。

 扉を開けるとホテルのロビーみたいな空間が出迎えた。

 磨き上げられた大理石の床、天井から吊されるは何個もの豪奢なシャンデリア、壁には芸術的な西洋絵画がかけられ、さながら一流ホテルだな。

 中には俺たちと同じような服装をした、金持ちそうな人が何人も行き交う。

 いかにも貴族風な中年夫婦や、商人の出で立ちをした恰幅のいいオジサン……。

 互いに談笑するも、話し相手を見るその目は鋭かった。

 その光景をみて、シエルがボソッと俺に話す。


「なんだか、みんな怖くない? もしかして……"魔族教会”の人たちかしら……」

「オークションの駆け引きをしているのさ。さりげない会話から、相手がどんな品を買いたいのか探っているんだよ」

「「なるほど……」」


 実体験の代わりに、前世で得た漫画や映画の知識を話す。

 俺はオークションなんて、リアルもネットも参加したことがない。

 なぜなら逆に損しそうだから。

 入り口で部外者は弾くためか、表より武装した人間は少ない。

 それでも所々、武器を携えた男や女がいるので、どことなく緊張感が漂う。

 時計を見ると、オークション開始まではまだ時間があった。

 シエルとマロンをロビーの端っこに連れて行き、支柱の影に隠れる。


「フォルトがいないか一度確認してみよう。……《闇の暗黒小犬》」

「「あら、可愛い小犬」」


 こっそりと、《闇の暗黒犬》の小型バージョンを生成する。

 なぜかポメラニアンみたいになっちゃった。

 フォルトの匂いは魔法に記憶されているので、もしここにいれば反応があるはず……。


「……どうだ?」

『きゅぅ……』


 暗黒小犬は残念そうに首を振る。


「……ここにはいないか。出てくるのを待つしかないかな。念のため、暗黒小犬は発動したままにしておこう」

「そうね。警戒を怠らないようにしましょう」

「でも、目立ってはいけませんから難しいですね」


 ジャケットに隠すように暗黒小犬をしまい、俺たちは奥の地下階段を進む。

 赤いレッドカーぺットが敷かれた、幅の広い階段だ。

 入場証の案内によると、この先が本会場となる。

 階段を降りると、すぐコンサートホールみたいな大きな講堂に着いた。

 全体が見渡せる後ろの席に座る。

 壇上にはシックな赤い暗幕が下ろされ、ちらほらと参加者が集いつつあった。

 椅子に座ると喉の窮屈さを感じ、思わず指でシャツを動かす。


「しかし……やっぱり、こういう服は落ち着かないな。願わくば、早く着替えたいよ」 

「ディアボロの格好はよく似合っているわよ」

「完璧に着こなしてらっしゃいます」

「そうか? それならいいんだが」


 闇オークションにもドレスコードがあるらしく、俺たち三人は正装で訪れた。

 俺は黒のタキシード。

 シエルは上品な濃い青のドレスで、マロンは落ち着いた焦げ茶色のドレス。

 二人の方が完全に着こなしていた。

 育ちがいいからだろう。

 マロンが辺りを見ながら、俺たちの耳元で静かに話す。


「それにしても、学園の先生たちはどちらにいらっしゃるのでしょうか。まだお姿を拝見していませんが」


 闇オークションには、アプリカード先生、レオパル先生、リオン先生の三人も来ると聞いたが姿が見えない。

 あまり大人数では目立ってしまうし、フォルトに顔も知られているので、別行動となっていたのだ。


「きっと、どこかに隠れているんだよ。もしかしたら、透明魔法とか使っているかもな」

「先生たちなら心配無用ね。事が起きたらすぐ協力できるよう心の準備をしときましょ」


 次々とホールに来る客たちの顔や、懐にいる暗黒小犬の反応を見ながら待つこと十五分ほど。

 天井の魔灯がいっせいに消され、会場は暗闇に包まれた。

 俺たちは一瞬警戒心が強くなるが、暗幕が少しずつ上がるのを見て、オークションの始まりだと気づいた。

 壇上には焦げ茶色の演台が置かれ、中肉中背の男性オークショニアが立つ。

 四十代半ばだろうか。

 手慣れた雰囲気で拡声導管(この世界のマイクにあたる魔導具)を持と、大きな声で叫ぶ。


「全世界の長者、資産家、富裕層の皆様方ぁ~! お待たせしましたぁ! これよりドーイラルの闇オークションを開会しまぁ~っす!」


 語尾が高くなるような不思議な話し方で、開会を宣言した。

 会場のボルテージは一気にマックスとなり大盛り上がりだ。

 興奮が冷めぬうちに、次々と貴重な出品物が運び込まれる。

 最初は幽霊の模様が彫られた、おどろおどろしいハープだった。


「まぁ~っずは、こちらぁっ! 聞く者を決して目覚めない悪夢の世界に誘う<夢現のハープ>! 世界に二つとない品ですよぉ~っ! 最低入札価格は6000万エニーから! ……はい、23番、7000万エニー! 55番、9000万エニー! 他の方はどうですかぁ~っ!? 107番、1億2000万エニー、い~っただきましたぁ~っ!」


