第8話:娘とディアボロ様(Side:ラウーム①)
ディアボロ様は暴虐令息だ。
暴言を吐き、殴り、私たちを傷つける。
これほど横暴な人間は見たことがない。
だが、使用人と公爵家の息子では立場が違いすぎる。
どんな辛い目に遭っても、必死に耐えるしかなかった。
……そう、あの日までは。
ある日、ディアボロ様に異変が起きた。
以前のような横暴さは鳴りを潜め、代わりに模範的な優男になられたのだ。
それだけじゃない。
使用人に対しても優しくなった。
言葉遣いは丁寧に、凶暴な目つきは穏やかに、逐一お礼を言う。
さらには、仕事量は減らしたのに給金は上げる。
こんなことはキングストン家初めてだ。
そのような大きな変化があったためか、使用人たちは皆ディアボロ様を慕うようになった。
私以外は。
――人は変わらない。
それが私の持論だ。
だから、ディアボロ様が変わったと言われても、信用できるはずもなかった。
何より、大事なマロンを何度も何度も痛めつけられた。
彼女は私の命と言ってもいい。
マロンは生まれつき病弱だ。
運動すると咳き込んでしまう、謎の病にかかっている。
そんなマロンを、ディアボロ様はあえて苦しめた。
私に任せればいいのに、重い荷物を持たせたり、わざと忘れ物をして走って届けさせたり……。
父として守れなかったのが悔しかった。
私たちの一家は、代々キングストン家に勤めている。
伝統みたいなものだ。
家の事情など考えず、マロンだけは外に逃がせばよかった。
辛い過去があったのに、マロンはディアボロ様を慕っているらしい。
自分の病気を治すため、毎日厳しい修行を積んでいるのだとか。
そんなわけがない。
ディアボロ様は苦しいことや辛いことが大っ嫌いな方だ。
その態度は日々の勉強嫌いにも現れている。
マロンの見間違いだと信じていた。
正直に言うと、ディアボロ様を殺そうと思ったことが何度もあった。
ディアボロ様がこの世からいなくなれば、マロンが苦しむこともなくなる。
娘を守るためならば、私はどうなってもいい。
そう決心しているはずなのに、どうしても実行に移すことはできなかった。
だが、今となってはそれでよかったと思う。
――ディアボロ様が、マロンの病気を治してくださったのだ。
今までどんな薬でも魔法でも治せなかったマロンの病気を。
ほんの一瞬で。
ディアボロ様は、本当に修行を積んでいたのだ。
あの“死導きの魔女”を師匠において、キングストン家に代々伝わる“超成長の洞窟”にこもって……。
にわかには信じられないことばかりだ。
元気に走り回るマロンを見て、胸にあふれる思いがあった。
こんな光景を見られる日が来るなんて……。
涙を堪えるのに精いっぱいだった。
しかし、やはり信じられない自分がいた。
闇属性の回復魔法。
世界の常識で、そんなのは不可能だ。
できるわけがない。
マロンに何をやったのか、この身で確かめることにした。
結果、体感してわかった。
その黒い光に包まれた瞬間、得も言われぬ心地良さに身体が包まれる。
肩の痛みが消え、腕が自由に動かせるようになった。
やはり、本当に回復魔法なのだ。
不可能を可能にするとは……。
ディアボロ様は常識、周知の事実……そういった物を、壊してしまった。
規格外過ぎて笑ってしまう。
そして、五十肩の治癒以外に、私の身体は少なからず影響を受けていた。
妻を亡くし、久しく忘れていた感覚……。
願わくばもう一度体験したい。
だが、私は健康になってしまった。
怪我でもすれば、またディアボロ様に癒していただけるだろうか。
逆に、正直に伝えた方がいいかもしれない。
あの快感が忘れられませんと。
いや、私の事情は関係ない。
マロンの病気を治していただいたのだ。
ディアボロ様は本当に変わられた。
これはもう疑いようのない真実だ。
もう以前の暴虐令息ではない。
ディアボロ様が変わられたのであれば、私はこの先もずっと仕えようと思う。
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