第78話:当方の眼(Side:モニカ①)
ディアボロ・キングストンという名は、当方にとって最も忌むべき名であった。
当方が視力を失い、常にゴーグルを装着する一因となった男だ。
徐々に視界の隅が暗くなり光りが消失する……あのときの光景は今でも鮮明に覚えている。 キングストン家とラブロック家の間には溝が生まれたが、多額の慰謝料を支払うことで決着がついた。
当方の両親は納得できなかったようだが、キングストン家は国内有数の大貴族。
それ以上追及することは不可能だった。
其の方が"エイレーネ聖騎士学園”に入学したと聞いたとき、当方は関わらないことを決意した。
今さら謝罪など要らない。
ゴーグルでの生活は慣れたし、当方は一生このままなのだと覚悟していた。
関わらないことを決意したが、其の方と接触する日が訪れた。
古代遺跡グリンピアの調査。
奇妙にも、国内最高峰の難易度を誇る遺跡の攻略で、其の方とおよそ十年ぶりに相対することになった。
調査の当日、アプリカード氏から其の方は改心した旨を伝えられた。
暴虐ぶりは鳴りを潜め、懸命な努力家になったと……。
アプリカード氏が騙されているのだろう、としか考えられなかった。
グリンピアに足を踏み入れた後も、ついぞ変わることはなかった。
其の方に救われるまでは。
第七層まで到達したとき、当方はシャドーによる操作魔法の手に落ちた。
有無を言わさない強力な魔法だった。
当方に解除することはできず、このまま傀儡となり朽ち果てる運命かと思った。
だが、救い主が現れた。
そう……其の方だ。
なるべく当方を傷つけないよう立ち回り、シャドーを破壊。
操作されぼんやりとした頭でも、其の方の戦いぶりは認識できた。
圧倒的な実力だと。
シャドーの破壊が完了すると、其の方は当方の元へ近寄った。
当方の傷と眼を治させてほしいと言う。
闇属性で回復魔法を習得したとも。
――何を言っているのだ……。
それが素直な感想だった。
当方は断る。
とうてい信じられなかった。
だが、其の方が続けて言った言葉に、当方は胸を打たれた。
「ゴーグル越しではなく、あなたの目にたくさんの素晴らしい光景を見せてあげたいのです。今まで見られなかった分を取り返すくらい……」
その言葉を聞いたとき、当方の硬く固まった心が解きほぐされるのを感じた。
全て任せることを覚悟し、其の方に身を委ねた。
――もう二度とこの目で世界を認識できることはない。
頭では理解していても、心では諦めきれなかったのだ。
そして、其の方は癒やしてくれた。
当方の身体と眼を……。
ゴーグル越しではなく、直接見える世界。
感動とともに目に飛び込んできた其の方は、文字通り輝いて見えた。
今日この瞬間を、当方は忘れることがないだろう。
幼少期を思い返すと、其の方が当方を森に連れ出したのは……当方のためだった。
病気がなかなか治癒せず、室内に籠もりっぱなしの当方に、外の景色を見せたいと……。
当方もまた寝てなくてはならないのに、其の方の申し出を受けてしまった。
――あの時、其の方が医術師を呼んでくれたから、当方は視力を失う程度で済んだのだ。
対応が遅れはしたが、最悪の結果は免れた。
生存さえしていれば、どんな困難にも打ち勝てる日が来る。
其の方との出会いでそう学んだ。
両親にも当方から話をしておこう。
それと、ゴーグルはこれからも装着するつもりだ。
其の方に心理的な負担を与え続けてやる。
決して、当方を忘れないように。
其の方との間には深い軋轢があった。
だが、今の当方の胸には確かな想いがある。
――ディアボロ氏……ありがとう。其の方のおかげで、当方はこの目でもう一度世界を見ることができる。
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