 息する間もなく、座席からどんどん手が上がる。

 1エニー1円なので、とんでもない金額のやりとりが続く。

 俺たちは落札する気はないものの、競りの賑やかな雰囲気は素直に楽しかった。

 闇オークションだからか、いわくつきだったり、グロテスクなアイテムが多い。

 あれよあれよと競売は進み、あっという間に五個目の品となった。

 ガラス瓶に浮かんが一つの目玉だ。


「お~っ次は、こちらぁっ! 世にも珍しい<三つ目人魚の瞳>ぃ! し~かも、大変貴重な真ん中の瞳ですよぉ~! 採取するまでに、数十人の探検家が命を落としましたぁ! 最低入札価格は8000万エニーからぁ~! ……はい、89番、いきなり1億6000万エニーで~っす!」


 ふーん、人魚の目玉か。

 ひときわ金持ちそうな白髪のじいさんが高額入札した。

 初っぱな二倍の金額なので、先ほどまでの勢いは少し弱くなる。

 入札者たちが仲間と相談し合う光景が見えた。

 この辺りも前世と同じで、財布との戦いもあるのだろうな。

 ちょっと微笑ましくなったそのとき……。


「ねえ、ディアボロ、このサインってなに?」


 突然、シエルが親指を上げたグッドサインをした。

 心臓が跳ね上がる。


「こ、こらっ、シエル!」

「50番、3億2000万エニーいただきましたぁ~っ! <三つ目人魚の瞳>大人気だぁ~!」

「えっ、えっ、えっ!? なんで入札されてるの!?」

「それは二倍で入札のサインなんだ!」


 あろうことか、シエルが入札しちゃった。

 しかも3億2000万エニーというとんでもない大金で。

 どうしよ、どうしよ、どうしよ!


「違うんです! 間違いです! 私たちは入札しません!」


 すかさず、マロンが両手を広げて違うとアピールする。

 心臓が跳ね上がる。


「こ、こらっ、マロン!」

「51番、3億7000万エニーいただきましたぁ~! 大盛り上がりありがとうございま~っす! オークショニア冥利に尽きま~っす!」

「えっ、えっ、えっ!? なんで入札されてるんですか!?」

「それは+5000万エニーのサインなんだ!」


 これはさすがにまずい。

 キングストン家は公爵だが、3億7000万はよく考えなくても大金だ。

 しかも、大して欲しくない目玉に払うだなんて……。

 他の誰かが入札してくれることを祈ったが、会場は冷水を浴びせられたように静まりかえる。


 ――……マジか。


 "魔族教会”やフォルトとは別の問題が重くのしかかる。

 ところが、金持ちそうなじいさんが、舌打ちしながらさらに+3000万エニーのハンドサインを示してくれた。

 他の誰も競り合うことはなく、<人魚の瞳>は4億エニーでじいさんがゲットする。

 俺たちの神様だ、あんたは。

 無駄な出費が嵩んでほんとすみません……。

 シエルとマロンにハンドサインの真似をしないようにきつく厳命し、見学と警戒を再開する。

 わいわいと入札者たちが競りに興じる中、シエルとマロンは不思議そうに呟いた。


「魔王の血なんて重要なアイテムを、国の機関に寄付しようとかは思わないのかしら」

「悪い組織……それこそ、"魔族教会”のような危険な組織に渡ったら、この世界そのものに危機が訪れますよね」


 二人の疑問はもっともだが、あいにくと想像がつく。


「きっと魔王の復活なんて、自分たちには関係ないと思っているんだろう。魔王が復活したらオークションどころじゃないのにな……」


 人間は自分の欲望に忠実なものだ。

 俺もまた、己を見失わないように注意しないといけない。

 そう思っていると、オークショニアが一段と大きな声を張り上げた。

 

「さぁ~って、お待ちかねぇ~っ! お次は本日の大目玉! 数百年前、人類を恐怖のどん底に突き落とした魔王の血、<深淵の聖水>だぁ~っ! さぁ~あ、魔王をその手に収めてくださぁい! 最低入札価格は10億エニー!」


 今までのアイテムを運ぶカートよりずっと豪華な台に乗せられ、それは運ばれる。

 悪魔の彫刻が彫られた瓶に納められた黒い液体……。

 このゲームでの最重要アイテム、<深淵の聖水>だ。

 会場は今までで一番盛り上がり、俺たち三人は警戒心がいっそう強くなる。


「いよいよだな……」


 俺の呟きに、シエルもマロンも静かにうなずく。

 無事に誰かが落札するのか、それとも……。

 そう思ったとき、天井が激しく爆発した。

 瓦礫がガラガラと崩れ落ち、何十人ものならず者が会場に降り立つ。

 瞬く間に、悲鳴と怒号が室内を満たした。


「「ディアボロ(様)!」」


 シエルとマロンは叫ぶように言い、暗黒小犬は激しく吠える。


「ああ……"魔族教会”の襲撃だ!」 


 オークション会場は、大混乱に包まれた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


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