第79話:情報
「最深部まで到達するなんて、やっぱり君はすごい人だね。さすがはディアボロ」
「ディアボロはあのモニカ先輩と共闘したんだって? 上級生と一緒に戦うとはやるなぁ」
「ねえ、ボスのフィクサー・シャドーってどんな形だったの? 怖かった?」
グリンピアの調査から学園に帰還して数日後。
教室に入るや否や、一年生の面々に土産話をせがまれる毎日を送っている。
霊気猫などの特別なモンスターやシャドー、遺跡の数々の罠など話はつきなかった。
もちろん俺だけでなく、シエルやマロン、アルコル師匠、デイジーにバッド……調査隊に選ばれた生徒はみな注目の的だ。
デイジーはいつも目立たないが、調査隊に選ばれたことで普段よりたくさんの生徒に囲まれている。
「君は結構な実力者だったんだな。というより、成績もいいからそれは当たり前か」
「"魔脱”の中で戦うなんて大変だったろうに」
「シャドーに襲われても逃げ切れたんでしょう? 私なら絶対無理」
「そ、そうだね。でも、私より最深部まで行ったディアボロ君の方がずっとすごいから……」
デイジーは男子にも女子にもわいわいと囲まれ、照れながらグリンピアでの調査を話す。
入学当初は目立たない生徒の一人だったが、今や一目置かれる存在となった。
教室の一角からは、男の図太い声が響く。
「おい、お前ら、俺にも聞けよ! ……しかし、霊気猫はマジで強かったな。《腐敗球》っていう身体を腐らすブレスが得意技なんだが、俺は《氷の鎧》でどうにか防いで……」
特に、バッドは一番得意げに話すのだが、彼の周りだけやけに人が少なかった。
アルコル師匠は爆睡しているので、そもそも誰とも話していない(後から聞いたら、アイスが食べたくて勝手に帰ったらしい)。
グリンピアの攻略は結構大変だったものの、みんなで楽しく話すと頑張って良かったと強く思う。
みんなで楽しく話す中、アプリカード先生が教室に入る。
「みなさん、おはようございます。席についてください。授業が始まりますよ。今日の課題は……」
興奮の余韻を残したまま、生徒たちは席に着く。
何はともあれ、いつものように学園での尊くて楽しい日々が始まるのだ……。
□□□
「さて、授業はおしまいですが、ディアボロさんは残ってください。お話があります」
「えっ……」
授業が終わると、アプリカード先生が言った。
この頃になると、俺が名指しで何か先生に言われるたび、教室は二つの反応に分かれた。
また特別なことを頼まれるんだろうな、相変わらずすごいヤツだ……と、あいつ、また何かやらかしたのか? ……の二つだ。
できれば目立たないのが一番なのだが、下手に恐怖されないだけでもまだマシかな。
「詳細は学園長から伝えられますので、学園会議に参加してください」
「な……ん、ですと……」
……マジですか。
あろうことか、学園会議への参加を求められた。
俺なんかしたっけな……。
急激に不安になってきたんだが。
教室は、あいつ何かやらかしたな……とある種の冷やかしモードが強くなる。
「あと、シエルさんとマロンさんも一緒に行ってください」
その言葉でホッとひと息つけた。
二人の名前を聞いて、教室の反応も落ち着く。
シエルと一緒に参加したことはあるけど、マロンも一緒なのは初めてだ。
「私たちに何の用かしらね」
「学園会議なんて緊張します」
「もしかしたら、グリンピアの石版に関する話かもしれないな」
その可能性は十分にあった。
学園をあげて調査の真っ只中だろうし。
だとするとありがたい。
石版の内容が変わってないかチェックしたいな。
そんなことを考えながらシエルたちと大会議室へ行き、扉をノックする。
「「失礼しまーす」」
叩いたら自然に開いて、俺たちを迎え入れてくれた。
いつものように十二人の先生たちが半円の円卓テーブルに座する。
「おっ、噂をすればじゃな。ディアボロ、マロン、シエルよ。こちらへ来てくれ」
「「はい」」
クルーガー先生の顔もなんだかなじみ深くなってきた。
緊張した様子のマロンと、落ち着いた様子のシエルとともに前に進む。
シエルは一回来たからもう平気らしい。
度胸のある女性だ。
「忙しいところ悪いの。本題に入る前にリオン先生が少し話したいそうじゃ」
そう言うと、リオン先生が席を立った。
「改めて、グリンピアの調査お疲れ様。最深部までたどり着くなんて、一流の実力者でも難しい。この経験を活かして、これからも成長を続けてほしい。特に、ディアボロ君。君の実力は想像以上だったよ」
「「ありがとうございます、リオン先生!」」
褒められて素直に嬉しくなった。
願わくば、アプリカード先生もこれくらい優しくなってほしいところだ。
あとレオパル先生もね。
リオン先生が座ると、クルーガー先生が口を開いた。
「さて、お主らを呼んだのは他でもない。"魔族教会”とフォルトに関する件じゃ」
その言葉を聞き、俺たち三人は自然と背筋が伸びる。
グリンピアではなくこちらの話だったか。
石版と同じか、それ以上に大事な話だ。
「お主らはドーイラル、という街の名を聞いたことがあるかの?」
「たしか、エイレーネ王国の南にある大都市ですよね。俺はまだ行ったことがありませんが」
「「私たちも知っているのは名前くらいです」」
――南の大都市、ドーイラル。
学園から馬車で四日ほどか。
交易の盛んな港が栄えた街で、人も物も往来が激しい。
豊かで賑やかな街なのだが、実は海賊出身の人間も多く住んでいる。
アングラな人間が多数いるためか、地下には違法なマーケットや闘技場が広がる……という設定だった。
「ここのところ、ワシらは"深淵の聖水"の行方を探っておったんじゃ」
「「え……"深淵の聖水"を……?」」
「そうじゃ。言わずと知れた、魔王復活に必要不可欠な素材じゃよ」
俺もシエルもマロンも、互いに顔を見合わせる。
まさか、ここでその名を聞くとは。
"深淵の聖水”とは、要するに魔王の血だ。
クルーガー先生の言うとおり、魔王復活の核となる素材だった。
「"魔族教会”の潜伏場所を探すより、魔王復活の素材を探した方が確実ということですね? 必ず奪いに来るから……」
「そういうことじゃ。ディアボロは頭も切れるの。調査を進めた結果、"深淵の聖水”は次の満月、ドーイラルで開かれる闇オークションに出品されることがわかった。どうやら目玉らしく、その筋の情報では大々的にアピールしておるわ。無論、"魔族教会”も知っているはずじゃろう」
闇オークションで出品か。
作中ではもっと終盤に、西の大洞窟で発見されるはずだが……。
やはり、色々とシナリオが変わっているようだ。
「そこで、お主らには二つのことを頼みたい。闇オークションに潜入し、"深淵の聖水”を守ること、そして"魔族教会”及びフォルトの確保じゃ。当日は先生たちも同行するが、お主らにも頑張ってほしい。……どうじゃ、やってくれるか?」
無論、俺の答えは決まっている。
シエルとマロンの顔を見ると、二人とも力強くうなずいた。
「ええ、もちろんです。"魔族教会”の企みは、俺たちが絶対に防ぎます」
フォルトに"魔族教会”……。
俺たちの平穏な日々を乱そうとする輩たち。
ここで決着をつけたいところだ。
人知れず、俺は硬く拳を握った。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】
少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。
★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!
ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。
どうぞ応援よろしくお願いします!




